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社会福祉における古典の威力と限界、~保育士の立場から~
2009/04/12 14:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ホキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
原著は1957年著。社会福祉分野で、対人援助の基本原理をまとめた古典の名著である。
タイトルから一目瞭然の通り、本書の主要な対象は、日本で言えば福祉事務所などで活躍するケースワーカーである。しかし、われわれ保育士の業界でも、援助関係を形成する技法である「バイスティックの7原則」は、重要視されている。たとえば、保育士資格の国家試験や市町村の採用試験で「7原則」の内容を問う問題は頻出である。
「7原則」が、保育で必要となる局面は、一般的には、育児や家庭の状況について保護者と話す時であるとされている。そうした会話では、複雑な家庭の状況や辛い生育歴といったシビアな話題に出くわすことも少なくない。また、この4月から法的拘束力を持って施行された『保育所保育指針』で、「保護者支援」が保育所の業務として規定され、その支援のために保育士や保育所が「カウンセリングの技法」を用いて「ケースワーク機能」を担うべきとの説明がなされるに及んで、保育と「7原則」の関係がいっそうはっきりしたと言える。
このような経緯から、本書の7原則は、保育士業界でも項目としてはまあまあ知られている。
しかし、オリジナルである本書を読んで、新しい発見がいくつかあった。
第1に、「7原則」と並んで、援助場面での情緒や態度の相互作用がはたらく「3つの方向性」が、バイスティックの理論の機軸を成している。「3つの方向性」概念によって、援助関係が個別的な人間関係から成り立つことが強調されている。
第2に、「7原則」は、「援助関係を形成する」という「当面の目的のため」に設定されている。序文で執拗に繰り返されている通り、「援助関係」とは、良い援助が成されるためのスタート地点であり、いわゆるラポールのことでもある(バイスティック自身は、ラポールを、援助関係のいろいろな呼び方のうちの1つとしているが)。つまり、「7原則」はラポール形成のための基本原則なのである。
ところで、僕が学生時代使用したテキストは、「7原則」を、「基本原則として今なお重要な位置を占めている」と評価している(『社会福祉方法言論』法律文化社、1999、p.68)。そこで、第3の点として、この「基本原則として」「今なお」という記述に込められた、微妙なニュアンス、つまり、“あくまで基本にすぎない”“すべてそのまま妥当するわけではない”という多少否定的な評価は、本書を読んで初めて気付く。このことは、本書の巻末解説が手際よく解説している。
そして、本書巻末解説が言うとおり、「7原則」があくまでスタート地点を示したに過ぎないとするならば、厚生労働省編『保育所保育指針解説書』で、「7原則」の中に完全に回収されるような「保護者支援」の解説文は、援助過程全体の解説としてはきわめて不十分である可能性がある。
さて、保護者支援とは別に、子ども理解や子どもとの関わりの局面にも、「7原則」は援用されうる。その源流は、2000年ごろ保育・教育業界でプチ・ブームとなっていた「共感」「カウンセリングマインド」との関連にある。
近年、強調されることが少なくなったとはいえ、「共感」や「カウンセリングマインド」の意義自体が低下したわけでは全くない。感情表現の意味や行動の理解において、ある種特殊なコツが要る子どもとの関わりでは、その子のありのままを受け止め、理解しようとする姿勢が保育者には必要で、その方略としてバイスティックが―むしろこちらの局面でこそ―保育の中に活かせる気さえする。
たとえば、「秘密保持」原則(守秘義務)に絡めて言えば、4歳くらいの幼児では、一見、大人から見るとたわいもない事柄(たとえば、昨日、お寿司食べた。)を、「内緒の話」として保育者が保持できること自体が、信頼関係を担保する要因ともなりうる。
ただし、保護者支援・子ども理解のどちらの場合でも、保育は、最終的には集団の力に依拠する営みである。そこで、保護者・子どものどちらとの関係でも、個別的な援助関係が、いつかは集団の中に位置づいてとらえられなければならない。その意味では、現在の保育業界において、集団援助技術の基本原理を示した「コノプカの6原則」などが、バイスティックの7原則と並んで、もっと強調されても良いのではないか、と思う。
