紙の本
古き懐かしき吸血譚
2003/01/23 18:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ごんだぬき - この投稿者のレビュー一覧を見る
書店で見かけて思わず「懐かしーいっ」と叫んでしまった。
作者の名前も懐かしければ、作品のタイトルも懐かしい!
「きみの血を」は古典的な名作だと思う。
今、改めて読み返すと、非常に先駆的なサイコ小説だったのだと
実感した。タイトルが生きてくるのは、ラストに至ってからだ。
それまでは、「何が吸血?」と思う方も多いに違いない。
しかし、複数の視点から、語りかけや筆記体といった様々な手法を用いて
構成されており、それだけでも技巧が光っている。加えて素晴らしい
のは、淡々と描かれる主人公の生い立ちだ。何気ない、味気ない彼の
一生。が、徐々に徐々に、じわりと不快感が広がっていく。
この奇妙な不快感は一体なんなのか?
いかにもスタージョンらしい、理性的な文章の中に、見え隠れする
狂気の影。死ぬほど怖い、というものではない。だが生理的にいやーな
何とも言えない感覚が、内側からじんわりとわき起こってくる。
吸血鬼ものというと、「カーミラ」のようにエロテッィクだったり、
「夜明けのヴァンパイア」のように華やかで麗しかったり、どうにも
美形のイメージが強いのだが、この作品に至ってはまるで違う。
無骨で泥臭く、ゴツゴツしている。それでいて、何故か妙にリアリティに
あふれている。
そこが、またいい。
スタージョンの他の作品も読み返したくなってしまった。
今宵は大好きだった「人間以上」その他、彼の作品を読み返すとしよう。
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スタージョンの中でも特に美しい物語の一つ。地味で朴訥な青年という隠れ蓑をかぶった、繊細な謎が明かされていく。美しいのは謎そのものではなく、謎の持つ、ひっそりと慎重に隠されたそのあり方。
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題名からヴァンパイアものかと思ってましたが、広義での吸血鬼ものと言ったところ。
今で言うサイコ・サスペンスの走りって感じもするかな。
ある一兵士が手紙のことで自分を呼びつけた少佐を殴り、精神病院に運ばれてくる。
なぜ、彼はそれに及んだのか? 手紙には何が書いてあったのか?
それがミステリ仕立てで解かれていく様子を、
彼の独白と、医師との質疑応答、医師とその上司の書簡という形で語られていく。
ずっと会話調なので読みやすいんだけど、その中に散りばめられた伏線に気付かずに行ってしまうので注意。
診断のために書く自伝のようなレポートと心理テストによって引き出される異様なビジョンに隠された真実!
それが、ラストに『ああ!』と頷かずにはいられない。
君は小説を読んでいるんだよ、という始まり方なんだけど、これが最後でまた気持ち悪い。
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米軍駐屯地で、精神科医でもある少佐がある異常な手紙の差出人である兵士を訊問する。
訊問中、事故で負傷した兵士は、流れる自らの血を吸い始めた。兵士はいわゆる吸血鬼
なのか?という異色の吸血鬼もの。でもどちらかというとテーマは愛か。
なお、作者は「人間以上」や「夢みる宝石」を書いた人で、これらの方が出来は良い、と思う。
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2007年4月21日読破。吸血鬼物かと思って読んだら、単なるサイコな変質者のお話だった・・・がっくり。
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ある米軍の駐屯地で、一人の兵士が恋人に宛てた手紙が問題になった。そのあまりに異常な文面について尋ねられた途端、兵士は突然上官に襲いかかった。何故彼はそれほど激昂したのか。また、発端となった手紙に書いてあった内容とは何か。
読む前に考えていたほどは怖くなかった。核心部分は想像したくはないが、思ったよりは衝撃が少なかったと言うか。
ただこの作品が発表されたのは1960年代だったらしいから、当時の人にとってはもっと衝撃的だったろう。
大抵の人は大丈夫だと思うが、神経の細い人にはおすすめしない。
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予備知識ゼロだったので驚愕しました。途中まで「平凡な」でも超絶に貧しく虐待されている男の子の物語の手記、でつまらなくはないがやや退屈・・・これがあのスタージョン?と思っていたらば!そこから、ええええ!の怒涛の展開があり、まさかこのジャンル物とは思いもよらず、ラストにもう一度手記を読み返しました・・・ああ・・ここにもあそこにも・・・と激しく納得したことが。信頼できない騙り手物語としてまた精神分析の手法に現れることも非常に面白く読みました。どういう手紙を女性に書いたのか、その三行がぞくっとします何よりも。
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とある米軍駐屯地。精神科医でもある少佐が、一通の手紙の差出人である兵士を尋問した。文面があまりにも異様だと思われたからだった。兵士のジョージは、少佐から手紙の内容について問われるや、それまで態度から豹変し、コップを握りつぶして少佐に襲いかかった。しかし、己の手から流れる血を見るや、それを吸い始めたのだった。ジョージの異様な行動に隠された秘密とは―。
本書はまず正体不明の語り手という枠組みがあり、その中で精神科医アウターブリッジと友人の陸軍大佐との往復書簡が綴られ、さらにその中で兵士ジョージの独白が含まれる、といった構造になっている。それゆえ人称がその都度切り替わり、それが「信用のおけない語り」という効果を一層持たせている。
内容的には吸血鬼ものの1バージョンといったところか。ジョージ自身の物語はそうそうショッキングなものではないが、語りの効果も相俟って、全体的にはどうにも薄気味悪さを感じさせてくれる。
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構成は凝ってると思うけど、内容というか事の実体というかは結構普通じゃないのかな。や、確かに異様な話しではあるけれど、でもそれだけって感じがする。
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1961年に書かれた本なんだけど、そうはとても思えない程洗練された小説。これもスタージョンらしい愛の物語のひとつ。
ネタバレ無しに紹介すのが困難な本だが、帯の文章からネタバレしてるし。
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全然SFじゃないです~。
ダニエル・キースかいって感じ。
凝った構造とか最後の看護婦の使い方とかちょこちょこ仕掛けが小粋でしたが、「人間以上」や「夢見る宝石」を期待して読むと、ちょっと・・・
和訳が遅かったのもまあそうでしょって感じ。
小ネタで、「西部劇の善玉悪玉の見分け方」ってのが
面白かった。
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二人称で書き始められる物語。
ドクター・フィリップ・アウターブリッジの机の引き出しに隠されたファイルを読むようにと、誰かが私をそそのかす。
兵士のジョージが恋人に書いた手紙のことで尋問を受ける。
おとなしく受け答えしていたジョージが、突然暴れ出す。
それはなぜか?
