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紙の本

孤独な魂の遍歴

2017/10/11 20:23

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る

1558年~1559年、スペインのバリャドリッドで起きた異端裁判事件を題材にした歴史小説である。

主人公シプリアーノ・サルセドは、誕生後間もなく母を失い、父に疎まれながら育つ。孤独な少年の魂を癒やしたのは、優しい乳母ミネルビーナの存在であった。青年に成長したシプリアーノは彼女と恋人関係になるが、後見人である叔父夫妻に発覚し、破局を迎える。

成人したシプリアーノは商才を発揮し、裕福な毛皮商人となる。やがて妻テオドミーラを得るが、当初の熱が冷めると、2人の間に何一つ共通点が無いことに気づく。夫婦仲は破綻し、子をもうけられない悲哀と焦燥に苛まれたテオドミーラは精神を病んでいく。深い孤独に陥ったシプリアーノは、カサージャ博士と親交を結び、ルター派の教義に魂の救済を求めるようになる。

火刑という無残な最期を迎えるまで、シプリアーノの生涯を覆っているのは魂の孤独である。行き場を失った魂はルターの教えに真実を見出すが、その代償は過酷な異端裁判であった。死を迎えるシプリアーノは、唯一人彼を肉親として愛してくれた叔父イグナシオの計らいで、最期の時に束の間の安らぎを見出す。

骨太で重厚な物語は、一人の人間の孤独な魂を活写する。主人公の心に寄り添いながら、何度も読み返したい。

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