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紙の本

幅広くいろいろな観点から記述されており、作家らしい表現力で鬱病の大変さがわかる

2003/10/12 16:35

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る

作家らしい表現力である。自己の鬱病の経験を、表象的に表現している。大袈裟な表現はないにもかかわらず、生々しい悲惨さが、訴えかけてくる。鬱病がこれほど大変な病気だとは、知らなかった。また、非常によく勉強している。鬱病に関係する膨大な文献を読破し、いろいろな分野の多くの専門家の話を聞き、心理療法について医師達に、最新の医療技術について研究者達に、代替療法士、ソーシャルワーカー、祈祷師、にまでインタビューしたり、同病者の経験を聞き取ったり。鬱病なのによくこれまでのことができるものだ。鬱病でない合間に書いたのかもしれないが。上巻では、鬱病の発症と各種治療法、依存症等を扱い、下巻では自殺、歴史、鬱病と社会、進化論から見た鬱病等についてとりあげている。アメリカの貧困層の悲惨さは、物凄いようだ。日本では貧富の差がアメリカほど激しくなく、健康保険制度も全国民に適用されるので、それほど酷くはないであろうが。しかし、そのような環境にあっても、支援する人たちの援助も受けながら、抜け出し、立ち直る人々がいる。感動する多くの物語がある。鬱病の病態や薬学や治療法法の紹介だけではなく、歴史や政治といった社会的環境とのかかわりまで、広い視野に立って、鬱病を見詰めている。この過程で、著者は、人間が「うつ」を抱えるということのなかに、意味と希望を見い出していく。

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