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ポルノ=ポルノグラフィーの定義が「偽善や上品ぶる内面の感情を暴露したものに他ならない。W.アレン」とすれば、この作品、まさしく正統派のポルノである
2004/09/16 13:15
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作『半身』で披露されたねばねばした隠微な妖しさ、取り繕った表面からは想像できない人間の卑しさが装飾的、技巧的な文体で絡みつくように表現される。
ロンドンの貧民窟、盗品の闇売買を扱うゴロツキの一味、そこで育てられた少女スウ。「紳士」とあざなされる詐欺師リチャードが彼女に頼み込んだのは莫大な遺産を受け継ぐ貴族令嬢・モードをたぶらかす結婚詐欺の助っ人役であった。俗世間とは隔離された辺鄙な城館に住む世間知らずの令嬢モード。陰鬱に閉ざされた城館の主はモードの伯父で常軌を逸した奇矯の持ち主・蔵書家の老伯爵。古色蒼然とした権威だけに支配される使用人たちにおびえながらスウはモードの侍女として入り込み、リチャードが演ずる手練手管を助けてモードの気持ちを結婚へと向けて煽る。さてこの仕掛けがどう展開するかと読者は興味をそそられ、期待通り作者の姦計にはまり二転三転、登場人物には思いがけない運命が待ち受けることになるのだ。ミステリーの常道だがスウとモードの一人称の叙述が交互に織りなされ、心象情景の表面と裏面が対照的に描写される。
舞台はもうひとつ、貴族たちが世間をはばかる身内を隔離しておく気狂い病院が用意されている。貧困の中の猥雑と喧騒(ロンドン貧民窟)、没落の上流階級にある陰湿な狂気とエロス(荊の城)、そして人間性を抹殺する残忍な暴力(気狂い病院)。読み進むと小気味よいストーリー展開があるのだが、難をいえばこの三つの舞台に置かれた女性の心理がひどく微細に描かれ次の展開を期待するものにとってはくど過ぎるぐらいである。
時代はこれも『半身』と同様にビクトリア朝だ。19世紀の第四・四半期は産業革命の成果を収穫する「ビクトリア朝繁栄期」と呼ばれ、イギリスの繁栄が絶頂期に達している。王侯貴族の支配下で新興勢力の台頭、労働者の量産があった。いっぽうで、18世紀からこの時代は「ポルノグラフィーの黄金時代」ともいわれている。ただ、エロティックな芸術作品があふれだすのであるが、人々は性的なものがまったく存在しないように振舞うことを規範にしていた。特に一般の女性は性的なものに無知で子供のように無邪気であるのがいいとされた時代である。著者のモード像にはこの皮肉がたっぷりと反映されている。また表面はまじめな紳士が裏ではポルノグラフィーと娼婦を愛好したものだ。著者は『荊の城』の背景にこの「ビクトリア朝の偽善の道徳」を据えていることに着目しておきたい。
蛇足ながら、もともとポルノグラフィーは一部の王侯貴族や大金持ちのものであった。偽善を偽善とする合理主義の中産階級が勃興し、彼らがおおっぴらに楽しむとはじめて社会問題化するのだが、『荊の城』の時代はちょうどそのころにあたるのだろう。
ミステリーとしてもまずまず楽しめるが、実はエログロにサディスティックが加わる「18世紀の王侯貴族が親しんだ『上品な』ポルノ小説」の風情がある。
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ミステリーチャンネル3人衆お勧め本。前にこの作者の『半身』(2003.6読)を読んでミステリー的要素だけでなく文体にも興味を持ってしまったものだから、図書館で見つけたときに、即予約をいれてしまった。やはりかなりの人気らしく予約をいれてから手もとにくるのに2か月近くかかった。で、読んだらやっぱり面白い。下巻もいっしょに予約すればよかったー。
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同じ作者の『半身』よりこちらの方が読みやすい。
途中でええっ!また途中でええっ!
最後にええええっ!
