紙の本
この国の失業者を救うことは可能だろうか?あくまでも労働組合運動に期待を託す著者の主張を肝心の組合はどう読む?
2003/05/06 12:24
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投稿者:pipi姫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は、ライフワークとして労働問題に取組み続けて来た学者だ。その研究対象は常に「ノン・エリート」、「ふつうの労働者」である。
サービス残業を厭わない年収560万円の<ふつうの>男と、出産退職するのが当然と思う年収350万円の<ふつうの>OLへの共感を常に示しつづけてきた熊沢氏の最新刊は、岩波新書の労働問題3部作の締めくくりとなる。
すでに『女性労働と企業社会』、『能力主義と企業社会』で、この国の労働者たちの疲弊ぶりと労働組合のだらしなさについて告発してきた熊沢氏が、今回、厳しい雇用情勢を打開する方途として「ワークシェアリング」を提唱する。
労働時間を短縮し、サービス残業をなくすことによって新たな雇用を生むことができるという、このワークシェアリングの発想じたいは、とりたてて目新しいことではない。『オランダモデル』で紹介されたように、仕事をわかちあう(ワークシェアリング)ことによって雇用不安を脱出したオランダの事例は、知る人ぞ知る事実である。
雇用問題の解決のためには、日本経済(世界経済)の構造そのものを変革し、景気回復など、マクロな経済学が必要なのだが、とりあえず本書は、<いまここ>にいる失業者と、「親孝行したいときに職はなし」(本書42頁)というフリーターの若者達、失業者予備軍たちを救う方法を提言している。
熊沢氏は、「一律型ワークシェアリング」と「個人選択型」ワークシェアリングが、失業不安→サービス残業→過労死という袋小路を脱出する希望の思想だと言い切る。失業不安がなくなれば消費動向も好転し、経済波及効果もあるし、マクロ経済に与える影響は大きいという。個人選択型ワークシェアリングによって、人生の一時期短時間労働につくことができ、仕事よりも大事なことに取り組む時間を捻出できる。——などなどワークシェアリングはいいことだらけのようなのだ。
だが、それならなぜ、経営者も政府も今すぐワークシェアリングに取り組まない? 現実には、目先の利益だけにとらわれる企業がいかに多いか。そしてなによりもまず、労働組合が熊沢氏の提言にどう応えていくかが問われている。さらには、自らの労働時間を削り賃金を削ってでも多くの働く人々を救うという「雇用機会をわけあう思想と営み」を、ワーカーホリックのエリートたちの倫理観に訴えねばならない。
著者が謳う連帯の思想が多くの人々に支持され、みんなが機嫌よく働ける社会が来ることを望みたい。道は険しい。
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図書館で借りた。
主にワークシェアリングについて述べている。
ワークシェアリングにもただ仕事を分け合うだけではなく
色々なやり方があるのだと勉強になる。
外国の実践事例や日本での実例も紹介されている。
リストラされそうになっている人を職場の仲間が
自分たちの働く時間を減らしてでも救おうとする話があり
職能が明確になっているとそのようなサポートの方法が
あるのかと思った。
ワークシェアリングに対して反対する意見に、使えない
人が残っても意味がない、としているのもいくつかあり
救おうとしている人たちとは大分差がある。
労働時間について以下2つの統計があることを初めて知った。
『毎月勤労統計要覧』(厚生労働省)・・・給料の支払われた労働時間の統計
『労働力調査』(総務省)・・・労働者の報告に基づく実際に働いた時間の統計
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7冊目です。
本書はタイトル通りワーキングシェアを中心として現在の日本の労働のありようを述べた本です。
ワークシェアというとただ単に労働時間を分け合うという感じがしますが実際には様々なタイプがあります。
例えば正社員の労働時間を非正社員と分け合うというのも一種のワークシェアですがこれは理想的ではありません。
というのはこれだと現在の日本の労働状況となんら変わらず非正規の人の給与も低い上に正社員も
サービス残業など過酷な労働状況のままということになってしまうわけです。
