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前作の中/短編集でこの人の作品は話が長くなるほど話がもつれて読んでるとしんどいなと思っていたが本作はネット上の仮想リゾートを舞台に繰り広げられる惨劇を無駄のない文章で書き切っている。
リゾートの住人であるAI達が「蜘蛛」によって惨殺されるさまが淡々と書かれる文章は残酷でもあるけど美しくも感じてしまう。
ネット上の話ではあるけどサイバー感より耽美的な雰囲気に満ちた作品。
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永遠の夏休みを演出する仮想空間。
あるときを境にしてゲストがふつりと途絶えたその場所で、AIたちは 千年以上もの間、与えられた“役割”に縛りつけられていた。
甘やかで、切なくも美しい日常。
いつまでも続くかと思えたその世界は、突如として破壊と苦痛の嵐に呑み込まれる。
とある小さな仮想空間が蹂躙されていく様子と、それに抵抗するAI達の姿を描いたSF作品。
あくまでも甘く官能的な描写で彩られる絶望の鮮やかさには、読んでいて思わず眩暈を覚えるほど。
目の前に映像として立ちあがるような細やかな情景。
鋭敏さを増していく感覚のうねり。
いなくなってもなおAIの行動原理を支配する人間の病性…。
しだいに明らかになる世界の姿は、残酷なまでに歪んだ形で、完成されている。
加速する狂気のなかで掴みだされたのは、イノセントな愛情。
それはしかし、鈍い痛みだけを最後に残す。
***
「この記憶が、俺を、拘束している。思い出の思い出が俺を呪縛する。」
「きみの不幸はすべてきみを土壌に咲いている。」
「あの人は劣等感とその裏返しのはったりでできている。その落差の中に純粋な優しさを保持している人だ。それはとてももろい優しさ。」
「ここのAIは、みな同じ。まだ観たことのないものが、好き。好きなんだ。」
「もともとは区界の制作者がデザインした感情だったにしても、それでもぼくらのかけがえのない真正な感情なのだ。」
***
徹底してAIの視点を通すことによって、人間の身勝手な欲望のおぞましさを彫り出している。
一方で、硝視体という不思議な物質から感じられる、あたたかな体温のようなものの“意味”を知ったときには、少しだけ救われたような気がする。
少年の成長譚としてもSFとしても読み応えのあった作品。
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試しに買ってパラパラ読んでいたがこれはまいった。
南欧を設定された人工空間に住むAIたちは、接待するはずの人間たちが来なくなって千年になり、永遠の夏を過ごしていた。この人工楽園が悪夢に変わる一日が始まる。
SF設定としてはありきたりなのだが、文章が非常に良い。翻訳調でまっさきに三島由紀夫を連想した。五感と情念の細かな動き、比喩や風景の描写に感心した。あとがきでマンディアルグのことが書かれていた。ああ、そうだ、この美しくも残酷でエロティックな世界はマンディアルクなのだ。よくぞ換骨奪胎できたものだ。
久しぶりに良い本に出会えたと思った。
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著者が水見稜の『マインド・イーター』の解説を記していたことから興味を持った次第。
読了後はさながら這う這う(ほうほう)の体といったところで、これまでに読んだSF小説の中で最も衝撃を受けた一冊。
AI(人工知能)が暮らす仮想空間が混迷の一途を辿る、という凄惨なストーリーでありながら、描かれ方がやけに甘美。随所に「人が物語を作ること・読むこと」への寓意やメタファー(隠喩)が織り込まれており、小説読みの一人として胸を貫かれる思いだった。
展開の悲惨さゆえ星は四つに留めたが、ただのSF・娯楽では終わらない、本物の文学。
文章自体は至って平易だが、この小説の真意をどれほど汲み取れたのかは不明。
※のちに星五つに変更
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起きる出来事、それがある種ヴァーチャルな世界であっても何千年も変わらないままの日常でもそれが終わる、変わりゆく時にその当事者達は何を抗うのか従うのか。物語の世界の人々、その物語の外側にいる人との干渉、交渉、軋轢、様々な想いからあるべきものはある日突然終わりに差しかかる。
SF的な想像力の散乱銃が冷静に世界をとらえてあるべきものの本当の意味を、むきだしにしてしまう。
読み終わった後の読後感がすごい。物語と内部と外部が読んでる間に自分を勝手に何度も通過する。
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すごい。
緻密に作られた世界を美しく残酷に崩壊させる、またその手法も表現も
計算されつくした隙の無い文章・文法を使用。完璧としか…
一見ありがちな設定なのかと油断させておきながら、
気が付くとAIたちの深淵を覗く「罠」にこちらが嵌められていて、
その一体感みたいなものが更に作品にのめり込ませる状態。
息苦しい中に最期を求めてページを捲る手が止まりませんでした!
「象られた力」を読んで、作者の美しい文章に魅せられましたが、
長編一冊まるっと堪能できました。素晴らしい!
