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この本は以前「ちくまぶっくす」の1冊として刊行されてゐました。それを当時読んだ記憶があります。おそらく学生時代か、本屋に入社して間もない頃であらうと思はれます。従つて、出版事情も現在は当時とはかなり変化があると考へられます。新版が出てゐましたので再読しました。
著者は取次会社「鈴木書店」にて「日刊まるすニュース」を一人で担当、執筆してゐた人。取次とは出版社と書店をの中間に存在するもので、他業界でいふと「問屋」に当たるものでせう。
そして日刊まるすニュースとは、鈴木書店と取引のある書店向けに提供してゐた「瓦版」と申せませう。
私が働いてゐた書店では鈴木書店との取引はありませんでしたが、学生時代にアルバイトしてゐた書店では主取次でしたので、そこで幾度か「まるすニュース」を目にした記憶がございます。手作り感覚満載の情報が紙面から溢れんばかりでした。本書にも実物が掲載されてゐます。何しろたつた一人で日刊(日・祝のぞく)発行するのだから、並大抵の苦労ではなかつたと思ひますよ。単なる本好きでは務まりません。いかに取引書店の役に立つかといふ視点で書かれてゐるので、好評をもつて迎へられたのでせう。
そのアルバイト先の書店は、大学構内の書店だつたため、主取次が鈴木書店で、補完する存在としてトーハン(当時は「東京出版販売」)とも取引がありました。ゆゑにまだ素人だつた私は、トーハンよりも鈴木書店が大きい会社だと思つてゐました。
当時はまだ知られてゐなかつた「取次」といふ会社を知つてほしいといふ意図も見えます。書籍全般に関するうんちくも述べられてゐてなかなか面白い。版型のA版・B版とは元々何なのか、海外で日本の雑誌が日本より早く売られてゐるのは何故か、奥付にはどんな決まりがあるのか、出版社・書店を作りたい人へのアドバイスなど、興味をそそられます。
また「絵本の話でも...」で紹介されてゐる絵本のリストがありますが、これは間違ひなく現在でも通用します。子供に贈るおすすめ絵本といふ意味でも、書店の児童書における基本図書の意味でも押へておきたい書目でございます。
残念ながら、その後鈴木書店は倒産してしまひます。当時の「新文化」の記事では、見通しの甘さが指摘されてゐます。岩波書店に債務を肩代りしてもらつてゐたやうです。
関係ありませんが、トヨタ自動車本社前にも「鈴木書店」なる店がありました。今はどうなつてゐるのか...と思ひ調べてみたら、今も営業中のやうです。以前行つたのは、今はなき名鉄挙母線のトヨタ自動車前駅から行きましたので、少なくとも38年前といふことになります。おお。
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