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なんといっても相談援助技術に関する古典。
福祉職じゃなくても、すべての介護職にも読んでほしいし、
また、コミュニケーション技術の書として、あらゆる職種の
方に読んでもらいたい。
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ソーシャルワーカーの基本書。
7つの原則は呪文のように唱えて、覚えて、そして活用しています。
ソーシャルワークの仕事を始めた当初は、ひたすらこの7原則だけを意識して実践してきました。
この本では、感情を扱うことの大切さが、すごく丁寧に描かれているように感じました。
安心できることの大切さも。
「つなぐ」のは、モノではなく、人の気持ち。
その、基本の基本が、ここにあるように感じました。
繰り返し、大切に読んでいきたい一冊です。
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精神保健福祉士のレポート用に購入したけど、7つの原則は心にしみ入りました。
カウンセリングとの違いについても理解ができました。
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ソーシャルワークに関する古典とも言うべき書。
ここに示された7つの原則は、対人援助を行う上で、常に振り返るべき原点である。
理想と現実、好ましい感情と否定的な感情などあらゆる葛藤的な状況=複雑さを丁寧に記述している。
新版になって、訳としても読みやすい。
難点を言えば、時折顔を見せるキリスト教的な言辞、(例えば神などの言葉)が、私にはちょっとぶっ飛んでいて困惑してしまうが。
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援助関係を説明し、定義し、さらに分析することが、ソーシャルワークの専門家にとって必ず大きな価値をもつことになるという確信から書かれたものである。個人を理解する上で、人間に共通するさまざまな特徴をできるかぎり知っていることも大変役に立つ、さらに一人ひとりのクライエントをより良く理解する上で、パーソナリティーがどのように発達して変化するのか、パーソナリティーが生活上のストレスにいかに反応するのかを知っておくことも重要である。物を所有したり使用したりすることのなかに真の幸福はない、むろん、人間が生きるためには、あるいは人間が共通にもつニーズを満たすためには、食料、衣類、住まいなどの物が必要である、また、これらの物は人に快適さや歓び、そして満足感を与えている、しかし物がそれ自体、幸福を与えるわけではない。クライエントを個人として捉えることは、一人ひとりのクライエントがそれぞれに異なる独特な性質をもっていると認め、それを理解することである。クライエントは、友人のように話を聴いてほしいと思っているだけでなく、有能で専門的な能力をもつ人に話を聴いてほしいとも願っているものである。クライエントの感情には、彼のもっとも個人的な特徴が反映されている。ケースワーカーは援助全体のの情況全体に合わせて、自分の情緒的な関わりを吟味すべきである、そうすればワーカーはバランスのとれたものの見方を常にもちつづけることができる。クライエントを個人として捉える手段……きめ細かく配慮すること、面接時にはプライバシーに配慮すること、面接時間を守ること。ケースワーカーは、クライエントの感情表現を妨げたり、非難するのではなく、クライエントの感情表現の援助という目的をもって耳を傾ける必要がある。援助の初期にケースワーカーは、問題それ自体ではなく、問題と深い関わりをもっているクライエント自体に関心を向けるべきである。クライエントから、恐れ、希望、そして敵意などを表現する機会を奪うとすれば、それはクライエント全体を否定することと同じである。面接の目的の一つは、クライエントの緊張や不安を緩和し、クライエントが問題を自分自身でいっそう明瞭かつ客観的に捉えることができるよう援助することである。クライエントの問題や人柄をいっそう的確に理解することである、
