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筑摩版安吾全集の編集者でもある七北先生による安吾評伝。
200数頁と短く、分量としては日本文学アルバムみたいな感じ。
特にブレイク以前の安吾周囲を十分に掘り崩していあって、
どの時期にどういう人たちと付き合っていたのかがよくわかる。
特に、アテネ・フランセ時代のころが綿密に書いてあるのがポイント高い。
また、自伝的作品にある誇張にもちゃんと触れていて、
作品内ではオーバーアクトをしがちだが、
実生活は情に厚い安吾の姿がよくわかる。
ただ、不満点もあって、
筆者は安吾の文学は「悲しさ」「絶対の孤独」を希求するものであり、
それ以外はすべて余技と切り捨てていること。
戦前~戦後の風俗誌や社会時評を切り取った時代性を評価していない。
評伝として描くのであれば、作品評価の変遷をきちんと章を立てて堀崩すとか、
同時代にどのような評価がされたのかを精緻に抜き出すとか、
自分の好みに偏らないようにするべきじゃなかったのかナ。
この評伝では、安吾全集を読んだ時のような「広い」感じが全しなくて、
もの凄く狭い領域だけを掘り進んでいた、セセコマシイ人物のように見えてしまう。
巻末の付録年表はコンパクトにまとまっていて、使いやすい感じ。
評伝としては十分なレベルだと思わないけど、
ユニークな点、使いやすい点があるので、ブクログでは★三つにしました。