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中国には、闘鶏・闘犬のように、蟋蟀(コオロギ)を闘わせて楽しむ文化があるという。称して闘蟋。本書はその闘蟋に自身、魅せられた著者が、その歴史、用具、現代の闘蟋にまつわるあれこれを、何度も中国に足を運びつつ追っている。日本ではこのような風習がないため適当な訳語がなく、「闘蟋(とうしつ)」というのは中国での呼称をそのまま音読みしたものである。いやはやすごい。よい雄コオロギの選び方、飼育上の注意(秋口と晩秋では水飲み皿の深さを変えるとか!)、病気の治療法、(闘争心をかき立てるのに雌コオロギと交尾をさせるのだが)よい雌コオロギとは何かなど、細々とした注意点が延々と綴られた飼育マニュアルが何冊もあるのだとか。中国四千年の歴史の中で、闘蟋の歴史はなんと千二百年を数えるという。コオロギを飼っているのかコオロギに飼われているのかわからないほど、手間をかけてコオロギの世話をする男たち。小さいながらも意匠を凝らした美術工芸品ともいえる飼育用具。闘蟋文化を持つのは中国だけだそうだ。賭博の対象になることもあるからか、中国人の間でもよいイメージばかり持たれるわけではないようだが、これは1つの立派な文化だろう。カーチャさんご紹介の本でした。ありがとうございます。*西太后のエピソードがおもしろかった。闘蟋は普通、男の遊びだが、西太后も闘蟋を好んだという。あるとき、雄コオロギと見せかけて雌コオロギが献上され、西太后は烈火のごとく怒った。これは西太后の通称「慈禧(シーツー)」と雌コオロギ「雌蟋(シーツー)」の音が同じであり、西太后も雌コオロギも女だてらに土俵(政治の舞台)に上がって闘うなとの痛烈な批判だったのだとか。ずいぶん高度な洒落だ・・・。