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紙の本
笑いは権威を剥奪する。
2003/06/19 23:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて『エピステーメー』という雑誌があった。確か朝日出版社から出ていたのだが、内容、体裁ともにきわめてアカデミックなもので、『論考』とナイキのレザーコルテッツを天秤にかけて、ためらわずにナイキを選んでしまう(実話)劣等生のぼくは買わなかったが、周囲の哲学科の学生はこれみよがしに小脇に抱えていた。筒井康隆は『エピステーメー』の難解な内容を笑いのネタにしていた。日本語なんだけど意味不明瞭、わけがわからないけど、笑える。隣の席にいたヤツは、コーランのように崇め奉っていた。随分前になるが、ようやく彼が哲学科の助教授になったことを大学で図書館司書をしている友人からのメールで知った。
筒井のような試みを四コマ漫画に革命を起こした(by夏目房之介)いしいひさいちがしているのかとページをめくったら、驚いた。作者の持ち味である権威を徹底的にこきおろす底意地の悪いカリカチュアもさることながら、思想家たちのこなし方が、あっぱれなのだ。
ハイデガーなら当然ナチへの傾倒ぶりを揶揄するだろう思ったらしていた。でも、ここまで、あからさまだとは。ラッセルとウィトゲンシュタインは、まさに天才、天才を知るという例なのだが、ウィトゲンシュタインを大金持のボンボンの変人的扱いには、そりゃそうだなと苦笑してしまった。よーく見てみると、若かりしフーコーはマッシュルームカットなのだ。細けえ!現象学の始祖、現代思想の源流ともいうべきフッサールやカフカ、難解の権化ラカンも作者のペンにかかると、なぜか俗っぽくて、妙にいきいきと感じ取られるのだ。レヴィ=ストロースの交換原理の一例である「未開人の婚姻」を援助交際に落としてしまうあたりが冴えている。ま、援交も交換原理といえなくもないのだが。
ぼくがいちばんおかしかったのは、デリダがカラオケで十八番の「パローレ、パローレ」を歌うコマ。原曲名は『パローレ、パローレ』、ダリダが歌い、アラン・ドロンが語っていた。日本では『甘い囁き』という題名で、中村晃子と細川俊之でヒットした(ネタバレだと感じた人、ごめんなさい)。
本書は元々「『現代思想の冒険者たち』という全集の月報に掲載されていたものに大量の書きおろしを加えた」ものだそうだ。編集部の注も丁寧で適切で、漫画と注の合わせ技1本といった感じ。ふざけているけど、ふざけていない。ただし、情報量は多いので、いちどきには読まないほうがよいだろう。ゆるゆる読むと、思想家たちの理念や相関関係がうっすらながらもわかる。この知の系譜を知るだけでも、随分と違うはず。茶化してはいるが、ただそれだけではない。入門書としても、かなりできが良いと断言してもかまわないだろう。さすが「おもしろくてためになる」がキャッチフレーズだった講談社の本だ。
サルトルだったらボーヴォワールとの夫婦ドツキ漫才とか。マルクスだったらマルクス兄弟とボーイズものとか。バルトの答のない『ちょっと聞いてよ、生電話』、エーコだったら、中世の修道院を舞台にしたホラー漫画仕立てで、呪文は「エーコエーコアザラク」というのはどうだろ。どうもこんな月並みなネタしか思い浮かばない。
紙の本
これを読んで笑って安心しよう。現代思想は難しい。遭難してもいいんです、そうなんです。
2003/03/22 12:12
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投稿者:pipi姫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
みなさまの書評を読ませていただくと、「わかりません」派と「おもしろい」派が相半ばしているようだが、わたしは「わからないけどおもしろい」派である。
だいたい、この漫画一冊読んで現代思想をわかろうなんて思うこと自体が畏れ多い。偉大な哲学者たちを冒涜する行為である(と書くハナから、哲学者のデフォルメ似顔絵が思い浮かんで一人笑ってしまう)。
