紙の本
本にノウハウしか求めない人には向かないが、教育の難しさを知る人にはお薦めできる書物
2007/05/12 17:29
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
教育学者としてつとに著名な苅谷剛彦氏と、教育ジャーナリスト増田ユリヤさんとの対談に、両氏の論考を加えて成立したのが本書である。
まず、PISAでフィンランドが世界一という話題から行こう。PISAとは、OECDが世界数十カ国で行っている15歳児の学習到達度調査である。この結果について、フィンランドは高校進学率が日本より低いから良い結果が出るのは当然だ、誰も彼もTOEFLを受ける日本と一部のエリート候補生だけが受ける国との平均点が違うようなものだ、などと書いている人がいるが、これは完全な誤りである。本書176ページに記されているように、フィンランドでは義務教育は16歳修了なのである(厳密には入進学が8月であるなど簡単には言い切れない部分があるが、大筋そうである)。だから15歳児の学力検査は当然ながら義務教育段階でなされている。学力選抜をへた高校生だけを相手にしているわけではないのだ。
そもそも、その程度のことも知らずに教育学者が学力を論じていると思いこむ方がおかしいのであって、同一年齢層の児童全員の平均で学力世界一だからこそ、フィンランドは日本だけでなく世界各国から注目を浴びているのである。
といっても、一部マスコミに見られるようなフィンランド礼賛に本書が終始しているわけでは全然ない。むしろそのスタンスはきわめて冷静で、フィンランドの教育を単純なノウハウに還元して模倣すれば日本も学力が向上するというような見方には否定的である。教育はその社会全体が持つ体質の結果なのであって、教育さえいじれば社会全体が改善されるというのは誤りだとする本書の主張には私もまったく同感だと言いたい。
本書が分かりにくいと感じる人は、単純なノウハウだけを求めて本を読むからだろう。複雑な存在である人間を対象とする教育は、工業製品を製造するようにはいかないのであって、それを知っている人なら、教育に関する蘊蓄が傾けられた本書を味読できるであろう。
ただし、だからフィンランドを無視していいという結論にはならない。かつて日本がバブルで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われていた頃、米国は日本の強さの秘密は教育にあると考えて調査に乗り出した。そうした謙虚さは必要である。フィンランドについて言えば、小学校教員でも修士号を持たないとなれないといった教師の質の高さに注目すべきだろう。
PISAの結果については学者でも意見が分かれており、日本の子供の学力が低下し始めたという人と、それを否定する人とがいる。あまり順位にこだわり過ぎないほうがいいと私も思うが、スイスの研究機関IMDの発表では07年の日本の国際競争力は前年の16位から24位に後退している。これからの先進国は高度な知的産業で勝負しなくてはならない。その意味で教育が重視されるのは当然なのだ。
ところが日本は教育にカネを使っていない。本書でも数値を挙げてあるし、私がBK1書評で紹介した『日本の高学費をどうするか』でもそうだったが、教育学者たちは日本の教育に投じる公的資金が対GDP比で先進国中最低であるという事実にしばしば警告を発してきた(逆に支出が多いのが土木関係)。教育制度をいじるだけでなく、きちんとカネを投じなければ、日本は三流の土建国家に転落するしかないだろう。自分の子供は都会の私学に行っているなどという個人的な事情にこだわっている人には、教育を論じる資格はないのである。
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日本の教育の現状及び問題性、その打開策が書かれている本。対話形式なので読みやすかった。英語教育、総合学習、公立と私学の話などについて触れられていた。PISA学力調査第1位であるフィンランドを例に挙げながら日本の教育がいかに欲張りであるかを浮き彫りにしている。
教育について知りたかったり考えたかったりしたら読んでみたらいいように思う。
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様々なところで、様々な人が議論を交わし、発言している日本の教育問題。不満を述べ、希望を語るだけでなく、日本の教育は「何ができて何ができないのか」を見極めることも大切では。
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対談形式でニッポンの教育について書かれています。
いや〜いち×2首肯しながら読んでしまいました(笑)私の考える教育論(と言ってはおこがましいですが)となんらかわらない主張がされてて、ひたすら納得。
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とりあえず、日本は情報に翻弄されすぎている。物事にはできることとできないことがある。取捨選択をせずにあれもこれもってやっていたら崩壊するに決まっているじゃないか。
学校教育をファーストフードに例えたのは秀逸だと思った。
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やれ「自ら学ぶ力」だ小学校から英語を教えるだと騒いで、金も時間も人員も増やそうとしないのは虫が良すぎる、教育は魔法じゃないのだ、ということ。それにしても日本政府がこれほど教育に予算を渋っているとは知らなかった。
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教育改革っつても予算とか時間とか色々限られてるんだから、取捨選択が大事だよね。
↑が本書の要約。有意義な事は本当にこれしか言っていない。お金よりも時間を損した気分になれる一冊。
こんな簡単なことを説明するのに新書一冊を要してしまうという事が、教育問題をめぐる議論がいかに低レベルであるかを如実に物語っている。
苅谷剛彦は割と信用できる人なんだけど、インタビュアー(共著者)が端的に言うとDQNなので…。残念。
