紙の本
慈善事業と経営戦略
2003/10/16 22:50
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さいとうゆう - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前、わが家にこんな訪問客があった。何の気なしに玄関の扉を開けると、20代前半くらいの女性が、福祉作業所で作った化学雑巾を買ってくれと言う。2枚で2000円。思わず私は聞いてしまった。「その雑巾はそんなに価値があるものなのですか?」と。相手が答える。「これは、障害を持つ方々が一生懸命作業所で作った雑巾なのです」。使命感に裏打ちされた頑なな意志と、傲慢なまでの誠実さが彼女の顔には表れていた。
何とも言えない不愉快さがこみ上げる。これではただの押し売りではないか。怒鳴りつけるわけにもいかず、その場をやり過ごしたい一心で、露骨に不機嫌な態度を顕わにしながら、その商品を購入した記憶が私にはある。
小倉昌男は、自らの経営セミナーで参加者にこう問い掛ける。
「みなさん方は障害者のために小規模作業所をつくり、献身的に仕事をしている。しかし、そこで働いている障害者は月に一万円以下しかもらっていません。逆に言うと、皆さんは一万円以下しか障害者に給料を払っていない。それでいいんですか。見方を変えたら搾取と言われてもしようがないでしょう」(p.66)
「福祉とはよいことである」という前提は、その仕事に打ち込む動機づけとともに視野狭窄をもたらしてしまうのかもしれない。自らが弱者を「弱者」として聖化していることに気づかず、そして自らの慈善精神を他人も共有して当然だという確信をあからさまにして恥じ入ることがない。
誰が作ったものだろうが、いいものならば客は買う。当たり前だ。売り手に買わせようとする配慮もなく、「福祉事業」の名のもとになされる「やさしさ」の押し売りは金輪際ご免である。小倉昌男の説くことは至極真っ当だ。
《いま、障害者に必要なのは、社会に出て健常者と肩を並べて仕事をし、自立できるだけの給料をとる仕組みをつくることではないか。それが真のノーマライゼーションだろう》(p.46)
重度の身体障害を持つ評論家の櫻田淳が、補助金生活から脱却し、納税者となったときの喜びを感慨深く語っていたことを思い出す。
手厚い保護は「愛情」ではない。むしろ成熟への「疎外」だ。同じく「哀れみ」は「優越感」に支えられてはじめて機能する。「かわいそう」という言葉ほど、相手に失礼なものはない。
「経営」という発想を手に入れてようやく、作業所は「企業」になる。そして実際、小倉昌男はいくつかの事業をすでに成功させている。焼きたてパンの店「スワン・ベーカリー」と併設された「スワン・カフェ」は着々とその業績と店舗数を増やし、2003年には「スワン製炭」を立ち上げ、障害者による木炭事業を本格化していると言う。「パン」といい「炭」といい、消費者の動向をつかまえた事業展開はさすがとしか言いようがない。
他にも豆腐や惣菜の製造販売から、クリーニング・ビル清掃など、現在活動している団体もいくつか紹介されていて、その裾野が今後どんどん広がっていくことは間違いない。
また、小倉昌男の経営哲学が本書には一貫して流れているので、働いているすべての人が読者対象として合致しうる。私などは逆に問わねばなるまい。自分が受け取っている給料に見合ったサービスあるいは業績を、会社や顧客に対して提供しえているかどうか、と。
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さすが、の一言です。
書いてある内容はホントに、基本中の基本ですので、福祉関係者に読んでほしい本ですね
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格差問題を考える一環で読んだ本。元々は若年層の雇用の非正規化とか、自立するだけの収入が見込めないこととか、そもそも将来に希望が持てないことに問題意識があったのだが、ジャンルは違うものの「障害者」の自立を、「経営」という視点で課題の解決に取り組んだヤマトの創業者の話。その手法や、資本の論理や経営の論理の存在しなかった世界にビジネスマインドを持ち込み、既に成功事例を生み出している点はすばらしいと思うが、本業からの莫大なキャッシュを基にした財団があってこそのマネジメントだと思うので、直接参考にするのはなかなか難しいのかなと。
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自分のために書き留めておかねばならない。
