- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
一瞬の風になれ 1 イチニツイテ みんなのレビュー
- 佐藤 多佳子 (著)
- 税込価格:1,540円(14pt)
- 出版社:講談社
- 発売日:2006/08/26
- 発送可能日:購入できません
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
タイトルは「イチニツイテ、ヨウイ、ドン」ではありません
2006/11/26 22:12
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて、月刊MOEが絵本と児童文学の専門誌だった頃(今では変わり果ててしまいましたが)、月刊MOE童話大賞という新人賞がありまして、1989年、佐藤多佳子さんが「サマータイム」で大賞を受賞した時は衝撃でした。繊細で骨太、上手い人は初めから上手いのです。
デビュー作となった「サマータイム」も少年の一人称でしたが、佐藤さんは一人称がお得意ですね。読み手の年齢性別を問わず、ぐぐっと主人公に同調させて、物語の世界に引き込みます。もう20年近く前に読んだ「サマータイム」ですが、主人公の姉が作った「海の味のするゼリー」の、しょっぽさは今も舌の上に蘇ってきます。
陸上青春小説「一瞬の風になる」では、それがグランドの匂いや風、汗です。幼い頃から続けていたサッカーに限界を感じ、情熱も失ってフラフラしていた新二は、高校では陸上部に入部します。彼が選んだ種目はショート・スプリント(100m、200m、4×100mリレー)。この種目は、身も蓋もなく「100や200って、ぶっちゃけ才能なわけ、天性のね」(p26)なわけですが、新二の隣には天性の才能を持った連がいました。彼の走りに魅せられただけでなく、何くそと心をかき立てられて、新二も走り出すのです。
1巻は、新二と蓮が陸上部に入部し、ひたすら走る中で、春から秋へと季節が移ります。陸上初心者の新二が語り手なので、読者は彼と共に、高校陸上界の仕組みや競技の魅力など、無理なく吸収していける仕組み。特に「4継」と呼ばれる4×100mリレーの魅力が満載で、レースシーンを読んでいると拳にぐっと力が入りました。
物語はまだまだ序盤、主人公たちも今は、ひたすらにがむしゃらに一点を見すえて走っています。これから、才能の壁やら恋やら故障やら、色いろ困難も降りかかってくるのでしょう。それらをはねのけて走り続ける彼らの姿がきっと読めると思うと、2巻以降が楽しみです。
同じように陸上競技をテーマにした「風が強く吹いている」(三浦しをん著)で、箱根駅伝を目指す主人公たちが、「速く」ではなく「強く」走ることを求めるのにたいして、「一瞬の風になれ」の主人公たちは「速くなる」ことだけを目指して走り出します。競技の違いゆえの好対照というか、なかなか面白いと思いました。
最後にどうでもいいことですが、題名はちょっと覚えづらいです。サブタイトル1巻「イチニツイテ」、2巻「ヨウイ」、3巻「ドン」の印象が強くて、書店で思わず「イチニツイテ、ヨウイ、ドン。ありますか?」と聞いてしまいました。あっさり通じたところを見ると、同じ思い込みをしている人は他にもいると見ました。