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筆者は9歳のときに、理由もわからず祖父が拘束された後、家族とともに政治犯として耀徳政治収容所(15号管理所)に連行される。それから10年に渡ってそこで生き抜き、そして1992年に韓国に亡命するまでの体験を書いている。
筆者の家族は在日で、帰国事業のときに北朝鮮に渡ったという。
日本で築いた財産をすべて祖国である北朝鮮に捧げたにもかかわらず、あるとき収容所に送られてしまう。
こうした帰国者は、同書によると全体の1割にも上るといい、それは総連の権力闘争に巻き込まれた末の「粛清」のようなものだったのだという。
彼らの家族は、永久に収容所から出られない囚人としてではなく、「再教育」を施された後はわずかながらも釈放が望める囚人として暮らした。
そのため、その他のより残虐な収容所の実態と比べると「まるで天国のような場所」だったという。しかし、下着や靴下、服などという生活必需品すら年に1度しか支給されず、零下25度にもなる野外で一日中労働をさせられる環境であり、子どもたちに危険な労働を行わせて幾人もが犠牲になってもなんら気にかけない教師がいて、カエルやネズミ、蛇をとって食べなければ生きていけない空腹に苛まれ、あまりの空腹で親が子供のご飯を奪うような非人間的な世界がそこには繰り広げられているのである。
著者は同書のほかにも北朝鮮や収容所についての著書を出しているが、同書では収容所生活をしているときの家族の体験に焦点を当てて書いているという。
彼の家族はまだ北朝鮮におり、彼らはいまどのように暮らしているのか。それを考えるだけで、一読者ながら胸が痛む思いである。