「障害が重い人ほどお金が必要なのであり、それだけにやりがいがある仕事をつくり出さねばならないのです。やりがいがある仕事とは、儲かる仕事です。」
第4章で事例として紹介されている、社会福祉法人はらから福祉会の武田元さんの言葉です。
商売とは、ビジネスとは、本来、社会貢献なのです。
人々に有益な商品、サービスを提供するという意味でも、雇用によって人々の生活を支え、地域の安定と発展に寄与するという意味でも。
それを継続する、という意味でも。
それがどれほど尊いことか。
「最終的に商品を買うのは、売り手側である経営者ではない、買い手側である消費者である。だから、消費者としての厳しい視点で商品を見ることこそが、良い経営のスタート地点となる。
幸い、受講者である障害者就労施設の方々自身が毎日消費者として生活している。そんな自分が消費者の目で考える。これが経営の第一歩であり、それは本来楽しい作業のはずである。つまり、経営は「楽しい仕事である」と言えるはずなのである。」
著者によるあとがきです。
本質ではないでしょうか。
障害者福祉に無関心な方にも、「経営」の、経済の、社会の本質を考える書としてお勧めします。
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この本は実は非常にわかり易い経済を理解する入門書としてつかえます。
経済オンチ?な方にわかりやすく小倉社長の経済の捉え方を説明しています。
僕は子どもが高校に通うころに読ませたい本です。
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とてもかんたんにシンプルに経営の話が書いてある本。
そして、福祉作業所経営の問題点を端的に指摘している本。
小倉さんってすごい人だな。
本当に障害が重度で働けない人は仕方ないとしても、もっと能力を生かせるはずなのに、それができない障害者がたくさんいて、それはそうしたシステムをつくっていない経営が悪いと喝を入れている。
1度スワンベーカリーを見てみたい。
小倉さん自身も取材してみたかった。
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(「MARC」データベースより)
お役所任せじゃ、もうだめだ。障害者も、自分で稼いで社会に出よう! 宅急便の生みの親である著者が、今の福祉政策を徹底的に論破。障害者ビジネスに経営力をつけさせるべく、福祉関係者に「経営」の真髄を伝授する。
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多くの障がい者がはたらく福祉作業所では、一万円、あるいはもっと少ない賃金しかもらえないのが現実である。それは、下請けの仕事や、チャリティーバザーのような儲かりにくい仕事をしているためだ。小倉氏はそのような状況を、経営者の視点をもって解決しようとした。障がい者の自立を持続的に支援していくことに関心をもっていて、かつ経営にあまり詳しくない人にとっては非常に参考になる一冊だと思う。
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ヤマト運輸の小倉さんの著書です。ちょうどカンブリア宮殿でヤマト運輸が特集されていたので、一気に読破しました。採算度外視の傾向がある福祉の世界でいかに経営するかという内容が中心。有名なスワンベーカリーも関連する企業だったのですね。福祉以外に様々な方面で役立つシンプルな原則も有。
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結論、やはり小倉氏の生涯「挑戦心」のあるところが大好きです。
現役を退いてやることがなくった後も、最初はよくわからなかった福祉でもその意識改革から固定概念や先入観を悪とする姿勢は、私も生涯貫いていこうと思います。
全体として、「経営学、経営はロマンだ」あたりを読んでいればあまり新鮮な内容はないですが、後半の事例をまじえて何が成功につながるのかを示したのははじめてみました。
チェック
・大半の共同作業所ただもしくは原材料が安く手に入る、あるいは単純作業。
・二次産業の主役の時代は終わった。
・とにかく「できることからやってみる」それが私の経験則です。
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オススメの一言 『売るための努力をしなければ「売れない」』
この本のタイトル、「福祉を変える経営」を見て、福祉は福祉なのだから、それを変えるなんて一体どういう意味だ?と思いませんか。読めば必ず分かるはずです。今の福祉の現状を、これからの福祉の在り方を、福祉を変えていくという意味をこの本を通して考えてみませんか?
