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母から母へ みんなのレビュー
- シンディウェ・マゴナ (著), 峯 陽一 (訳), コザ・アリーン (訳)
- 税込価格:3,080円(28pt)
- 出版社:現代企画室
- 発行年月:2002.11
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紙の本
時代と国を問わない、女の怨嗟が聞える
2003/01/15 20:42
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投稿者:pipi姫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
南アフリカ共和国は遠い。この国がついこの間まで、アパルトヘイトという人種隔離政策をとっていたことは、たいていの大人の記憶にあるだろう。だが、それ以外の情報がなにかあるだろうか、この国について。ましてや、南アの女性作家の小説など、読んだことのある人はごく少数だろう。
この作品はフィクションであるが、1993年に実際に起こった女子大生殺害事件をベースに書かれている。殺されたのはアメリカからの留学生、白人、女。殺したのは南アの黒人、若者、男。アパルトヘイトが撤廃された最初の選挙、その選挙を手伝うためにやってきた白人女性を殺してしまった黒人たち、これほどの悲劇があろうか?
物語は、加害者の母から被害者の母へあてた手紙から始まる。
「私の息子が、あなたの娘さんを殺しました」
なぜ息子が白人女性を殺したのだろう? なぜ、なぜ? 加害者の母の一人称で語られるこの物語は、息子の物語ではなく、母の物語。時代を超え、国境を越えて普遍的な苦しみを背負うすべての女に共通の物語。
家族制度のおもりを引きずり、自分の生を生きることなく、怨嗟の中で年老いていく女の物語。
この作品を読む日本の女性も、決して他人事とは思えないその女の歴史に共鳴し、慟哭するだろう。
教育のない女性の一人語りとは思えない知性に満ちたその語りは、力とスピード感に溢れ、読者は一気に物語世界に吸い込まれて最後まで読み進んでしまう。だが、「母から母へ」と題しながら、一方の母はここには登場しない。それが唯一の不満なのだが、それはまた別の物語なのだろう。
南アフリカの黒人女性の苦しみがひしひしと伝わる見事な筆致。素晴らしい作品だ。
なによりも特筆すべきは、訳者あとがきの充実ぶり。優れた小説論であるだけではなく、物語の背景となった南アフリカの歴史の簡潔な解説も本作品の理解に大いに役立つ。文献紹介もあり、この「あとがき」だけでも立派な一つの作品になっている。
南アフリカのことを何も知らなくてもすむ時代は、もう終わりつつある。グローバリズムの波にさらされる現在のわたしたちは、まずこの小説から読み始めることにしよう。
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