- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
マインド・タイム 脳と意識の時間 みんなのレビュー
- ベンジャミン・リベット (著), 下條 信輔 (訳)
- 税込価格:3,190円(29pt)
- 出版社:岩波書店
- 発売日:2005/07/27
- 発送可能日:購入できません
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
7 件中 1 件~ 7 件を表示 |
紙の本
自由意志とはあることを『しない』ようにすること
2007/05/31 00:16
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲベリン - この投稿者のレビュー一覧を見る
状況にかかわらず何かを『しよう』とすることこそが自由意志だと考えている人たちは、この本を読んで衝撃を受けることになる。なぜかと言うとこの本の著者の実験によって、何かを『しよう』と決めたと本人が思っている時刻よりも前に、既に脳が活動を始めてしまっていることが明らかにされたからである。逆に言えば分かり易い。何かをするための無意識な脳活動が始まった「後に」本人が何かを『しよう』と意識するのでは、とても自由意志で何かを『しよう』としたとは言えないということである。
この事実を明らかにした実験は一見複雑なものではない。被験者は自分の好きなときに手首や指を曲げてよい。ただ曲げようと決めた時刻を覚えていて実験者に伝えること。これだけである。反論は多々あろう。例えば「被験者が『自分の好きなとき』ということを意識したために、先行する脳活動が生じたのではないか。」とか「被験者が時刻を伝えるというのでは、その時刻自体が信用のおけないものになるではないか。」とかである。ところが筆者はそれらの反論に対して根拠を挙げて反論し、ことごとく退けている。そのため実験結果と、それへの反論と再反論が書かれている本書の前半部分は決して読み易くはない。しかし「直接的なテストによって検証されていない仮説は相手にしない」「検証可能な理論でなければ意味がない」という著者の慎重な科学者としての良心を感じる部分でもある。
それでは筆者は自由意志を否定しているのか? いや、筆者は自由意志を肯定している。ただしその自由意志とは、実験結果から導き出された自由意志である。それは、あることを『しよう』とする意志ではなく、あることを『しない』ようにする意志である。脳から勝手に沸き上がる考えや衝動を制御し、場合によっては止める意志である。だいぶ消極的になってしまったようではあるが、それでも罪を犯してしまった人に対して責任を問える(だってあんた止めなかったじゃないか?!)し、個人的にはこちらの自由意志の方が実感と合っている。
…ということで、お堅いだけの本のように思われたかもしれないが、後半はそうでもない。デカルトと著者が対話したり、ちょっと怪しげな「意識を伴う精神場(CMF)理論」なるもの(だがちゃんと検証可能で、検証実験のデザインもされている)が出てきたりと、結構わくわくして読める本である。
最後に、この本のおかげで(自分で言うのはちと気恥ずかしいが)多感な青春時代に自らを責める原因の一つであった、人として考えてはいけないことがどうしても頭に浮かんで来てしまうということについて、完全に吹っ切ることが出来た。だって、脳が勝手に思い浮かべてしまうのだからしょうがないやな。
紙の本
必殺の0.5秒?
2007/05/16 23:22
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
0.5秒。この時間は例えば短距離走に関わった人であれば、相当長い時間に感じられるだろう。今目の前にあるパソコンの最小反応時間が0.5秒だったら使い物にならない。0.5秒とは著者が本著に示した実験で、人間の脳が刺激を実際に「感じて」からそれを「気づく=アウェアネスを得る」までの時間だ。さらに、彼は別の実験で、人間が実際に行動を起こす0.4秒前に「無意識」のうちに脳内にそれに先行する信号が起動することを証明したというのだ。となると「自由意志」というものはどうなるのか?
脳科学の動向に疎い私だが、前半の章で提示される、彼の説の基礎となる実験がかなり昔のものであることは気になった。約30年ぐらい前の実験が中心になっているようだ。この30年というのはかなり長すぎる時間だ。そして彼の学界での立ち位置も、かなり多くの反論に囲まれたものであるようだ。憶測だが、彼の提示したこのテーマ自体が「人間の自由意志」の存在そのものにかかわる、重大すぎるものであるため、長い間、啓蒙書レベルで語られることが避けられているのかもしれない。
とはいえ、脳や神経という物質の中に当然ある、処理速度、伝達速度など物理的時間という問題と当人の感じる時間感覚との関係についてはぜひ、脳科学の分野の後続の研究を知りたいところである。
本書の著者はデカルト、スピノザ、ニーチェ(おそらくはベルグソンも)などの哲学の試みにも向きあいながら、後半の章で彼なりの心と脳の関係について興味深い自説を試みている。現代哲学の文脈で語られる時間論に、違和感や「疲れ」を感じた方にはよい気分転換になるかもしれない一冊である。
7 件中 1 件~ 7 件を表示 |