紙の本
詩だね、これは。解釈してはいけない。味わうための本だ。
2004/06/08 22:07
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投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
詩だね、これは。解釈してはいけない。味わうための本だ。
あっけないくらいに早く読み終わってしまう本だ。ブラフマンはあっけないくらい素早く読者の脳裏を駆け抜けて行く。そして、タイトルから明らかなように、最後にはブラフマンは死んでしまう。それだけの話だ。映画『未知との遭遇』と同様、タイトルがストーリーの全てである。
『未知との遭遇』の場合は未知の異星人と巡り合うまでの長いプロセスが丹念に丹念に描かれていた。最後の最後に生身の異星人と相対し、「さて、彼らはこれからどうなるんだろう?」という大いなる余韻を残してこの映画は終わった。『ブラフマンの埋葬』の場合、この謎の小動物は最初のページの最初の行で、もう主人公の裏庭に現れていた。そこからブラフマンの外観や生態や性癖についての丹念な丹念な描写が続いている。しかし、終盤のページでブラフマンはあっけなく死んでしまう。死んでしまうと当然のことながら「これからどうなるんだろう?」という類の余韻はない。しかし、確かに別の余韻がある。
作者は、既にタイトルで種明かしをしてしまっており、この可憐な小動物の突然の死で読者の涙を誘おうという意図は放棄してしまっている。いや、むしろ死はストーリーの初めのほうから、登場人物の設定の中に暗示されている。 では、作者は何を意図したのか? ──いや、解釈しないで良い。これは詩なのだ。
優秀な詩は単に作者の感性の産物であるのではない。その裏には圧倒的な筆力がある。余韻の種類は読む人によって異なるだろう。ただ、この本は誰が読んでも1行1行に作家の力量を感じずに読み進めないのではないか?
すごい詩だと思う。
by yama-a 賢い言葉のWeb
紙の本
死のにおいに満ちたおとぎ話
2004/09/23 18:35
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投稿者:とみきち - この投稿者のレビュー一覧を見る
一見、軽いおとぎ話のようだ。しかし、そこは小川洋子の世界、タイトルによる暗示が、小説全体を支配している。日常からかけ離れ、時間のとまった、死と隣り合わせの世界。大事件は起こらず、声高に主張する人もおらず、しんとした、生と死のみに支配される現実。そんな中、僕の一人称で描かれるのは、ブラフマンがやってきて、ブラフマンと別れるまでの短い時間。
舞台はこのように描写される。
『〈創作者の家〉は村の中心から車で南へ十分ほど走った、田園の中にある。畑と草地が広がる風景の中に、所々こんもりと茂った林があり、たいていその中に一軒ずつ農家が建っている。このあたりの土地特有の季節風を避けるためだ。〈創作者の家〉はそうした古い木造の農家を改装して作られた。』
ぼくは、〈創作者の家〉の管理人である。
この小説には死が満ちている。ぼくが心を寄せる雑貨屋の娘が、列車に乗ってやってくる恋人と手をつないでデートをするのは、古代墓地である。ぼくが唯一心が通じ合って話をすることのある相手は、〈創作者の家〉に工房を持つ碑文彫刻家である。来る日も来る日も墓石に碑文を掘るのである。ぼくは、骨董市に出かけ、身寄りのない年寄りのところから集めてきたという、アルバムからはがしたような、変色した写真を一枚買って、部屋に飾る。既に死んでしまったであろう見知らぬ家族の、古ぼけた写真を部屋に飾るぼくの、壮絶な孤独感。
ぼくの日常は、どこにも向かっていない。ブラフマンがやってきたこと、そして娘に淡い心を寄せること、このことだけがほんの少しだけ生きていることを感じさせていたのに、その二つが皮肉なことに最後には……。
根拠のない人生礼賛や、明日が同じように訪れることを徹底的に否定する、死のにおいに満ちた閉じた世界。ブラフマンに寄せるぼくの愛情の深まりが、孤絶した精神世界を際立たせている。
小川洋子ワールドがまた一つそこに。
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母がブラフマンはカワウソじゃないかというのだけれど、そうなの?「博士の―」と同じく静かでやさしいお話でした。
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この人の本は、やさしく、ゆったりとした感じがするようです。(二冊しか読んだことないんであれですが…。)
『ブラフマンの埋葬』は今日読んだのだが、まぁ、とにかくブラフマンがかわいい!なんなんだかは、私には良く分からなかったのだが。
ラストに刺繍作家?達にも立ち合わせたあたりに、また、優しさがあるようです。
しかしこの本は、とにかく、可愛い、ということのみが残る。
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夏のはじめの日に僕の元にやってきたブラフマンとすごしたひとつの季節の物語。
僕 とは、≪創作者の家≫という 自由に創作活動をするために 創作者たちに開放された場所の管理人である。
そしてブラフマンは小さな愛すべき動物なのだが、何の動物なのかは特定されていない。というよりも、私たちが知っている何の動物でもなく、どの動物でもあるのかもしれない。ともかく、そのことを追求することは大切なことではないのだ。
ブラフマンと僕とがすごした夏のはじめから夏のおわりまでの日々は、とてもぎっしりと詰っていて、隅から隅まで具がたっぷり入っているような充実感で溢れていた。