みなさんは障害を持った方たちが、施設にいるのではなく、自立して働いている、又は、働こうと頑張っていることをご存知でしょうか。そもそも自立とは、自分で稼いで、衣食などを充実させることも指すのですが、これを満たすことがいかに大変なことか、しかも障害者ならば尚更大変なことであり、そして、その現状を変えていくことがどれだけ難しいことか、容易に想像がつくでしょう。ここで、著者がどのように福祉の世界を変えていこうと考えたのか少しだけ紹介したいと思います。
著者は手始めに障害者の就労実態を調べ始めました。そして、「共同作業所」という、障害のある子どもたちに実際に手に職をつけさせ、作業所内でさまざまな事業を行い、お金を稼いでいる就労施設があることを知ります。しかし、その施設の中で驚くべき事実があることを著者は知ります。それは、障害のある方たちは「月給一万円」という激安な給与で働いているという事実です。確かに、その障害者の方たちに任せられている仕事というのは、簡易な下請け作業で小学生にもできるような作業です。だからといってさすがに黙っていることはできません。そこで、この問題を著者は、「経営者」という経験から、障害者の力でも、利益を出していけることがないかを模索します。そこで、利益を出すことで、障害者の「自立」を手助けする、という課題に立ち向かっていくのです。
また、「障害者の方たちが商品を売る」ということは、健常者の常識は通用しないことばかりなのです。商品を売るために、障害者には何ができるのか、その過程で試行錯誤することがとても重要なのです。そしてそれは私たちの、生活にも置き換えられます。要するに、良い結果を得るには、過程をサボることはありえないということです。私は、この本を読んだことで、より強くそう思うようになり、資格を取るために、基礎から学びなおすこと、部活で良い成績、良いプレーができるように地道に努力するようになりました。本を読むだけでこんなに考えが変わることはもうないかもしれません。みなさんもぜひ読んでみてはいかがでしょうか。(997文字)
(オススメ人: 浦 謙人
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神田正典さんのお勧めの一冊で挙がっており興味を持ち、福祉についての視点を深めたくて読んだ。
福祉が素晴らしいという現場の意識からの脱却が先ず第一歩であり、如何に市場経済で生き抜ける福祉の仕組みを作れるかが肝ということで本書の解釈は間違いないかな。
虐待支援につながる視点がある気がする。ぼんやりとだけど。
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オススメの一言「やらないということは進歩がないということです」
もし、目の前に1万円があったらどうするだろうか。人によっては飲みに行ったり、食費や交通費に充てたり、あるいは貯金するかもしれない。ただ、たった1万円で生活してみなさい、と言われたらそれは無理だ、と答える人がほとんどだろう。
著者はヤマト運輸に務め、ヤマト福祉財団を立ち上げ、障害者の自立支援にあたっている小倉昌夫さんである。著者は毎年障害者の働く「共同作業所」の経営者を対象とした経営セミナーを行っているが、このセミナーは多くの人に参加して貰うため、交通費や食事代も含め、資料代の5000円以外はヤマト福祉財団が負担している。著書ではセミナーで行っている内容や、セミナーを行うまでの流れ、障害者に対しての思いや、著書の立ち上げた障害者を雇用した「スワンベーカリー」などの事業紹介、そして経営方法などが書かれている。
私は著書を読んで驚いたのだが、共同作業所に務めている障害者の給料は月給1万円だという。著者は確かに障害者には支援金も出るし、親御さんも理解のある人が多いが、もしもの場合には1万円で暮らしていけない、それに障害者でも働きたいという意欲に溢れている人は多く、そんな人達に働く喜びを知ってほしい、と著書で語っている。
読んでいて面白いな、と思ったのは働くようになった障害者の方が、もらった賃金のおかげで趣味を持つようになり生き生きとするようになった、という話である。働くことは生活する為に仕方なくすること、というマイナスイメージを少し持っていた私にとっては目から鱗であった。
著書では主に後半部分に経営方法や経営のノウハウが書かれているのだが、そこを読んでいて良いな、と思ったのが、オススメの一言の「やらないということは進歩がないということです。」だ。この一言は著書の後半部分の、デメリットを克服し、メリットに変えるため、考えることが大事なのだ、と説いている部分で出てくる一言なのだが、著者は考えても出てこないなら出来ることからやってみろ、と言う。
私は時々頭で考えすぎて、実行に移せないことがあるタイプなので、この言葉を読んで取りあえず行動に移してみるしかないか、と背中を押してもらった気分になった。
読んでいて、自分の知らなかった障害者雇用の実態や、経営を行う上で大事にすべきこと、そして背中を押して貰える言葉の書いてある、きっと自分の知らない世界を知ることのできる本なので、是非読んで貰いたい。
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良書。
福祉関係者、福祉に興味ある人ならばぜひ読んでもらいたい一冊である。
そういった方には、少し耳の痛い話が随所に出てくるかもしれないが、
僕自身思い当たる所があるだけにぜひ読んでもらいたい。
重要な部分が何度も繰り返し書いてあるので、きっちり頭に入り、また読みやすい。
ただ、小倉昌男氏自身にかなりの資金力があったからこそ、このような事が出来たのだろうとは思う。
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その時代では先駆的。時代は次のステージではあると思うものの、障害者雇用に関して学ぶべきことは多い。+福祉施設の実態が透けて見える。