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SF作家の高橋哲哉は、旧友の椎名が那須に所有する屋敷を借り、妻の佐知子と共に暮らし始めた。屋敷は椎名の父親の所有する物だったが、それ以前は國岡獅朗という、男爵の次男が住む家だった。気忙しく周囲に気を遣う都内のマンションから移り住むには快適に思えたが、築100年を越す屋敷のあちこちから軋み音が響き、至る所で多量の黴が発生する。目に見えて大食漢になり、ことあるごとに酒を飲み干すようになっていく哲哉。夜中に響く軋み音や足音に、佐知子は睡眠薬が手放せなくなっていく。夏になり、哲哉の教師時代の教え子だった高校生の、渉がガールフレンドの浩子を連れて遊びにやってくる。渉は哲哉の、そして佐知子の変り様に驚く。一方、屋敷の管理人である岩沢の妻房江は、屋敷に高橋夫妻を訪ねた際に目にした2つの“もの”に怖れおおのいていた……。
正調な「幽霊屋敷」もの。文庫の帯には「これは日本版『シャイニング』である」とあり、確かにそう言えなくもない部分もあるが、むしろS・ジャクスンの『たたり』へのオマージュではないかと思えなくもない(邦題が『山荘綺談』から『たたり』になったのはこの後だったように思う。創元は現在は『丘の屋敷』だが)。
前半は概ね佐知子の視点で物語が進み、渉の登場以降は彼や浩子、椎名の視点で物語はクライマックスへとなだれ込んでいく。それが多少めまぐるしいと言うかややこしくも感じられたけれど。ラストも何とも駆け足のような気が。結局何が理由だったのよ?という疑問が残る。ま、怪異の元凶たる存在にペラペラと語らせたらそれはそれで興冷めだっただろうけども。