紙の本
コレクターズ・アイテムの楽しみ
2003/03/30 19:47
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投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹の短編が好きだ。本人は、自分は長編型の作家であるとどこかで語っていたが、僕は短編の方が好きで、お気に入りは何度も読み返してきた。だから村上春樹全作品1979−1989(第1期)でも短編集の巻だけ買ったし、今回の第2期も短編集だけ買い揃えた。
初期の短編に、スタン・ゲッツの「イパネマの娘」は高校の廊下を思い出させるという描写があった。音楽には確かにそういう効果がある。自分にだけ特別な連想を呼ぶ曲というのが、誰にでもあるのではないだろうか(僕には、それを聞くと共通一次試験を思い出す曲がある)。
面白いことに村上短編のいくつかは、連想の結びつき方が、僕にとってはまるで音楽のように感じられる。本書の作品でいえば「アイロンのある風景」がそれにあたる。これを読んだのは、病院の待合室だった。開業医の待合室独得の静けさと小説の内容とが僕の中では強く結びついている。
でも、そういう効果を味わうならやっぱりオリジナル版の方がよい。たとえば『カンガルー日和』はあの正方形の箱入りの本で読まないと気分が出ない。それから新潮社純文学シリーズの一巻として出版されたときの『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』。箱入り、ピンクの装丁、セロファン付きのあの本を手放してしまったのは、失敗だったと思う。
そんな感想をもつ僕がこの全作品を買ってしまうのは、好きなミュージシャンのボックスセットをCD屋さんで見つけて、別テイク収録・豪華ライナーノート付きという宣伝文句に負けてしまうのと同じことです。
欲しいけど作品は持ってるしなあ、という人は、<解題が読めて、しかも作品までついている>と発想を転換させるのはどうでしょうか。でも、本当にそう思えるようになると、本やCDが増えて増えて困るんだけどね。
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1995年は、私はドイツのベルリンで暮らしていたので、日本で起きた阪神大震災、サリンガス事件を国外で、物理的にも時空的にも距離をおいた体験だった。
私が阪神大震災の一報を知ったのは、テレビで一報のニュースを日本語を勉強に来ていたドイツ人と自宅で見ていた時だった。その時映し出された光景は、私の母国である日本だとは信じられず、カフカ的に時軸が狂ったような、ゆがんだようなそんな感覚の中にいた。
翌日の朝、大学で神戸出身の友人達に話しても、ぴんとこないようで、たいしたことないんじゃない、みたいだった。一面崩れた家屋の写真が載っている新聞を見せて、やっと事の重大さを理解したようだが、実感がない、ゆるりとしたぴったりそこに合わないよう感覚を持ったようだ。あまりに凄まじい光景に反応出来なかったのだと思う。
私にとっての実際的な感覚は、日本に何度国際電話をしてもKDDからの一方的な「ただいま回線がつながりません」の自動応答だった。
今もって私は母国である日本が被ったこの大震災に異邦人的存在を感じる。そんな中、この村上春樹の短編集1990〜2000年 3
に収められている短編小説を通して、疑似体験が出来たような、ようやく少し自分としての体験として受け入れる、そんなような気がした。
タイランド
「あなたは美しい方です、ドクター。聡明でお強い。でもいつも心をひきずっておられるように見えます。これからあなたはゆるやかに死に向かう準備をなさらなくてはなりません。これから先、生きるだけに多くの力を割いてしまうと、うまく死ぬることができなくなります。少しずつシフトを変えていかなくては
なりません。生きることと死ぬることとは、ある意味では等価なのです、ドクター」
「ドクター、お願いです。私にはそれ以上何も言ってはいけません。あの女が申し上げたように、夢をお待ちなさい。あなたのお気持ちはわかりますが、いったん言葉にしてしまうと、それは嘘になります」
「今は我慢することが必要です。言葉をお捨てなさい。言葉は石になります」
なぁミニット、それでは私たちはいったいに何のために生きているんだい?
{北極熊の孤独、それは必然的なもの。
心をひきずる、なんて珍しいことば。
タイランド 仏教の信心深い国}
バルブ経済が破綻し、巨大な地震が街を破壊し、宗教団体が無意味で残忍な大量殺戮を行い、一時は輝かしかった戦後神話が音を立てて次々に崩壊していくように見える中で、どこかにあるはずの新しい価値を求めて静かに立ち上がらなければならない、我々自身の姿なのだ。我々は自分たちの物語を語り続けけなくてはならないし、そこには我々を温め励ます「モラル」のようなものが
なくてはならないのだ。それが僕が描きたかったことだ。
僕は1995年の初めに起こったこのふたつの大事件は、戦後日本の歴史の流れを変える(あるいはその転換を強く表明する)出来事であったと考えている。その二つの出来事が示しているのは、我々はおおむね、自分たちの踏んでいる大地が揺らぎのないものだと��じている。あるいはいちいち信じらるまでもなく「自明の理」として受け入れられている。しかし、突然それは我々の
足下で「液状化」してしまう。我々は、日本の社会が他の国に比べて遥かに安全であると信じてきた。銃規制も厳しいし、凶悪犯罪の発生率も低い。
しかしある日出し抜けに、東京の心臓部で、地下鉄の車両内で、毒ガスによる大量殺戮が実行される。目に目えない致死的な凶器が通勤する人々を無差別に襲う。
(村上春樹全作品1990〜2000 3 より個人的に抜粋 私的覚書)
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嫌な夢を見たの、と私は言う。彼は暗闇の中でゆっくりと首を振る。それはただの夢だよ、と彼は言う。夢は過去からくるものなんだ。未来から来るものじゃない。それは君を束縛したりしない。君が夢を束縛しているんだ。わかるかい?