ここに取り上げられた哲学者(作家も含む)は34人。そうそうたるメンバーだ。もともとのシリーズ「現代思想の冒険者たち」は、しごくまっとうな概説書である。そのまっとうな学術書の付録にこんなふざけた、もとい、楽しい漫画がついていて、こうやって一冊になっているのを見ると、やはりいしいひさいちはただならぬ才能ある漫画家であることがよくわかる。
いしいの持ち味は、ブラックな「くそみそパロディ力」にある。
例えば、フランスの偉大な哲学者ミシェル・フーコーは、こうだ。
(1)「人は頭髪におけるハゲをあってはならぬものとして まわりの毛髪でかくそうとします」(薄い頭部のアップが描かれる)
(2)「しかし毛は抜けてゆき広がるハゲを人々はあわれみの『まなざし』で監視し ハゲている人 そうでない人を分け ハゲを排斥しようとします」
(3)「しかしたとえば 全人類がホモセクシャルであったなら 異端としてのホモは消滅するはずだ」(真剣なまなざしのフーコーのドアップ)
(4)「スキンヘッドにすることで私の『ハゲ』は消滅し 権力からの自由な主体を形成できると考えたわけです」(スキンヘッドのフーコーが登場)。
「そりゃ気にしすぎだよ フーコーくん」(先輩学者の弁)。
うーん、このおもしろさを文字だけで表すなんてまったくナンセンスなんだけど、いしい画伯自身が「わからずに描いている」とおっしゃっているが、わからなくてもちゃんとエッセンスをつかんでいるところがすごい。
そして、漫画に添えられた解説を書いた編集者たちもえらい。ま、このあまりにも短い解説を読んでもさっぱりわからないという読者の方が多いと思うが(わたしもその一人)、それでもキーワードはなんとなくつかめるし、あとは本シリーズの方を読んで勉強すればいいのだ。
いしいひさいちは昔から似顔絵の異才だと思っていたが、今回も、その描かれた学者たちの顔を見ているだけで、誰がどんな思想を唱えたのか、なんとなく頭に浮かんでしまうからおかしい。
1800円は高くないです。哲学事典がわりに座右においてもいいでしょう(って、ほんまかいな)。
紙の本
思想即漫画
2002/06/28 12:44
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投稿者:みゆの父 - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんな本が出てしまっていいのだろうか。史上最強の現代思想解説書。漫画だからって甘く見たら、痛い目に会うだろうけれど、これ一冊あるだけで、何を言っているのかわからない原著を読む必要もないし、これまた何を言っているのか(あまり)わからない専門書を読む必要もないし、これまた何を言っているのか(やっぱり)わからない入門書を読む必要もない。あまたの現代思想家のベールを剥いだソーカル他『知の欺瞞』(岩波書店)に続いて、今度は、あまたの現代思想解説者のベールまで剥がす本が出てしまったわけだ。
考えてみれば、それも当然だろう(多分)。現代とは近代の後、つまりポストモダンだから、現代思想とは近代の後の出現した思考方法だ。その一方で、近代の後に出現した表現方法は、普通はサブ・カルチュアと呼ばれている。その代表が漫画だ。それは、近代を代表する表現方法である本(小説、評論、研究)の〈サブ〉、つまり下に位置づけられてきたけれど、ちょっと考えれば、ポストモダンの思考方法を表現する方法として、これほど適したものはない。つまり、現代思想と漫画は一心同体、表裏一体、絶妙の組み合わせなのだ(多分)。
しかも、現代最強、切れ味抜群、おまけに知識豊富な四コマ漫画家が書いたとあっては、これはもう文句なし。ヴィトゲンシュタインとハーバーマスの一コマ漫画(一五四頁)を見ただけで、二人の思想の違いをわからせてしまうなんて、他の誰ができる芸当だろうか。ついでに、「ポストモダンとかなんとか言っているが、似たような小さなスーパーマーケットが差異化を競っているだけではないのか。フン」(一二六頁)なんて、過激だけれど結構あたっている台詞をジンメルに言わせてしまうなんて、誰が考えつくだろうか。
一刻も早く文庫化して、書を捨てずに町に出られるようにしてほしいものだ。
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