だがそれは、唐突に終わりを迎える。
小さなブラフマンを入れるための石棺は、必要充分で何ひとつ余計なものはないのだった。
涙が出るほど哀しいのだが、なんと満ち足りていることだろう。自分のからだと大切なほんの少しのものがちょどよく収まる石棺。そして、大切な人たちの心の中に、そっとぬくもりを残すのだ。ブラフマンはいなくなったわけではない。
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怪我をしたブラフマンと「創作者の家」を管理する私との心温まる交流。
最後までブラフマンの正体がわからなかったけど、
誰もその生物がなんなのか問いもしていないなと思った。
それだけでなく、
登場人物の名前も誰一人出てこなかった。
職業や象徴する事柄でのみ表現されてて。
つまりそこは重要じゃないのよね。
抽象的だからこそ
ブラフマンと私の心が通っているってことが浮き上がってくるのよね。
ほっこりとしてて、いつまでもこの状況が続けばいいのにって思った。
でも、読み進むうちに、
タイトルに「埋葬」ってあるってことは・・・・(悲)
そう思えば思うほど、
ブラフマンと私のキラキラした出来事が切なくて余計熱いものがこみ上げたね。
幸せなまま途中で読むのやめよかな?って思うくらい(笑)
ブラフマンが可愛くって、
最後、本当にウルウル来ちゃいました。
ずっと、幸せでいてほしかったな。
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淡々としていて、起伏のない話。それがこの小説の長所なのかもしれないけれど、劇的な展開や読後の衝撃を小説に求める人には退屈なペット飼育日記になってしまうかな。とはいえ、動物大好きな自分はブラフマンが愛おしくてしょうがなかったです。やることなすこといちいち可愛らしい。いたずらっ子なのに憎めない。泳ぎが上手いあたりカワウソっぽいよね?ブラフマンって・・。一体なんだったんだろう。最後のささやかな葬式シーンではさすがにうるりと来てしまいました。心を抉られるような衝撃はないけれど、片隅にぼんやりと灯るようなあたたかな蝋燭の火を感じられる、そんな小説。
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きれいで透き通ったような文章だと思いました。あるところで使われているラベンダー色が効いています。大切なともだち、ある動物のブラフマンを愛おしむ気持ちで切なく痛くなります。読めばきっとブラフマンがそばに感じられることでしょう。
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一度読んでみたかった作家さん。舞台も登場人物も自由度が高いです。「ブラフマン」がどんな動物なのかも規定がありません。そのあやふやな感じが心地いいです。私はブラフマン=大切なものの象徴とみましたが人によって解釈が大きく分かれそうですね。ラストは予想通りでもあり、ちょっとした意外もありました。カバーの「ブラフマン」のスペルも謎にしておくところが凝ってるなぁと思いました。
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ブラフマンがかわいい。結末は題名から察しがついてしまうが。雰囲気的には村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の、世界の終わりの方をライトにした感じ。
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穏やかなお話です。ゆ〜ったりです。読み終わったあと、ふわ〜っとした心地よい気分になります。
でもブラフマン、って一体なんだったんだろう?犬?猫?
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このブラフマン、どんな生き物なのか?想像しながら読みました。
しっぽが長くて、肉球があって
指の間に水かきを隠し持つ小さな生き物。
その様子の愛らしさ、じっと見つめるまなざし・・・
読むにつれて、ブラフマンを愛しむ僕と私も同じ気持ちになりました。
そして、喪失。
この題名からも予測される展開ですが
いきなりの死が、僕の利己的な行動によってなされたように感じました。
でもこういう行動は、誰でもとるであろうささやかなミス。
人とは、なんと身勝手な生き物なんだろう・・・・
でも、それをも受け入れる小川さんの物語。
心の中に、ブラフマンの小さなぬくもりが残る読後感。
悲しい結末ですけど、それだけではないように思いました。
さっと読めますので、午後のティータイムにいかがでしょう?
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著者の愛犬はラブラドール・R。そのためか、小説中の架空の動物ブラフマンの描写はどことなくラブを思わせる。
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固有名詞を避けて、いつどこの話ともわからない、童話のような雰囲気。ブラフマンが何の種類の動物なのかも書かれていないけれど、手触り、動き、重さや温かさは細かに伝えられている。「僕」とブラフマンの蜜月を破るのは・・・やっぱりそういう要因なのですね。
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この人も、透明という形容が似合う綺麗な小説を書く人だと思う。「博士の愛した数式」も泣けたが、最初に読んだこっちの印象が忘れられない。