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500頁超をすらすらと読ませるのはすごいし、最後の謎解きもある。ただ、終盤の主人公やそれに応ずる周囲の言動、物語の展開にはやや不自然さを感じる。作者としてはそれも承知の上なのだろうが、何だかすっきりしない。
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上海で暮らし、10歳のある日突然孤児となったクリストファーがロンドンで有名な探偵となり、両親の行方を追う。
両親がいなくなった時から、まさに孤児のように目の前の厳しい現実と向き合って強く生きてきたクリストファーがたどり着く事実は辛く悲しいものだった。
しかし、そこには母の長年絶えることのなかった愛情があった。
母と自分の消えることのない繋がりを見出すことができたクリストファーは、ついに孤児であることをやめることができたのだ。
切なくて美しい話だった。
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カズオ・イシグロの想像力は現実の枠を超える。そのことは「私を離さないで」を読んでよくわかったのだが、本作でも子供時代の探偵ごっこそのままに探偵になった男が登場する。彼が戦火の上海で20年前に行方不明になった父母を探し始めるに至り、この小説は「私を離さないで」のような妄想を籠めたフィクションなのか、それとも現実の範疇に収まる話なのか、が気になってくる。結果はここには書かないけれども、彼の想像力の巨大さに今回も圧倒されてしまった。その意味で、期待を裏切らない一作だったと言える。
思えば、カズオ・イシグロ自身が子供時代のごっこ遊びをそのまま頭の中に抱えているのかもしれない。
「ノスタルジックになるっていうのはすごく大事なことだ。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子どもの頃に住んでいた今よりもいい世界を。」
(444ページ)
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ああ。静かに感動した。
語り手の記憶に基づいて進行し、徐々に真相が明らかになる。
何事よりも自分の「仕事」に徹する様は、「日の名残り」の執事と重なる。
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カズオ イシグロの小説 私を離さないで が日本でテレビドラマ化されるらしい。そんな事もあって、本棚を覗き、この本を手に取った。
彼の世界観を語れる程、私は彼の著作を読み込めてはいないかも知れない。しかし、何か共通する底流のようなものが、あるような気がしている。孤児というキーワードは、大人が押し付け抗えない運命により、子供が置かれた状況だ。運命による無力感は、子供だけではなく、戦争状態に置かれた大人、組織の利害の渦中に置かれた大人にも生じる。そう、大人であっても、孤児同様、抗えない運命に左右されるのだ。この事が、日系英国人としての運命を背負ったイシグロの醸す雰囲気の原点なのかも知れない。
我々は、より大きなものの利害により、自らの選択肢を狭められ、時に選択を強制される。両親の選択、叔父や友の選択。選んでいるようで、実は選ばされている。この物語のどこに救いがあるというのか。いや、あった。物語の最後、彼は自ら孤児を引き取り、暮らしを選ぼうとするのだ。ようやく初めて、タイトルの通り、孤児は過去形になるのである。
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この本で、本の読み方が一つ身に付いた。書かれていることを全てと思わず、語られていないところにこそ作者の意図があるということ。
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3冊目のカズオイシグロ。
読了後、頭を殴られたような衝撃を受ける。
小さい頃、失踪した両親を捜す為に探偵になったイギリス人男性が主人公の探偵小説...と思って読んでいた。
大人になり、イギリスで探偵として成功している現在から、幸せな上海での子供時代を振り返る前半。満たされた、美しい、懐かしい少年時代。優しい両親と、アキラという日本人の男の子との大切な思い出。どこか歪んだ印象を受けるけれど、両親が失踪した事を覗けば、幸せな少年時代。そして、探偵として順調にキャリアをつみ、充実している現在。少々退屈してきた頃に、主人公は両親を捜す為に上海へと旅立つ。
この辺りから「オヤ?」と思う。
主人公の語る事と、実際におこっている事との違和感。ドロドロと醜い姿を現そうとする現実を、決して見る様子の無い主人公から、コミカルな印象すら受ける。
終盤、戦場となっている貧民街に突入しても、その態度は変わらない。倒れている日本兵を、特に根拠もなく幼なじみと決めつける態度。そういえば、何十年も前に失踪した両親が、幽閉されているってどこに根拠が?両親が助け出された後の式典って一体なんなの?
