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紙の本
空想科学小説の熱気と、成長物語の輝きの末裔。これぞ物語。
2003/11/22 20:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
窮地の連打は、読書の中断を許さない。文章は、
口にして、ぼそぼそする、味気ないものと無縁。
この語り口、まるで読み心地保証つき。
もちろん、キャラクターも魅力的。更に、見せ方もいい。
各キャラクターの視点で、他を評するシーンは、
台詞を借りた人物紹介・設定伝達には墜ちず、話し手の
考え方も自然と伝える。『 黒と茶の幻想 』を思い出す、職人芸。
その上、一人称の語りの絶品さといったら、
各キャラクターの「皮膚と骨格の間」に滑り込むほどの
近さで、キャラクターと読み手を交差させる離れ業。
だから、恩田さんが粋な人を描こうとしたら
不可能なんて何もない。
心臓に障害を抱えて育ったから、頭の中で出来ることは
全て済ませてから動く習慣を持つ、大学生の従兄。
何カ国語にも堪能で、国際的な証券マンの叔父。
手を動かし続けて考えてきた粋なお達者で、
町工場一筋の油が染みた作業服姿のおじいちゃん。
彼らは、隙を見せれば主役を食いかねない罪な脇役。
でも、大丈夫。主役のワケあり4人家族も負けてない。
楢崎連 冒険小説とロッククライミング。兄。中2。
千華子 ボーイッシュ美少女、新体操。妹。小6。
千鶴子 アグレッシブで有能な母。トラブルメーカー?
楢崎健 考古学命、みんなに「いい人」。素朴ダンディ父。
彼らが過ごした、あまりに長くて最低最悪の幸せ冒険活劇。
「なんて夏休み!」と、キャラクターが嘆く嘆く。
そして、ぐんぐん育つ。子供はもちろん、大人さえ。
彼らの背後から、空想科学小説の薫りを帯びて、希望が登る一冊。
紙の本
その昔、「ジュブナイル」ってカテゴリが……。
2003/05/10 10:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ジュブナイル」ってカテゴリが、かつて「あった」、とされている。でも、これって本当か? と、個人的には結構疑問持ったりしているんだけど。そのジャンルの嚆矢とされている「スティーブンソンの「宝島」だって、つまるところ、「当時のモノとしては珍しく、子供が物語中でそれなりの役割を果たす」という程度のもんであって、主役はけっして子供ではなく、ジョン・シルバーとかの海賊たちだ。ヴェルヌの「十五少年漂流記」とか、「子供(たち)が主役のお話」というのは、現在も含めて大抵の時代に書かれてきたし、これからも当然書かれると思うけど、それらの大半は、必ずしも「子供(たち)のための物語」ではない。無論、理解力が育たない年齢層に向けて、事物を単純化した物語は厳然として存在するわけだけど、そういうのが通用するのは年齢一桁、いわゆる小学校低学年までであって、せいぜい「児童向け」と呼称するべき。そう、ティーンエイジャーの理解力というのは、現実問題として、大人と大差ない。まあ、頭がよいのと悪いのと、個人差というのはあるでしょうけど、そういうのは「個人差」であって年齢層とはまた別のはなし。
前置きが長くなった。この「上と外」読んで、上記のようなことをだらだら考えてしまったのは、中学生の兄弟、練と千華子の(たぶんにゲームめいたイニシエーション儀式が用意されている)冒険談と、彼らの両親や親族、また、「新しい国」を巡る様々な出来事が前後して語られるモザイク状の構成に興味を覚えたから。
「これ、ちょっと前のジュブナイルなら、練たちの儀式やジャングルでのサバイバルの背景として簡単に語られるだけの部分なんだろうな」、
と。
もちろん、そうならないのは、現在の「家族」や「世界」の複雑さ故であり、恩田陸という作家の資質でもあり、なんでしょうけれど。
いや、もちろん、読んでいて面白かったわけだけど、行方不明になった練たちの捜索に一番役に立ったのが日本にいる町工場のおじいちゃんだったり、練と千華子の冒険を見守る、ゲームマスター的な存在であるニコが配置されていたりの、「無邪気さを装った安全装置」みたいな設定がなされているあたりは、ちょっと気にかかった。独立したキャラクターとしてみると、おじいちゃんもニコも非常に魅力的な存在だと思うんだけど、こういう「後見人」おかなけりゃ「冒険談」そのものがまともに成立しない時代なんかな、と、一抹の寂しさも覚えます。
酩酊亭亭主