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紙の本
残念ながら机上の議論に終始している
2007/06/25 11:19
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
平成の大合併で日本の市町村の数は激減した。広域行政、そして地方分権、そして財政危機の超克が叫ばれている。本書はそうした状況をふまえて今後の日本で地方がどう生きて行くべきなのかを論じたものである。
が、残念ながら読後感は芳しくなかった。なぜだろうか。著者は制度の問題としてしか地方を見ていないからだ。議員の数を減らせ、地方自治体はお役所体質を改めよ、市民は議会や役所を監視せよ・・・・等々のきれい事が並べられている。なるほど、それらはどれも正論ではあろう。だが地方の問題とは、そういう制度的な改革や「意識の変革」で片付くものなのだろうか? それで地方は甦るのだろうか? その程度のことで済むなら、政治家はずいぶん楽な商売だよなと言いたくなってしまう。
例えば北海道である。著者は道州制による地方分権に肯定的なようだ。しかし北海道に、特に道東部に行ったことのある人なら、問題はそう簡単でないことを知っているはずだ。道東部には、北海道の道制をやめて内地のように県制度にしろという声があるからだ。なぜかと言えば、北海道の人口が札幌に集中しているのは道制のためであり、内地のように県制度にすれば、例えば釧路や北見を県庁所在都市にすれば、道内の札幌一極集中は押さえられると見ているのである。
もとより県制度を導入しても北海道の経済的落ち込みを立て直すことは容易ではあるまい。漁業や石炭といった主要産業が軒並み不振の北海道で、道内の「地方分権」を拡充しさえすれば経済状態が変わるというものではないことは、見やすい事実である。逆に言えば、市町村合併や議員削減といった制度改革でも事情は同じだということだ。問題の本質は産業構造の変化であり、その中で北海道は経済的に凋落しているわけであって、そうした変化を見据えて北海道の産業をどう建て直していくかこそが政治家に突きつけられた課題なのだから。
もっとも著者は机の上の空論だけ並べているわけではなく、一応それなりに地方の声を汲み上げようとしてはいる。しかし実例が圧倒的に不足しており、それが本書の説得力を著しく削いでいる。著者の専門が行政学だから、というのは言い訳にはなるまい。なぜなら地方の困難さの最大の原因は産業構造の変化にあるのであって、その点を見ないでこの問題を論じるのはいわば食物のない場所で料理番組をやるようなものだからである。
地方の政治家はほとんど例外なくこの問題に直面して苦悩している。それに対して著者のように東京の大学を出て東京で大学教授をやっている人間がこういう本しか書けないという事実は、問題の根深さを示していると言えよう。無論、「くやしかったら東京に来い」などというたわけた言説をもっぱらにする人間は論外である。東京が強いのは、三権が集中する首都だからであって、北海道の人口が札幌に集中するのと同じ構造なのだ。つまり、官公庁が集まっているからこそ強いのであり、くやしかったら公的機関を全部放出してそれでも繁栄できるところを見せてみればよいのである。
なお、著者は地方を甦らせるための森林公務員制度を提唱しており(237ページ)、これは本書では珍しく具体的な提言である。実効性があるかどうかはともかく、もっとこういう提言を入れるべきだった。もっとも、さびれる地方は何もしないで放っておけば原始林ができあがって素晴らしい、なんてトンデモナイことを信じ込んでいる人には、一読の価値はありそうだ。森林は放置すればいいというものではないし、白神山地には人の利用を前提とする地域が多い。これについては、鬼頭秀一『自然保護を問いなおす』を読まれたい。
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