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今から100年ほど前のアメリカで、腸チフスの健康保菌者(キャリア)という理由で30年近くもの間、隔離生活を強いられた女性がいた。市民への感染を防ぐために保菌者を隔離するということは、一見ごくまっとうな政策に思えるけれど、私がここから連想したのは、日本で行われていたハンセン病患者の隔離と、やはり日本の薬害エイズ訴訟で顔も名前も伏せていた(公表できなかった)エイズキャリアの人たち。悪いのは病魔であって、その「人」ではないはずなのに、その人の自由が奪われ、人生が狂わされていく社会って…。あまりにも難しい問題ですが、やさしく静かに問いかけてくれる一冊でした。
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チフスのキャリアであったことから自由を奪われる生活を余儀なくされた「チフスのメアリー」ことメアリー・マローンという一人のアメリカ人女性の生涯をたどり、科学と社会の間で引き起こされる問題に読者の思索を導こうとしている本です。
おそらく著者がめざしているのは、ソンタグのエイズ論などと同じく、「病」という表象が私たちの社会においてどのように機能するのか、という問題を若い読者に考えさせることだったのではないかと想像するのですが、本書を読んだ限りでは、読者は個人の自由と社会全体の安全との相克いう制度的なレヴェルの問題で理解してしまうのではないかという印象を拭えません。
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公衆衛生関係ではよく出てくる、症状はないが病気にかかっており菌を持っている、「健康保菌者」の料理人であったために雇い主やその家族を次々にチフスに感染させていった、「チフスのメアリー」についての本。
チフスという病気についての説明や、彼女がいた当時の時代背景の説明などに多少の専門用語が使われているが、この本のメインはメアリーの人生であり、全体的に読みやすく平易な言葉遣いだと思う。
「迷惑なキャリア」「無知なキャリア」の代名詞ともなっている「チフスのメアリー」がどう生き、どう死んだのかを(多少は著者の解釈も混じっているが)「一人の女性」として書いている。どんな人にも一人ひとりの人生があり、ニュースで「連続殺人犯」と紹介された人物をそのまま冷酷な殺人鬼だと思って誹謗中傷を投げかけて良いのだろうか、という疑問も抱かせる。
「放っておくと多数の人間を感染させ、病気にする人間」の自由を、「多数の人間の健康」のために拘束するのは正しいのか。私は仕事上、正しいと思う。
しかし、どの程度拘束するのか。拘束される彼、彼女たちはそれぞれ別々の人生を歩み別々の考えを持つ一人の人間であるのに、一律に取り扱っていいものか。
そういったことを考えさせる。
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2006年にひっそり初版がでていた作品がコロナ禍のいま読むべき本として緊急復刊。健康保菌者(無症候性キャリア)という存在が発見された百年前、公衆衛生学的に注目の的となって過酷な生涯を送ったあるアメリカ女性の実話を通して、個人の自由や尊厳と伝染病と闘う社会の福祉とのせめぎあいを考える。この本では一人の普通の女性が曲折を経て「病魔」「毒婦」というわかりやすい象徴となってしまった経緯を多方面から丁寧に検討しているが、医療/研究の進歩もさることながら、本人のもともとの属性や巡り合わせ、そして新聞のようなメディアがどうとらえ扱うかが、ひとの人生や社会における立ち位置に少なからず影響してしまうのだということを改めて理解でき、そうしたことを意識して自分の周囲やニュースに接することを促してくれる。
腸チフス菌のような感染症への恐怖心(最終章ではエイズの例も)を抱えて生きざるをえない生き物としての本能と共同体がそれをどう受け止め制御していくかという一事例だったけれど、感染症に限ったことではないあらゆる「個人の想像の範囲から外れうる」多様な事情を抱えた人々とどうつきあっておりあっていくかというテーマだと思った。
それにしても、14年前にこの本が出た頃は、なにをきっかけにこのテーマで出版することになったのだろう? 当時は余りそういうことに気が付かなかったけれど、狂牛病や鳥インフルエンザあたりをめぐって多少そういう懸念が生じていたのだろうか。
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住み込み家政婦として働くメアリーは料理が上手く信頼される女性だった。ところが彼女が住み込み先を変えるたびにその家からチフス感染者が出て・・・。19世紀の後半に生きた「チフスのメアリー」と呼ばれる女性の物語が、コロナの時代を生きる私たちにたくさんのことを問いかけてきます。今読んでおきたい一冊。
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「チフスのメアリー」症例がステレオタイプ化されてゆく過程をていねいに追ったモノグラフ。今回のコロナウイルス禍をうけて再版されたようだが、たしかに、いま読む意義は大きい。内容はポイントを押さえ、深いが、プリマ—新書のフォームで平易かつ簡潔、コンパクトにまとめられている。
二〇世紀初頭、アメリカ。移民のお手伝い女性メアリーが、チフスキャリアである可能性が判明し、自由を制限されて隔離される。当時の公衆衛生的状況もあいまって、キャリアであることがスティグマ化され、患者がひとりの個人であるという事実が消えてゆく。
これをみてなんとなく思い出すのは、最近のラノベなどで見かける著名作家などを用いた歴史改変的なフィクションのアイデアである。ラノベに限らず、政治家などを戯画化・物語化する演出も同じだろう。実在の人物をキャラクター化して面白がる、エンタテインメントとして消費するというメカニズム。
実在の人物が存在しているということが分かっていればよいが、通常、大衆はメディア上に現れたイメージをホンモノだと思い、好き勝手に消費してゆく。現実のその人物の生き方と、メディア上のイメージの乖離がおそらくは本書の一つのテーマになっている。