一体手紙には何が書いてあったのか?
そんなことが陸軍大佐と、精神科医でもある軍曹との間の往復書簡で明かされる。
そしてジョージの生い立ちが三人称で書かれる。
ジョージの半生を読み終わって気づく。
これ、小説だった。
すっかり、実在する人物のつもりで読んでいた。
作者の名前を観たときは、SFだと思っていたはずなのに。
なにか、見えないところで怖ろしいことが起こっているような気配はある。
でも、はっきりとしたことはわからない。
家庭的にあまり幸せとは言えなかった少年時代のジョージ。
父親が酔って暴れる時は、森に出かけて狩りをする。
そうすることで、ジョージの心は落ち着きを取り戻し、穏やかに過ごすことができるのだ。
無口で貧乏なジョージは学校でもいじめられていた。
そんな時も森で狩りをすれば、ジョージは満足だった。
しかし病気がちだった母親が亡くなり、父親と二人の生活。
食料品を盗もうとしたジョージは少年院に入れられる。
そこで、生きていくために必要な知識や技術を身につける。
父親の死。
それに伴う伯母夫婦との生活。
恋人ができたジョージ。
何かがちょっと不穏な気がするけれど、でも、いるでしょ、なんか不幸な人って。
けれど精神科医はいうのだ。
この自伝には、明らかに欠落している事柄がある。
それが何かがわからなければ、この事件の謎は解けないと。
忍耐強くジョージの気持ちに寄り添い、知能テストや精神分析の検査を行ううちに明らかになってくるジョージの心の一番奥に隠されていたもの。
それが、不憫でねえ。
ああ。そういうことだったのか。
他人と接することが極端に少なく、不器用で純粋なジョージという男。
最初に感じた薄気味の悪さが嘘のように、読後ジョージを愛おしく感じる。
いやこれはすごい本だわ。
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ホラーやミステリーには手を出さない事にしてるのですが、スタージョンと言う事で読みました。
ホラーです。確かに。
スタージョンといえばどうしても幻想的SF「夢見る宝石」を思い起こします。と言うよりも、その一冊だけ(「人間以上」は有名だし、読んだという記憶だけはあるのですが、内容は全く思い出せない)。そのせいでしょうスタージョンについては、なんともいえない暗さと独特の美の世界。そんな印象があります。
暗さという面では「宝石」よりも日差しがある感じがします。「宝石」は全体が暗く、その中で小さな明かりを際立たせてるのに対し、これは全体は明るいのだが、その裏の暗さを浮き出させているのでしょう。
じんわり・・・ですね。
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狩の描写が克明でこれ作者のたいけんなのかなとかおもった
吸血鬼ものではないけど大きく見れば吸血鬼ものなのかな
西部劇では悪い奴は腹を撃たれいい奴は胸や肩を撃たれるというモチーフが後半よく効いてる
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在日米軍基地で問題を起こし、
アメリカに強制送還された23歳の兵士ジョージ・スミス(仮名)。
陸軍病院の独房で精神鑑定を受けることになった彼は
何故、手紙を検閲し、質問を投げかけたマンソン少佐を殴ったのか、
また、その際に
自ら握り潰したグラスで負傷した手から滴る血を舐めたのか……
というミステリ。
ジョージ・スミス(仮名)に問診する
若い精神科医アウターブリッジ軍曹の奮闘が、
上官であり親友でもあるウィリアムズ大佐との、
皮肉と友情に満ちた往復書簡によって浮かび上がり、
成育歴を知るべく、ジョージに綴らせた回想記が開陳される、
いわゆる「雑多なテクスト」構成の小説。
ジョージがどういうタイプの吸血鬼か、そして、
いかにしてそうなったのかを暴く
探偵小説風の作品なのだが、探偵役を精神科医が務める点が、
精神分析学や性科学が人口に膾炙した発表当時(1961年)、
多くの読者を惹きつけたのだろうか――
と考えつつ、実は再々読くらいの段階で、
これはもしやブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』への
オマージュではないのか、とも思っていた。
本作も『吸血鬼ドラキュラ』同様、
様々な文書がズラズラーッと並べられているのだが、
大きな違いは、そうしたテクスト群を整理して
読者に差し出す「誰か」が存在する、という点。
これがオープニングとエンディングで
怪しい囁きを発する「信頼できない語り手」で、
しかも、それが催眠術師のような口調で語っているところが、
何とも不気味なのだった。
つくづく地味で、華やかさのかけらもないけれど、
妙に味わい深くクセになる、不思議な物語。
きっとこれからも何度となく読み返すだろう。
私は貴族的な風貌のイケメン吸血鬼が
恋愛に奥手でシャイな女の子を見初めて云々……
といったタイプの話より、
こういう普通の人間の暗黒面に光を当てるような小説が好きだから。