紙の本
奇妙な魅力に溢れた作品世界の源泉とは
2004/07/28 00:03
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投稿者:花月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作がかなり猟奇色が強かったので、タイトルを見て、今回も?と読む前は少し構え気味だった。
しかし、実際、読み始めると予想外にホラー色が薄く、いつもの北野ワールドを堪能することができ一安心であった。
北野ワールドに接するたびに感じるのは、作品全体に漂うどこか懐かしい感覚である。
この感覚は、北野勇作の他の作品の解説などでも取り上げられたりしているが、何故そういう風に感じるのか少し客観的に考えてみた。
描かれる静謐な風景、登場人物の淡々とした語り口や諦観などによって、作品から受ける印象が、どことなく廃墟に似たものとなっている。その廃墟のイメージが一種の懐かしさを感じさせているのではないか。しかし、それだけが理由ではないように思える。
あらためて、主人公の行動パターンを追ってみることにしよう。作中、主人公は、町中を歩き回っているうちにいつの間にか見知らぬ場所や奇妙な場所に行き当たる。ところが、主人公はそのことに大きな疑問も感じずそこで事件を経験し、また元の街に帰ってくる。このパターンは、よくよく考えてみると夢の構造に似ていることに気づかされる。
その上、いつもの見知った街の普段は曲がらぬ角や路地に入り込み異世界を垣間見るのは、夢だけではなく下校時の寄り道などで子供時代に誰しもが体験した事でもあろう。
こんな風に読者に夢や子供時代の既視感を与えることが、北野ワールドに「どこか懐かしい」といった印象を抱かせる大きな理由なのではないだろうか。
今回の作品には、北野ワールドおなじみのキャラクターもさりげなく出てきたりするので、以前からの北野ファンにはうれしいお土産となっている。
猛暑の夏にふと立ち止まって、ちょっとした奇妙な懐かしさを味わってみるものまた一興であろう。
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そいつの頭には頭蓋骨がなく、握るとぐにゃりと潰れてしまった。泣きながら訴える妻のために、私はそいつを捕まえに出かけたのだ。それがすべての始まりとも知らずに…。人の存在の危うさを描く北野ワールド最新作
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大災害後、遺体安置所で知り合った女性に連れられ、やってきた人面町。
彼女を妻とし、暮らし始めた作家“わたし”の奇妙な日常生活。
ホラー文庫の連作短編集で、それぞれに「鱗を剥ぐ」だの
「耳を買う」といった、いかにもな副題がついてるけどホラーの味わいはそんなに強くはない。
そこはかとない恐怖はちりばめられてるものの可笑しみのある文章と
昭和の匂いがするどこか懐かしい人面町のイメージが穏やかな読後感を残す。
人面町はどこかズレた不思議な町で毎度“わたし”は
怪しげな人物、奇妙な生き物、怪現象に遭遇するのだが
とまどいながらも妻に丸め込まれたりしながら日常として受け入れてゆく。
SFのティストが強い作品なんだけど不思議なものを不思議なままで
放り出した感覚はなんとも新鮮だった。
とりわけ“わたし”が喫茶店で原稿を書いていると
巨大な鶏が闖入してくるくだりはあまりのシュールさに大爆笑。
どの話もはっきりした落ちがなく全編読み通しても
人面町はぼわーんとした印象のままで心に引っ掛かる。
日常生活が不思議に満ちたこんな町で
気さくな奥さんと暮らすのはきっと楽しいだろうなあ。
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不条理ワールド。何が何だか意味不明だが、そこが妙にハマる。読み手を選ぶ作品だと思います。そんなにホラーだとは思わなかったな。
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題名にひかれて買った1冊の本というのはたいがい面白くもなんともない!
でも、これはよかったですよー
起承転結はあまり気にせずに、細かい事はこだわらずに、想像力だけが一人歩きするような内容の奇天烈きわまりない町の事柄が書かれています。
前に紹介した「異邦人」とはまた違った奇天烈さに妄想ふくらませつつ。。。ウヒヒ
どの章から読み始めてもOKです。
見かけたら是非手にとってパラパラと見てみて下さい。
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個人的には北野氏の小説はとても好きなのだけれど、人を選ぶ感じがしてなかなか薦められません。どちらかというと感覚的な話が多くてもにょもにょする感じを楽しむ小説だと思うんですが、理屈で読む人は「で、結局アレは何なの?」「オチは?」というところが気になってしまってあまり楽しめないんじゃないかなと思います。
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ホラーは苦手。
でも北野さんは好きなので読んでみた。
読んでみたら想像していた「ホラー」とは違ってた。
強いていえば物凄く広い括りの「スプラッタ」?
でもスプラッタかと問われると頷けない様な、そんな本だった。
ホラーが苦手な人でも平気。
きっちりした答えを求めたい数学寄りの人にはお薦め出来ない。
多少の疑問は解決しなくても流せる人ならいける。
はず。
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何だったのか、何者なのか、何一つ明確な答えは出ない。
白黒つけず、グレーにもならないおぼろげなモノを許せる人向け。
ぼんやりとそんなものなんだと思える世界が面白い。
転がり落ちた山の上の世界が妙にリアルで惹かれた。
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夏の角川ホラー祭。「怖くない」「面白くない」「文章がひどい」という3つの恐ろしさを持つ角川ホラー文庫。
人面町という街に婿に来て、小説やアルバイトをしながら暮らす主人公。妻の実家はもともと「人面工場」だが、そもそも「人面」とは何なのか?また、すり鉢状の道を下っていくと、頂上へ「下る」。巨大なモグラに家を壊されたり、人面工場では謎のサメ人間に追いかけられることになる…。
なんというか、筒井康隆が好きなんだろうなあという部分と、ネット上の「怖い話」などを集めてきたんだろうなという部分の2通りが非常に多い。
改行をせず、場合によっては句読点無しでああでもないこうでもないひょっとしたら違うんじゃなかろうかそんなこともあるかもしれないがそれも違うかも、なんていう文章は筒井流だろうが、そういう文章が活かせているのかどうか、なんとも判断しづらい。それを繰り返し使っているのは、明らかに効果を殺しているとしか思えない。
また、ネットのネタをちょいちょい使うのだが、こちらも「ネットのネタだなあ」としか感じなかった。効果的な使い方もあろうに。
全体に、語彙や知識が足りていないという、角川ホラー作家にありがちな中途半端な読後感。レトロな小説のパロディーにするとか、もう少しやり方があったのではないか。