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紙の本
「芥川龍之介妖怪文学館」書評
2002/07/21 09:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小野塚 力 - この投稿者のレビュー一覧を見る
網羅的な芥川選集が多い中、初めて芥川の幻想的な部分に特化した画期的なアンソロジーが誕生した。それが本書「芥川龍之介妖怪文学館」である。
「怪奇小説家」としての芥川という視点で編まれた本書は以下のように構成されている。「口絵 妖怪書帖」「小説の部/怪異編」「小説の部/伝奇編」「評論・随筆の部」「怪談実話の部」。出色は、美しいカラー印刷で甦った芥川直筆の妖怪達の肖像だろう。編者が主張する「明らかに生得のものである」芥川の怪奇趣味が存分に窺われる。全体としてこれまで光が当たりにくかった小説・評論類への積極的な採取が目立つ本書だが、こうして俯瞰すると、怪奇的なものへの芥川の多岐的な興味が窺われる。「解説」においても編者は、近代文学館所蔵「芥川龍之介文庫」(芥川の旧蔵書)の洋書から数々の怪談本にある芥川の書き入れを紹介し、芥川の判断基準に〈怪異の迫真性の有無〉があると指摘する。
芥川の〈怪異の迫真性の有無〉追求の根底にあるもの。それは、人間の普遍的な〈超越性の希求〉への興味である。私見によれば、古代人の絶え間ない〈超越性への希求〉は、作家芥川にとっての怪談と宗教とを等価に結ぶ。怪談・宗教を問わず、非日常的な事物を信じ得る人間の心のメカニズムの解析が、作家芥川の中で絶えず問題意識としてある。この人間の〈超越性の希求〉への興味は、芥川の一生を貫く作家的興味といえる。こうした芥川の作家としての基本原理も本書所収の作品群からみることができる。
従来、キリスト教やA・フランスらとの関わりから解読されることの多かった芥川であるが、非日常的要素への憧憬という観点から編まれた本書が起点となり、作家として新しい評価軸が付与されることを節に願う。
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