100円。
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議論の中心がふわふわしていてなんだか読みにくかった。。
「相対評価と絶対評価」
私が中学生だった時に変わったのですごく衝撃だったのを覚えている。誰でもがんばれば5がもらえるんだ!という喜びと同時に、でも5ばっかりになっちゃったら頑張りがいがないな…と思っていた。今考えると積もり積もって学習意欲の低下に結びついていたのではないだろうか。本当の絶対評価とはなんなのかは教育大国フィンランドとの比較でわかりやすく説明してくれていた。本当の意味での絶対評価を実現させるためには日本は確実に準備不足だったのだと思う。
話し自体は興味深いものではあったと思う。
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フィンランドの教育への注目度が高まる中で、では実際にどこがどう優れているかということや、また日本と比較したときにどこに差があるかは、単に教育の側面だけをその社会や文化という全体的な文脈から切り取って論じるのでは無理があるし危険であり、不十分であると納得した。また「絶対評価」といっても、日本の教育における絶対評価は、共通の絶対的な基準に基づいてそれぞれを個別に評価するのでなく、個別評価という体系に往々としてすり替えられているため(その分すべての子供がonly oneになれる?)、何を測ろうとしているか曖昧になり、また、能力の向上には必ずしも繋がらないのでは、という指摘にも納得。
(本書)社会で求められる「個性」には限りがある。選択肢の幅広さは、無限の可能性と共に、確実な選択をせねばならない、という不安を煽る。→(私)結局現代はステレオタイプの種類が膨大になっただけで、その「型」は個性ではない。本物の個性は、考える力、引き出しの選び方と変形のさせ方を覚えていかないと身につかない。
(本書)教えている教養に意味があるか、を子供から問われる必要のない、教養の背景にある歴史への自信や、学問への尊敬が、日本には根付いていない。→(私)学ぶことそのものの面白さを感じるくらいでないと、勉強はできない。勉強嫌いをなおすために、方法・補助道具を面白くすることはときに逃げでしかない。学んでいる内容そのものが、面白いと生徒に思わせるような、教え方、伝え方の上手さが必要。
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父推薦。確かに面白い。著者二人、それぞれの立場からの解釈の提示が明快。
「親は安心を買うが、安心を買うほどに不安が増す」
「外国では社会問題になっていることを、日本は教育問題として引き受けている」
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小学校英語、総合学習から始まって
現在の日本の教育需要について
対談を通して詳しく述べられた一冊。
キーワードは「ポジティブリスト」。
つまり、日本に求められる過剰な期待のおかげで
相対的に最低限果たすべきことに力が割けなくなる、
そういった実態が、この本でリアルに述べられている。
この書の最大のメッセージはまさにそこで、
いち学者といちジャーナリストの対談とは思えない
リアルさが窺える。
思えば、教育予算や授業時間は削減されているのに
教育に求められていることはどんどん増えている。
そしてできなければどんどん責任追及が始まる。
冷静に考えれば非常に酷な話であろう。
この本は教育の理想ばかりを語った結末を指摘する
極めて現実味のある論が展開されている。
教育改革を考える上で、是非とも読んで欲しい本の1つ。
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北欧の子育てが絶賛されて久しいが、簡単に比べてよいものかわからなかった、そんな時、この本と出会いました。
日本の教育のよさと北欧の教育のよさを二人の対談形式で比べた、とてもわかりやすいいい本でした。
北欧の子育ても、先生のレベルも高いが、今の日本の社会の考え方や、親たちの意識や考え方では、北欧のすべてのよさを取り入れることは困難だと思えてきました。
日本の教育はいろいろな意味でもっと懐が深かったのだと納得し、この本を読んだおかげで、私なりに、小学校での親の位置づけがわかった気がします。親も、先生達も、社会も日本なりの良さの上に、北欧のいいところを取り入れられたらいいなと思っています。
何を大事にするか、今一度、社会や親たちが考えていかなければいけないと考えさせられてしまいました。
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よくある「日本の教育はよくない」→「それに比べてフィンランドの教育はすばらしい」というような語り口ではなく、様々な角度から考察して、日本の社会構造や親の精神のありかたなどに言及しているのがよかった。面白かった。
ポジティブリストとネガティブリストのくだりが特にいい。
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[ 内容 ]
「教育改革」を語る前にフィンランドの教育を解剖してみると「格差」など日本の問題点が見えてくる。
[ 目次 ]
第1部 東京で教育の問題点を探る(親の不安はどこから来るのか;完璧な子育てはない;日本は学校に依存することで近代社会をつくってきた)
第2部 オックスフォードで分かり合えたこと(フィンランド型の教育を日本で実践できるか;なぜ日本人は右往左往するのか;絶対評価と相対評価)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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出版社 / 著者からの内容紹介
学校だけに依存しない学力向上のための論議。英語の早期教育は本当に効果があるのか。詰め込み教育は間違いか。ドリル式学習の問題点など、大きく捻じ曲がった日本の教育の「幼さ」を学力向上の観点から問う。