長い外国文学だがあっという間に最後までダッシュ。
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同じ作者の前作「半身」と同じく、19世紀ビクトリア朝のロンドンを舞台にしているが、物語は速いテンポで展開する。
ロンドンの監獄に近い怪しげな下町で育った掏りのスウは17歳。故買屋の親方の家に住み、赤ちゃん斡旋を生業にする「母ちゃん」に育てられたにしては、愛されていて幸せな毎日だった。
ある日、詐欺師の「紳士」がスウに仕事を持ちかける。田舎のお城に住む世間知らずの17歳の少女を騙してその財産をそっくりいただこうと言うのだ。誘いに乗って貴婦人の付き添いとなるべくプライア城(荊城)に赴いたスウは、荒れたお城の囚われ人のような令嬢モードと出会う。スウの隠された目的は、紳士とモードを駆け落ちさせること。スウの奮闘が始まって・・・・
三部からなるこの物語、各部ごとに語り手がスウ→モード→スウと変わり、そのたびごとにまるで物語はまるで違う側面を見せ、別のお話を読んでいるよう。
威勢のよい掏りのスウと、偏屈な伯父の手伝いをさせられているモードの感情の交流が、謎を複雑にし、物語は二転三転する。展開の速さといい、謎の入り組み方といい、読んでて飽きなかった。
濃密な時代の雰囲気が立ち込める中、スウやモードの心のひだが精密に描かれながら、物語は快調に展開していって、思わず引き込まれてしまった。
しかし「半身」とはまるで違う、と読んでいるときは思われたこの作品だが、読後感はどこか共通する。それに、こちらの方が「半身」って言うタイトルがぴったりなんじゃないかしら。
そして最後に残った疑問は、これって、「そして二人は幸せに暮らしました」って言うお話なのかしら?と言うことでした。
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▼ゆっ、百合小説でした……!▼もとい、このミス2004年海外ミステリ一位の「荊の城」です。タイトルからもわかる通り、『眠り姫』のモチーフを使っています。▼これは萌えます。世間知らずのお姫様と元スリの侍女との関係がひっくり返るところが面白いです。嗚呼驚いた、琥珀さんかと思ったよ私ゃ。▼まだ上巻だけしか読んでいないのですが、先が気になって仕方ありません。今までの前提が根底からひっくり返されていくのが爽快で堪りません。(05/01/05 読了)
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素晴らしい!の一言です。
独特の文体には、多少慣れが必要ですが、後からそれほど気にならなくなります。この巻の最後は、久々「やられた!」と感じました。それが何かは、読んでからのお楽しみです。
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19世紀のロンドン、ごみごみとした場末の、掏摸・泥棒・詐欺師の集まる故買屋でスーザンは暮らしていた。「紳士」と呼ばれる詐欺師の計画に乗って、郊外の荒れ果てた城に住む令嬢の侍女として働く事になる。
「紳士」とスーザンの企みは成功するかと思えたが。。。
騙し、騙され裏切られ、数奇な運命をたどる、二人の少女。
公開処刑で盛り上がり、詐欺師が跋扈する当時の市井の暮らしや本に埋もれた老貴族の優雅な(?)趣味も興味深い。
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サラの二冊目。
今回は上下巻。
今度はロンドンの下町と古城が舞台。
いびつに捻じ曲がった運命に翻弄される少女二人。
とりあえず上巻のラストに悶えまくろう。
今回も、圧巻。
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指さばきの巧妙さに酔いしれる極上ミステリー。
レズビアン風味の驚異的な描写はサラ・ウォーターズならでは。背景としてのヴィクトリア朝ロンドンもまた楽しみどころのひとつ。
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サラ・ウォーターズのは怖いって判ってたはずなのについ手にとってしまって・・ドロドロ(泣)。
ホラね予想通りの展開〜と思っても、それで終わってくれない。いろんな意味で(?)ドキドキさせられたよ。
『半身』よりも読後感が良くてホッとした。
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立場も外見も性格も全く正反対である二人の女の子が主人公のミステリです。いわゆる百合小説ではあるんですが……違和感なく読めます。同性である彼女を好きになる過程も、その心理描写も、ミステリとしてのパズルも、見事としか言いようがありません。久しぶりに出会った面白いミステリ小説でした。
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線路ならぬミステリーは続くよどこまでも。いや、でもこれをミステリーとして読んじゃ間違ってもダメよ!これはれっきとしたファンタジーなんだよなぁ。だからこのミスとかそんな賞とっちゃってるばかりにバッシングの憂き目にあう。完璧なプロットがなんぼのもんじゃい。惑わせるって意味では最高ですよ。江戸川乱歩ファンにはオススメ?いわゆる耽美派?あ、違うのか。
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うーん、もっとミステリな味わいを期待して読んだんだけど・・・。この人の作品は、仕掛けの底意地が悪いというか、あんまり好きじゃないなぁ。最近のミステリ、肌が合わなくなってきてるのかも。
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上下続けて読む。長かったし、辛かった。裏切りに次ぐ裏切り。誰も信用できない。もう一回は読まないだろうな。疲れちゃうから。結末分かっちゃったし。
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2004年の「このミス」「週刊文春ミステリベストテン」で堂々第一位となった人気作。本国ではCWAのヒストリカル・ダガーを受賞。一読おくあたわずとはこの本のことでありましょう。こんなに面白い本は暫く出ないかな、というくらいの傑作。原題は「fingersmith」、スリのことです。下町娘でスリのスウは歳かっこうが似ている令嬢をだましてその財産をだましとるたくらみにひきずりこまれます。箱入り娘でおとなしいけれど知的で冷静な令嬢モードはスウの知らないタイプの人間で、スウは初恋にも似た感情を抱くのですが、計画はどんどん進行します。さてさて。途中で物語の語り手がスウから令嬢モードに変わるのですが、ここからがこの本のキモ。驚愕の真実、疾風怒濤のどんでん返しがこれでもかと。