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私たちは、ジョンソン博士を生き生きと後世に伝えているボスウェルに感謝しなくてはなりません。ほかの資料もありますが、なんといってもボスウェルです。しかしそのボスウェルも、ジョンソン博士を語りつくしているわけではありません。たとえば、博士の『英語辞典』はどのようなプロセスをへて完成へとこぎつけたのか、ボスウェルを読んでもわかりません。
ヘンリーは、『英語辞典』をつくったジョンソン博士に光りをあて、読みものとして博士の辛苦粒々をみごとに描いています。ボスウェルへの対抗心をもちながらも、ちゃっかりボスウェルを効果的につかっているところもなかなかです。
英語でanecdote といえば、逸話ですが、そういうものもさらりと盛りこまれているのがこの本のよさです。たとえばエドマンド・バークが1790年代にはじめてdiplomacy ということばをつかった、などとあります。ほかにも、ジェーン・オースティンの父親は博士を尊敬しており、その影響を娘のジェーンもうけついでいた、詩人ブラウニングは隅から隅まで博士の辞書を熟読した、などなど。。
博士は、ミルトンやドライデンなどの名文を例文としてふんだんに活用しています。例文を明示することが、後世の母国語の発展に寄与すると信じていたからです。(もちろん、その取捨選択は博士の主観です)
博士は借りた本に、容赦なく線を引きました。苦情がくると、パンのかすで消えるとかなんとかいって言い訳にもならないことを豪語します。まあ消えません…。俳優ギャリックが貴重な本を博士に貸し、見るも無残な姿でもどってきたのをみて、涙目になったとか。。