...ちょっと気づくのが遅かったかな。このアタリから物語の中の違和感が突然形をなしてきて、ゾクゾクッ鳥肌!
上海に両親を捜しにきてから先は、一気に読み進めてしまった。少し落ち着いたら再読したい。今度は主人公の言う事は鵜呑みにせずに...。
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一貫して、主人公の語りで綴られるストーリー。
子供時代を過ごした上海の租界でのキラキラした思い出。
父と母の失踪。
大学卒業後の探偵としての成り上がりと、社交界での華麗な日々。
そして、上海に戻って、父と母の事件を調査する様子。
哀しい結末。
ストーリーの流れだけを見ると、冒険小説のようだけど、実は全く違っている。
予備知識なしで、ワクワクドキドキを期待し読んでいたので、少し戸惑った。
まず、主人公は、推理をしない。びっくり。
また、主人公は、人間誰しもがそうであるように、記憶を自分の都合のいいようにつくりかえているようで、ところどころ、後半はかなりの部分に違和感が出てくる。
幼少時代のオールドチップ論争からはじまり、クン警部の伝説化、自分が名探偵だというのも少し疑わしい気がする。
極め付けは、両親の誘拐から20年近くたっているにもかかわらず、まだ生きていて同じ場所に幽閉されていると信じきっているところ。
さらに、その事件の解決が世界を救うことになると、自分だけでなく全ての人が信じていることを信じているところ。
アキラとの再会。
これには、孤児という拠り所のない立場の主人公が、自分の内的な世界に居場所を求める悲しさがあった。さらに、フィリップおじさんとのラスト近くの会話で、世界が美しいものではなかった、と知るところは主人公に追い撃ちをかける。
主人公の世界が崩壊してしまうかと思ったけれど、母親や養子にとった家族の存在が、心をつなぎとめ、その時、孤児ではなくなったのだと感じた。
結論、なんだかよくわからないけれど、深い余韻が残る作品でした。
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カズオ・イシグロのわたしたちが孤児だったころを読みました。
イギリス人のクリストファーは上海の租界で貿易関係の仕事をしていた父と美しい母とともに子供時代を過ごします。
ところが、父と母は失踪したのか誘拐されたのか突然失踪してしまいます。
大人になって探偵で名をあげたクリストファーは父と母が失踪した真相を探るため戦争中の上海に戻ってきます。
そしてそこで明かされた真実は驚くべきものだったのでした。
カズオ・イシグロの小説は面白いのですが、背景を丹念に描きその積み重ねで事実を語るという手法なので、通勤電車で細切れに読んでいるkonnokの読書法とは相性が悪いなあ、と思ったのでした。
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主人公であるクリストファーバンクスによって物語が語られていくが、主人公はいつでも未来にたっていて過去のある時点がその時によって語られていく。探偵らしいが、事件そのものが語られることはない。行方不明になった両親の行方を追い、故郷の上海へと渡るが、そこで新たな事実と出会う。その事実は本当にマジで容赦ない。今でもたまに思い出すくらいどうしようもない。わたしを離さないででも思ったが、カズオイシグロ凄すぎる。
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大好きなカズオ・イシグロ。
『日の名残り』を読んで以来、夢中になり順番に読んで来ました。
これで彼の物語で翻訳され本として出版されているものは全て読んだことになります。
『わたちが孤児だったころ』は正直、私にとっては難解で読み終えるまでの時間が1番かかった物語でした。
カズオ・イシグロの物語は全容がけっこう読み進めないと見えてこないという印象が強いですが、特に今回は本当に最後の最後まで良く分からず・・・
ただその分、残り十数ページで全てが繋がりはじめた時の快感は格別でした。
最後のページの最後の行を読み終えた瞬間、主人公が物語の中で見てきた風景や彼の子どもの頃の思い出が、まるで自分がかつて経験したかのように次々と思い出されて行くのには驚きました。