クライエントが表出した感情は、その問題がクライエントにとっていかなる意味をもっているのか、あるいはクライエントがその問題をどのように 理解する鍵である。クライエントの感情表現に対しても、各事例の援助目的を達成するために、建設的な方向で制限を設ける必要がある、クライエントの感情表現が「うっぷん晴らし」になってはいけないし、援助の目的からそれた感情表現も不適切である。クライエントが一時的、あるいは部分的に、ケースワーカーに依存するためには、何らかの感情をワーカーに表出する必要がある、しかし同時に、ケースワーカーはそれが過度の依存とならないよう注意もしなければならない。ケースワーカーがクライエントの敵意や否定的感情をしっかりと受け止める態度は、クライエントが自分を一人の個人として、また価値のある人間として感じられるようになる基礎である、
この体験が、クライエントが自ら変化をなし遂げ、問題を解決しようとする最初の動機となるのである。ケースワーカーの自己研修とは、ワーカーが自分のもっているさまざまなニーズや感情を自覚することである、この自覚を蓄積することによって、ワーカー自身のニーズや感情がクライエントの感情を感知する仕事を妨害しないようにすることができるようになる。ケースワーカーは必ずしもつねに言葉によって反応する必要はないということである、反応は知識と援助目的に沿って、態度と感情によって伝わればよい。ケースワーカーの反応は、それがワーカーのお「心のなか」をきちんと通過したときにだけ意味をもつものである、クライエントは、心を通過しないワーカーの言葉を見抜くものである。受容(受けとめる)……人に対してこの言葉を用いるときは、受けとめるは尊敬の念にもとづいて人に応対することを意味している。ソーシャルワークの専門家としての責務は、人を受けとめることと、道徳に反したり社会のルールに反したりする行為を受けとめることとを、混同しないよう注意することである。人間のもつ価値と尊厳は、無限なる神自身が定めた基準と法則によってしか、比較したり、評価することはできない。ワーカーは、人間のあらゆる感情に好意をもち、それらを理解しなければならない、また、いかなる感情にも寛容にならなければならない、相手が最善を尽くすよう期待し、しばしば最善を尽くすべきと相手に主張することのできる人間でもなければならない。人の成長は、何よりもまず生活手段を確保することから始まり、ついでさまざまな機会に恵まれることに左右される。ケースワーカーが自分の人生において未解決の葛藤を抑圧しているという現実を直視しなければ、クライエントがクライエントの人生のおける同様の葛藤をクライエントのものとして扱うことはできないのである。クライエントを一方的に非難しないという態度は、クライエントを裁くことが人間の基本的な権利を侵害し、援助を損なう恐れをもっているという、ケースワーカーの内面にある確信から生まれるものである。クライエントは忙しそうに立ち働いているケースワーカーにも、話をするのをためらうものである。クライエントは他のクライエントと比較されることを好まない、多くのクライエントは、自分がある枠や典型例にはめ込まれると感じれば、ワーカーが自分を型通りに判断を下し、分類していると感じとるものである。ケースワーカーは、つねにクライエントをより良く理解する上で助けになる人格構造を高めるよう求められている。秘密をうち明けられた人が、うち明けた人の意志に反して、それを暴露するとすれば、その行為は窃盗と同じである、また、人が合法的に知りえた秘密であったとしても、それを暴露することは正義を侵す行為である。
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【対人援助の基本姿勢】
1、クライエントを個人として捉える(個別化)
2、クライエントの感情表現を大切にする(意図的な感情の表出)
3、援助者は自分の感情を自覚して吟味する(統制された情緒的関与)
4、受けとめる(受容)
5、クライエントを一方的に批判しない(非審判的態度)
6、クライエントの自己決定を促して尊重する(クライエントの自己決定)
7、秘密を保持して信頼感を醸成する(秘密保持)
これらを基礎に、柔軟に考えて現場で対人援助を行う。
色々な所で学んだことだ。
普遍的な考えなのか、バイスティックから派生したものなのかは分からないが、今となっては目新しいものではない。だが重要な基礎である。
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21:41読了。介護職員の研修などで紹介され、しばしば理想を語っているように受け取られる7つの原則だが、実際に本書に目を通してみると印象とは違い、現実と向き合うことを常に訴えかけている。また、指摘される問題が的確で読者の自省を促してくれる。つまずきを感じるたびに読み返すという人がいるのもよく分かる。