物語化・ステレオタイプ化の誘惑は大きいし、特に大衆・マスメディア社会にとっては強力なルアー(疑似餌)であることが再認識される。
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チフスのメアリーは無自覚の感染者。今回の新型コロナウイルスのことをあてはめて読んでしまう。この本では無自覚の感染者が決して悪ではないって言っている。ゼロ号患者についても色々かんがえさせられた。個人の自由をしばって隔離するなら補償が必要だってことも納得する。メアリーは普通の女の人だったと思うから。
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「チフスのメアリー」が気になって読みました。
1人の女性がある日、腸チフスのキャリアの可能性を告げられる。
自覚症状はないので、女性は戸惑い、混乱する。
検査への協力を拒否したことで、捕らえられ、長い時間を監禁された環境の中で暮らすことになり、そこで人生を終えることになる。
公衆衛生の観点と、個人の自由という観点と。
腸チフスのキャリアは彼女1人ではなかったのに、なぜ彼女だけが長期間監禁されることになったのか。
そこにある社会的な背景。当時の、世間の眼差し。
新型コロナの感染予防対策が求められる今、1人の人を「人」としてみることの大切さを改めて考えさせられました。
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非常に読みやすい一冊だった。
無症状ながら、腸チフスのキャリアとして恐れられたメアリー。彼女を生涯のほとんどにわたり隔離したことは正しかったのか、を問いかけるノンフィクション。
研究が進むより少しだけ早く、かつ有名になってしまったために、これほど隔離されてしまったメアリー。もう不運としかいいようが…。それで済ませてはいけないんだけど。でも調理にかかわる仕事についてはいけないと言われたのに、それ破っちゃダメだよ。
いまの日本で広まってほしい一冊。
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20世紀初頭でも、もし無症状の保菌者に感染リスクの多い仕事につかないように強制するならそれなりの補償をすべきだ、といった論調もあったことや、メアリーの隔離に対し人権の立場から抗議の声をあげる弁護士がいたことに少なからず驚いた。翻って今のコロナの現状を見てみると、この100年人の意識はあまり変わっていないのではないかという気がする。国の対策も過去から何も学んでいないのではないか。今この本が再販された意味は大きい。
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新型コロナウイルスの感染が拡大し続けている昨今、無症状での保菌者(キャリア)がどこにいるかはわからず、不安に駆られることも多いと思います。
特に、感染しながらも外出したり会食したりして(故意に)感染を拡大させていると考えられ、批判される人々も少なくありません。
そういった、多数の感染者を生むキャリアとして初めて歴史に名を残したのが、腸チフスを広めたメアリ、「チフスのメアリー」でした。
彼女は、社会の感染拡大を防ぐためとして、その半生を隔離されて過ごします。彼女以外にもキャリアと断定された患者もいましたが、彼女だけが「病原菌を垂れ流す悪魔」として非難され、隔離され続けたのです。
そこには、自分よりも弱いものを見つけて安心しようとする人間や社会の心理が働いていた部分もありますし、センセーショナルな報道をつづけたメディアの責任もあると思います。
「チフスのメアリー」として、もはや一般名詞のように使われている彼女ですが、彼女は悪意をもって感染を広めていたわけではないということも、その生涯をたどると見えてきます。
邪悪な象徴とされた人であったとしても、感情や悲しみ、夢を抱えた一人の人間であった/あるということを忘れず、「一人の人間を大事にする」ことが、特に今のこの社会では必要なのだと感じます。
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アイルランド系移民、カトリック、貧しい賄い婦、女性、独身…これらすべてが重なり合い、メアリーに不利に働いた。という描写が印象的。
単にキャリアの話としてではなく、実際にこの「メアリー・マローン」という女性が生きていたことに思いを馳せる。
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近所の本屋さんの特集の中の一冊。
ちくまプリマーだし気軽に読めそうと購入。
「病気になった人も一人の人間なんだから、必要以上に責めちゃいけないよ」ということだけど、今のコロナ禍にずいぶん合致していて驚いた。14年前の本なのに。
驚いたということは、少なくともメアリーがいた19世紀から、人の感情は大した変わっていないんだなぁ。国内外関わらず。
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19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカに生きたメアリー・マローンという女性の話。37歳の時に健康保菌者ながら腸チフスのキャリアであることが発覚し、以後死ぬまで2度に渡る隔離島での生活を余儀なくされた。
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公衆衛生と個人の自由の問題は難しい.この本はチフスのメアリーとして世界中に固有名詞のように知れ渡った女性個人に光を当て,健康ではあるが保菌者であったために35年間も隔離されて生きたことについて問題提議し.読者に問いかけている.新型コロナウィルスの脅威にさらされている今,切実な問題だ.文章もわかりやすく簡潔でしかも奥深い.たくさんの人に読んで欲しいと思った.