ではどうするのがいいかというと非正社員を正社員にする形で労働を分け合うというのが良いようです。
これであれば非正社員が正社員となることにより雇用が安定し、正社員の方も労働時間が減ることにより
負担が減ります。
ただし、注意しなければいけないのが給料が確実に減るということです。上の例でいえば非正社員は正社員になることに
より途中で契約を切られたりといった不安定性はなくなりますが、単純に労働時間が減少した場合は給与が減るか変わらない
可能性があります。これは正社員も同様でたしかに労働時間は減りますが給与が減る可能性は否定できません。
とはいってもやはりワークシェアは魅力的です。確かに正規の労働時間内で分け合った場合は給与が減りますが
サービス残業などの給与が支払われない部分を分け合えばその部分で新たな雇用が生まれますし、もともと
給与が支払われないような無駄な労働が減りますから正社員も労働時間が減るうえに給与も変わりません。
これがもっとも理想的な形かもしれません。
ただやはり企業側としては当然拒否感を示すでしょう。いかに企業側を説得するかということが最も
重要かもしれません。
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[ 内容 ]
高まる失業率、熾烈な人べらしリストラ、職場ではサービス残業と長時間労働、そして低賃金のパートタイマー。
こうした企業社会の現実を綿密に分析し、打開策としてのワークシェアリングを、“一律型”と“個人選択型”モデルを設定して論じる。
日本での厳しい条件を考慮に入れながら、実現の必要と可能性について真摯に検討、提言していく。
[ 目次 ]
1章 労働の暗い状況のなかから(労働をめぐる四つの現実 ワークシェアリングのかたち)
2章 失業とリストラの今日(失業という現実 人べらしリストラの多様性 「希望退職」の虚実)
3章 雇用機会をわけあう思想と営み(欧米におけるワークシェア 日本のワークシェア ワークシェアは日本の職場ではなぜむつかしいのか)
4章 フルタイムの短縮、連帯のワークシェア(働きすぎという現実 “一律型”ワークシェアの方途 労働市場の新しいかたち)
5章 パートタイムの均等待遇、選択のワークシェア(“個人選択型”ワークシェアのニーズ 現代日本のパートタイマー パートタイマーの処遇改善 むすびにかえて)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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今の日本の労働をめぐる四つの現実。つまり、
1.深刻化する失業
2.リストラとよばれる人べらし
3.執拗な長時間労働
4.パートタイマーの処遇差別
に分類し、これらの解消策としてワークシェアリングの展開を進めています。
不況による企業環境の悪化は欧米でも同じで、彼らはどのように克服しようとしているのかも示されています。
それらの紹介を踏まえ、日本の取るべき指針を与えています。
押し並べて注目する点は見当たらず、ワークシェアによる能力・賃金格差の是正を求めていますが、その主体は労組であり、日本では弱体化しつつあるこの組織では厳しい見方が強いです。
そしてワークシェアによるメリットが結果(数値)として見えにくく論拠が薄いと企業経営者からの反論に窮する現状。
政府の法的労働環境整備への言及では至極もっともと思えるのですが、
では社民党が以前マニフェストに掲げた『最低賃金時給千円』を実行するかと言えば、僕はまだ尚早と感じます。
労働価値説と効用価値説(これらは本書では取り上げていない)の趨勢と今後の方途がカギになっているのではいかと感じました。
なかなか面白い本でした!
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この本はだいぶ前に出てはいるものの、
相も変わらず労働問題に関しては
解決されていないのが現状です。
そしてこのご時世です、もっともっと酷なものが
待ち受けているでしょう。
意外だったのがワークシェアリングの
例に挙げられている国の1つがヨーロッパ諸国なのに関わらず育児に関しての考え方がおや?と思ったこと。
出版当時なのでかなり年月の経った今は
そうでないことを願わずにはいられませんが。
それと福祉の国の現状は結構えぐいです。
それだけを保障するのならば…ということです。