紙の本
出会いと喪失
2008/03/01 22:46
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:久我忍 - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙買いした一冊ではあるけれど、いい買い物だったと思える本。文体も読みやすくさらりと読めるが内容は決して軽くはない。悲劇もあれば本文では語られない戦いの過去もある。それでも本作の読後感が温かく感じられるのは、「救い」があったからだろう。
主人公の「私」はある冬の日に、身投げしようとしているセリアという少女を助け、何故か結果的にレーイと名乗る不思議な青年に命を助けられることになる。
レーイは徹底的な秘密主義を貫いていた。だが新聞に掲載された美術的価値の高い手鏡と櫛を自分のものだと言い張る老婆や、歌姫パレオロッタとの係わりによって主人公はレーイが老いることなく、見かけよりもとても長く生きていること、そして人ならざる不思議な力を持っていることを察する。
だがそれでも、二人の関係に変化はなく、やはりレーイは気まぐれに主人公の家を訪れてはお茶を要求した挙句、お茶の淹れ方を学んだ方がいいなどと憎まれ口を叩く。この関係の維持が、お互いを信頼した結果のものならばそれはレーイにとっても主人公にとっても幸運だっただろう。だがこの時点では、二人の間にあったのは信頼ではなく壁のようなものだった。関係が変わらないのは必要以上に互いのことを詮索せず、上辺だけのつきあいだったが故だ。
だがトゥリスという少女の登場によりこの関係に変化が生じる。
「彼は私の友人だ」
上辺だけの付き合いを続けていたと思うことはあれど、けれど見捨てることが出来る筈もない知り合いという立ち居地から明らかな友情へと。
主人公はレーイとの出会いによって一つの喪失を経験すると同時に、一つの失い難いものを得た。けれどそれはレーイにとっても同じだろう。友人だと、断言できる関係というのは容易く得られるものではないし、老いることがないために人々を遠ざけ、一箇所に定住することを避けていたレーイには普通の人々よりも手に入れることが難しいものだ。
二人が失ったものはとても大きい。
だがレーイを助けた温かい光は、その主はきっと、この結末を心より喜んでいるのだろうと思う。そしてその救いの存在こそが、私がこの作品を好きな理由なのだろう。
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壁井さんの言葉が帯に載っていた上に本の表紙の雰囲気が私好みだったので読んでみたら、大当たりでした。「彼」と「私」の織り成す奇妙にして不思議で、時にユーモアなお話が素敵でした。切なさの中にもある人の優しさが本当に温かく、登場人物一人一人に魅力を感じます。シリーズ化するなら是非続きが読んでみたいです。
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これはちょっと最初がとっつきにくいかも。
帯では第一章が素敵、と言われてますが、それがまた結構抽象的で…半分くらい読むまでそもそも人物が特定できず、ページを戻ったりしながら読んで、あるときふと全部見えて、読み終わってからやっと素敵な物語だ、と思えるような。
いやこれマジで最初「私」が男か女かもイマイチ掴めなかったんだもの…。
終始その「私」の視点で見た「彼」の物語ですね。
読み終えてみるとまさに「冷たくて優しい世界」を具現化したような気分です。当たり前でリアルな「私」の日常に、いつの間にか入っていて馴染んだ異質な「彼」とのやり取りは、軽妙だったり、暗かったり、優しかったりします。ファンタジーと一言で括るにはちょっと違う感じのお話でした。
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大賞結果発表の頃から気になっていた作品。そして壁井先生に後押しされて。最初の予想を裏切られ、見事最後まで(いい意味で)読めない作品でした。暖かいような、切ないような、後からジワっときます。
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なんとなく好きな感じではある。でも、どうもトゥリスのエピソードがしっくりこなかった…。突然ぼーんと出てきて、けっこうあっさり終わったしね…。うーん…。
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2008.03.20.読了。
図書館で偶然見つけて、大して期待せずに読んだものの、読まなくてもよかった・・・とは思わなかった作品。
絵が綺麗なんです。特に色使い。
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私と、彼…人ならざる存在、レーイを巡る、不思議な物語。 第一章から…キた…!久々に自分の好みの作品に出会った気分。
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作家志望の主人公「私」と、とある事件で出会った謎の青年「レーイ」の、少し不思議系ファンタジー。
良い話だった()
いえ、めちゃくちゃ新しかったり心臓に悪かったりする点がないので…雰囲気を楽しむタイプの作品ですね。
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翻訳小説のような文体が好みです。キャラクターの描写よりも物語としての全体像を重視した雰囲気ですね。最近の電撃文庫新人作品は落ち着いた作品が多くて嬉しいです。悲劇的なラストを想像しつつ読んでいたので、ちょっと予想外の結末でしたが、これはこれで良い作品でした。(2008.04.16読了)
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筆の止まった小説家の前に現れるひとりの青年。
皮肉っぽいことを言いつつ、勝手に、
いつの間にか人の部屋に上がり込んでくる青年。
そんな青年と小説家の周りで起こる
ちょっとした出来事を綴った作品。
文章の書き方がちょっと固めでしっかりしている。
個人的には好きな部類に入ります。
安心して読める文章というのは子言うものなのでしょうか。
人それぞれ好みはさまざまですが、おすすめの一冊です。
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“「今夜は新月だ。月の光さえも隠れた闇の濃い夜はそれだけ邪なことを考える奴が多いから、気をつけないとね」”
「私」=
「彼」の友人にして、“物語”の始まる前に登場する、この“物語”にとても、ある意味重要な者。
と、
「彼」=
レーイと名乗る青年だけど人間じゃない者。
との、数奇な運命を綴ったお話。
良かったです。
第一章ですでに涙腺崩壊。
もろすぎます。
でも、さすが金賞。
最後の最後に全てつながりましたね。はい。
良かったです。
「私」と「彼」の“物語”が読めて。
Thanks to K.H.
“「やあ」
「ぬはぁ!」
窓の外からのいきなりの声に私は危うくカップの中身を原稿にぶちまけそうになった。
「お邪魔するよ」
悪びれもせず彼は空中に浮かんだまま窓から入ってきた。”
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透明感のある話だと思いました。(抽象的ですが……)
読み終わると、すっきりしたような、温かな気持ちになります。
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これはいい新人が出てきたと素直に思えた一冊。
物語としては盛り上がりに欠けるのかも知れないが、全体の雰囲気作りが素晴らしい。
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本当にこれは新人が書いたの!?と思える一冊です。
文章の巧さにひきこまれます。
続きが気になって読まずにいられません。
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電撃文庫金賞作品。
よく通うサイトのレビューとかミクの知り合いから好評だったのですが。
私にはイマイチ…というより、集中して一気に読めなかったので何がどういうストーリーなのかイマイチつかめませんでした。
でも、お茶にこだわる彼と、しぶしぶお茶をいれてあげる主人公とのやりとりが可愛かったです。