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紙の本

珠玉のコミックとエッセイが心に染み入る---やまだ紫待望の新刊

2004/12/06 18:40

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:TOMCAT - この投稿者のレビュー一覧を見る

やまだ紫はあのCOMでデビューし、後ガロでも活躍する二大「伝説の雑誌」出身の実力派作家だ。漫画史に残る名作「性悪猫」「しんきらり」といった代表作の印象が強いが、故吉原幸子氏主宰の詩誌「ラ・メール」に連載した詩画集「樹のうえで猫がみている」も高い評価を受けるなど、詩人としても活躍している(ちなみにあの故宮柊二主宰の短歌誌「コスモス」に現在も詩画を連載中だ)。またエッセイストとしても毎日新聞に異例の3年に渡って「お勝手に」を連載するなど、多岐に渡って活躍している、押しも押されぬ女性作家の第一人者だ。
本書はその作家の(文庫化などを除けば)実に7年振りの新刊である。その間、作者は病気、手術、予後のリハビリ(?)などもあり、思うような創作活動が出来なかった。
本書のメインはあの、復刊した「ガロ」に98年と2000年に連載された、「招く猫」という短編シリーズ。そしてそれぞれに呼応した、2004年書き下ろしのエッセイが同じ数だけ収録されている。漫画も実に深いが、このエッセイも読み応えがある。今の世相を憂い、人は本来どうあるべきか、を平易な言葉で実体験を語りながら、こちらの魂に訴えかけてくる。作家である前に何より人間であり、生活者である視点からの鋭い指摘や示唆に富む逸話が心に沁みる。
こんな時代だからこそ、至極まっとうな、当たり前な「生き方」「愛のかたち」がどれほど大変なことなのか、という訴えが必要だ。そのことは、彼女の代表作「しんきらり」でも重要なテーマとなっていた。
やまだ紫は、「女性」漫画家が自由に、内面やセックスや不倫だのといったドラマを描ける時代よりはるか前に、孤軍奮闘した作家だ。先駆者というものはいつだって、自分が切り開いた道を後から要領良くホイホイとついてきた連中にいいとこ取りをされる。けれど、今こそ正当な評価をきっちりと与えるべきだ。今ブームであるとか「キテる」とか、そういう軽薄な視点はもうそろそろいいのではないだろうか。
やまだ作品は、もちろん女性の支持者が多い。そして男性からは「怖い」と言われたりする。だがよく読んで欲しい、この作品は暖かい。特に漫画の最後の一本には、心臓をわし掴みにされたような衝撃を覚えることだろう。特に男は。
近年まれにみる名作といえるだろう。

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2009/06/27 22:13

投稿元:ブクログ

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