しばらく時を置いてからもう一度読んだら、また違う受け止めかたができそうな一冊です。
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これを書いていたら、カズオ・イシグロさんが先程ノーベル文学賞に選ばれてびっくり。おめでとうございます。
この小説は、一言で言うと痛くて悲しいけれど少し希望もある不思議な回想録。
主人公の記憶の曖昧さや、思い込みや現実との乖離が気になりながら静かに引き込まれて行った。
同級生との会話の齟齬から始まり周囲からの歓迎ぶりや賞賛…上海での戦場シーンは特に何かがおかしくて、幼なじみとの邂逅シーンでは、実はアキラではなかったのかもと呟いている。
再会を熱望していたのは事実だろうし、一度は見かけた気がしているし、ならば戦場で出会った人物がアキラではなくて彼の妄想だったとすれば、怖いながらも痛く悲し過ぎた。
《両親を探し当てた後に開かれる予定の式典》は特に疑念でいっぱいだったが、まんまとイシグロの術にハメられ、結局、そんなものは開催される筈もなく、彼の妄想だと後から気付いた時にはゾッとした。
終盤、それまでの品位ある静謐な雰囲気から一変、唐突な叔父さんの独白はやり切れず、そこまで言うのかとおののいた。
終始彼の頼りなさや勘違いを感じていたけれど、それはある種の自己防衛本能で、叔父さんの衝撃の独白の前ではアリだと思えた。
とはいえ実のところ彼はそれを静かに受け止めたのかもしれない。母との辛い再会も彼の受け止め方は彼らしく、ずっと愛されていたことの方が大事だと考えるところが素直に素敵だと思えた。そして養女ジェニファーが最後の希望となり救われた。
読後、不思議な余韻が続いた。1930年代の美しい上海租界の情景が鮮明に浮かび戦場のシーンを除けば全体的にとても美しかった。
残酷過ぎた『わたしを離さないで』を超えて、カズオイシグロワールドを堪能した。
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父母と離ればなれになった遠い記憶をたどりながら、異国である生誕地・上海を想うイギリス人探偵。日本人の幼友達との良き思い出や、魔都に潜む闇も思い出される前半から、両親の消息を追って戦地となった上海に乗り込む後半は雰囲気がガラッと変わる。記憶とは、故郷とはそれぞれどんなものなのかと自分を振り返っても考えてみる。
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「ほほぅ、ノーベル文学賞はカズオイシグロという人か。なになに?本が売り切れじゃと?たしかうちに1冊あったな、どれどれ」
という感じで読み始めた本書。以前、途中で挫折したのを思い出す。
今回はがんばって最後まで行き着くが、これ、そんなにいいか?主人公の「母恋」話だが、主人公の行動に賛成できないし、文章表現も響いてこない……。
全作読んでいる友人いわく「上手な村上春樹」だそうだが、「下手なフィッツジェラルド」というのが自分の印象。
好きな人にはいいんだろうなぁ。「ノーベル賞受賞につられて買った」というだけの人の本がこれからブックオフに山積するのであろうなぁ。
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現在はイギリスで有名な探偵になっている主人公のクリストファー・バンクスは、年少の頃、疎開地である上海で過ごしました。第2次世界大戦の引き金となった日中戦争の前後。
父と母の想い出と日本人の友達、アキラとの回想シーンが物語の核を成します。カズオ・イシグロの作品はこれまで読んだ限りでは、過去のシーンがその都度物語を紡いでいくスタイルですが、今回は現実と回想が重層を成しており、モヤモヤとしたままあの事は何だったのか…と幾度も振り返ってしまいました。終わり近くになって、父母が何故いなくなってしまったのか、そのキーマンであると思われたフィリップおじさんの告白がそれまでの想い出を塗り替えることになるのですが…
晩年の母と子の再会は、目の前にそのシーンが浮かぶようでした。孤児だった愛称パフィンが欲しかったのは、何と言っても親に愛された記憶。