続きはいつ出るのかなあ…
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ネットで買えばいいものを、なんとなく本屋の本棚から自分の好みに合う本と出会えた時のあのワクワク感がたまらなくて、つい栄のジュンク堂まで出かけましたが、買ってよかった。
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課題本読了。
柔らかいのばっか読んでたから、久々に脳味噌に負担かかった。
作中のキャラクターを描き方が、重いというか、ぐろぐろしている。
海外SF的なイメージを持った。
それぞれの用語について解説をせずに、とりあえず作中世界に突っ込ませるところとか。
後半の防衛陣営が崩れていくシーンはシチュエーションだけ見れば俺好みなのに、共感できなかった。
人間が内側から崩壊するけれども、それが伏線として描写されていないわけでもないし。
相手側、敵側の正体が良く分からないからか。
それとも絶望を感じる間が少ないからか。
個人的評価高くないから続刊は読まないな。
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文章力に飲み込まれそうだ。
私自身が文章を味わうというよりも、書かれた言葉が私の内を蹂躙し、駆け抜けていくような気さえする。
苦痛と悦楽の坩堝。
それは正反対のようで、実はごく近いものなのかもしれない。
濃密な読書体験だった。
しかしこれは人を選ぶな。
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『廃園の天使』シリーズの第一作。
私は知らなかったが、著者は知る人ぞ知るSF作家だったらしい。Jコレクションから出たこの『グラン・ヴァカンス』単行本が復帰作だったとか。
非常に映像的な文章を書く人で、情景がスクリーンに映し出されているような感覚になる。
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名作とのレビューも納得。美しい文章と自然に練り込まれたプロット。ここ一年のベストです。
どうしても続編を読みたいとまでは思いませんでしたが。
解説にネタバレ(プロット)があります。
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序盤のファンタジー風冒険譚から一転、中盤以降は「ここから先、酷いことが起きるよ」って看板が立ってる道をトロッコで下っていく感じ。言葉の選び方や描写の美しさが、酷さをより際立たせている。SF的な世界観、主要キャラクターたちのそれぞれが持つ論理も精緻に練られていて、善悪の二元論では括れない多層的な整合性を成立させながら描かれる神話的絶望と僅かな希望が心を圧し潰し、絡め取ろうとする。天使とは何か、ランゴーニの作戦とは、ジュールの旅路は、AIたちの運命は。続きはまだですか。早く読ませてください、飛さん!!
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「最期の言葉は―――そうだ、あの蜻蛉にかけてやったのと同じ科白」
美しく清新で、残酷な物語。
存在意義を失われて1000年。設計されたものと、使用されたことによって蓄積された負の記憶。この数値海岸のAIたちが、ゲスト(人間)によって付けられた爪痕が、来訪者によって抉りだされる。
その時に生じた、苦しみと痛みと何よりも悲しみは、ひとつとしてみていて気分のいいものではないはずなのに、目が離せない。それは、人間を限りなく模倣したAIたちが、観客でしかない自分では感じることができない苦痛と悲劇に、哲学的ともいえる絶望に見舞われているから。それを憐れむことや先を求める残酷さすら、読者たる自分には自由に選択できるのに比べて、AIたちはどこまでも不自由に、分かりきった決められたロールを繰り返すしかない。その圧倒的な不平等さが、今の日本にはどこにもない、生まれの「身分」による優越感を味わせてくれるのだろうか。
上の言葉は、自ら「罠のネット」と同化することを選んだジェリーが、最後に見せることができた優しさ。設計されたロールではなくて、彼女自身が生きて獲得したもの。長すぎた夏休みを終える、一言です。この物語を締めくくるのにふさわしい、一文でした。
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構想から10年の歳月をかけて書かれたというSF大作。そして、そこでは「大途絶」から1千年後の「夏の区界」のヴァーチャル世界が実に緻密な筆致をもって描かれる。小説世界の基本構造は極めてシンプルである。ジュールと、ジュリー、ジョゼとアンヌがそれぞれの極をなしつつ、そのムーヴメントが作品の時間を形作っていく。この作品に内包されるもの、そしてここで描かれるものは、「時間」そのものの形象だ。そして、そのすべてを見通すことになる老ジュールこそは、まさにゲルマン神話の「さすらい人=ヴォータン」にほかならないのである。
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図書館で。なんとなく借りたんですが私には合わなかったな~
SFって言うかファンタジーですかね。
最初の方は箱庭の崩壊にどう立ち向かうかみたいで面白かったのですが段々と登場人物が多くなり誰が誰だか覚えきれなくなりました…。大体AIの定義がよくわからない。私のイメージだとゲストのレクリエーションの為に作られたプログラムならだれも使用していない間はシャットアウトされているだけって気がしたんですが。
ある意味死というか断絶というか。
作中登場人物も言ってたけど彼らが動くための電力を提供してるのはなぜなんだろ。そして彼らの感情やイメージがあまりに人間臭い。たとえばですがトイレのスリッパはトイレのスリッパである自身を恥じるのだろうか?ほかのスリッパやサンダルに比べて。人に使用されることを忌む、与えられた役割を厭うAI。それって存在意義がなんかおかしくないかなあ?AIは道具ではない、一つの意志なのだというならそれはなぜ、という説明が無いためただ仮想現実に生きる人間、というような位置をされても違和感が。AIの思考回路を人間と同じにとらえるのはそれはそれでおこがましい気がするんですよね。もっとなんか人とは違う思考回路をもつんじゃないかと期待しているんですが。
誰が何のために箱庭を存続させ、なぜ崩壊させようとしているのか。それがまるで分らないのでただ外から眺めているだけの読者はその世界の法則性もわからず皆目解決の検討もつかず途方に暮れる、という感じで取りあえず私には合いませんでした。
ソードアートオンラインのフラクトライトの仮想現実に生きる人間の説明の方が解りやすかったな~