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レキシントンの幽霊 緑色の獣 氷男 七番目の男 めくらやなぎと、眠る女 UFOが釧路に降りる アイロンのある風景 神の子どもたちはみな踊る タイランド かえるくん、東京を救う 蜂蜜パイ
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阪神淡路大震災を機に、村上が地震をテーマに書いた作品。全ての物語に一貫して「地震」が主要なモチーフとされているが、実際には地震はある意味象徴的に関連して軽く触れられる程度で、それぞれの物語は全く別の世界において展開する。
この作品群の根底にあるものは、すべてはメタファーである、ということである。「世界の万物はメタファーだ」とは、ゲーテの言葉らしいが、これは村上の作品を通して長く書かれてきているテーマだと思う。同時期に書かれた『アンダーグラウンド』では、被害者へのインタビューを脚色は加えず、被害者の体験したありのままを伝えることに徹した。もちろんその中にはある程度の矛盾が生じることもあり、公式の事実と異なる証言が出ることもある。しかしそれは、その人がまさに体験した真実であり、その人の主観の中においては疑いようのない真理としてその事実は存在するのだ。また、『海辺のカフカ』では、ナカタさんはジョニー・ウォーカーを殺し、ホシノさんはカーネルサンダースによって導かれる。そして主人公は、四国にいながら東京にいるはずの父を殺す。これらの現象は、物語の中での真実である。全ては主観の中で行われたものである。アンダーグラウンドでの異なる体験から被害者の心に感じられたこと、海辺のカフカでの不可思議な出来事、それらはフィクションかどうかといったことは関係がない。すべて主観が決める事なのである。このように主観が決めることによって、人は何かから意味を見出そうとする。
『神の子どもたちはみな踊る』を始めとする短編集に収録された作品群には、解釈の余地が多く存在する。かえるくん、七番目の男が語る幼馴染、緑色の獣、その他各作品に登場するものすべては、各々のメタファーとして機能する。それが何を表わすのか、筆者は何を伝えたかったのか、それらはこの文学作品を読み解くうえで大切な要素であるかもしれない。しかし、一番重要なことは、それらの作品を読んで自分が何を考えたか、どう感じたのかを自分自身で解釈することであると思う。
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村上春樹全作品 第3巻はふたたび短編集です。たしかボストンに招聘されていたころに書いた、いろいろな短編(けっこう英訳されています)がでてます。この本も、さいごの作者による解説がいちばん興味がありおもしろかったりしました。神戸の地震とかサリン事件はけっこうつよい印象を作者に残しているようです。
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昨日見た夢を思い出すみたいに、読んだ後にもふとよみがえって心にしみてくるような短編集。
村上春樹さんの本はほとんど読んだことがありませんが、読んでよかったです。「氷男」と「かえるくん、東京を救う」、「蜂蜜パイ」が特に好きです。どの短編もぞくっとさせられる何かがありますね…。ひとつひとつの言葉が自分自身の心に問いかけてくるような感覚でした。
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村上春樹は苦手・・・だったのですが、短編はとてもよかった。
長編で見られるナルシズムや女性の生理的なものに対する細かな描写が薄くなっているのがよかったのだと思う。
「氷男」「緑色の獣」「かえるくん、東京を救う」のような、日常世界で異世界の何かとの遭遇を描いた作品が好きです。
苦手と思いつつ読むのは、独自の世界観と、癖のある文体に妙な中毒性を感じるからなのだと思う。
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何度も読んできたせいか、読んでいて落ち着いて物語の世界に入っていける。ただ単に好きなのかも。
『焚火」の木を芸術的に組み立てる男性と空っぽの女性、下ネタばかり言う恋人は、必然的に三人がそこにいるというのが今回いいなと思ったところ。
次は『トニー滝谷』が読みたい。
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村上ファンのみなさんから、「短編集から読んだらいいよ!!」と教えていただき読了しました。映画公開にのって、ノルウエイを読み、アフターダークを読んだものの、「それはだめだ!!」と多くの方に言われました笑 確かに、つらかったけど。。一番好きだなと思ったのは「タイランド」。一度読んでも、そのお話が何を表しているのかを理解するのは難しいですが、だからこそはまる村上ワールドなのでしょうか。
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『レキシントンの幽霊』と『神の子どもたちはみな踊る』でほぼ構成。
『神の子どもたちはみな踊る』は映画になってるはず。観なきゃ。
『1Q84』といい、1995年の事件は村上作品へ大きな影響を与えたのだな。がっつり取材もされたのだし、当たり前か。
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レキシントンの幽霊。緑色の獣。氷男。七番目の男。めくらやなぎと、眠る女。UFOが釧路に降りる。アイロンのある風景。神の子どもたちはみな踊る。タイランド。かえるくん、東京を救う。蜂蜜パイ。