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紙の本

『奇術師』『魔法』『双生児』で読者を楽しませ、翻弄した作家の日本オリジナル短篇傑作選。プリースト――分かりやすくて分かりにくい、その作品世界の魅力。

2008/06/23 14:37

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

『奇術師』『(文庫化された)魔法』『双生児』などの長篇小説で話題になった、現代英国SF界を代表する作家の日本独自短篇傑作選を読ませていただきました。
 いきなり「にくまれ口」を叩かなくても良いのだけれども、プリースト作品を知ろうとして紹介文を読むとき、また、本書の訳者あとがきを読んだときにも感じたが、どうも一小説読みの立場ならば「読ませていただきました」と断っておいた方が良さそうな雰囲気が漂ってくる。
 プリーストというのは、SF愛好者たちの間では、つとに評価が高かった作家で、『奇術師』でようやく本来受けるべきであった注目を浴びた。そのため「SFジャンル外にも幅広く受け入れられた」という言われ方をされる。言外に、「昔からしっかりSFを読んでこなかった、経歴なき、ただの小説読みふぜいも読み始めた」という、ちょっとした差別意識のようなものが感じられなくもない(笑)。
 そもそも小説好き、ないしは翻訳小説好きという母体自体がそう多くはなさそうなので、「幅広く」という表現には語弊があるだろう(東野圭吾や宮部みゆきみたいに読まれたわけでもないのだし……)。また、話題になっている本のなかからスカでないものを拾おうとして選んで読んでいると、たまたまそれが歴史物であったり、ノンフィクションや幻想小説、本格小説であったりする、ジャンルに無頓着な私のような読者もいると拝察する。「閉鎖的な同好会乗りで紹介されちゃうと、それこそプリーストという作家、ひいてはSF作家は憂き目に遭ったりはしないのかしら」と老婆心ながら心配してしまいます。
 
『逆転世界』『魔法』『双生児』しか読ませていただいておりませんが、プリースト作品は、分かりやすくて分かりにくい。しかし、自分がどれだけ読めたか読めなかったかを別にして、「ああ~、面白かった」と本を閉じることができる。この短篇集でも、8作品のうち「逃走」「赤道の時」という特に短い2作品がどうもビビビッとこなかったものの、あとの6作品の案にうならせられ、「ああ~、面白かった」と満足至極で本を閉じることができた。
 では、その「分かりやすくて分かりにくい」とはどういうことなのか。これは割にすっきり説明できるように思う。
 分かりやすさは、プリーストが描く人物たちが、現代の先進国で読書を好む層にとって理解しやすい設定がされている点だ。理解しやすいから、彼らの内面や行動に対して共感を持ちやすい。登場する人物たちは、テレパシーやら透視、怪力といった特異な能力を付与されてはいない。将来に適度の希望を抱く若者であったり、希望通りに生きてこれなかった自分に哀しみを抱えている壮年であったり、素敵な異性との恋や火遊び、生活を望みながら働く生活者であったりする。
 そういう自分と同じ生身の人間たちが、この現実世界とは異なる不思議な時空や、ある種のルールが支配する世界に存在したり、巻き込まれたりするのだ。その時空や世界が、私たち人類が過去に経験してきた歴史的事実、今現在どこかに存在する未開の地、異文化の国なのではなく、作家のSF的世界観で構築された場所だということである。それゆえ、「自分の生活世界を離れて読む」ということに限れば、SFであっても歴史物であってもノンフィクションであっても、ジャンルへのこだわりなく、単に「別の世界の話。だけど、私と似たような感覚や思いを持つ人間が、悩んだり喜んだりしながら行動する話」として読める。

 一方、分かりにくさとは何か。それは、作者が、その作品に設ける「SF的世界を支配しているルール」をあまり明確に説明しながら書いていないという点に尽きるのではないだろうか。
 例えば、「時間旅行」というのは最もSFらしい仕掛けの1つだろうが、それが用いられている「青ざめた逍遥」という作品――この結末がよく分からない。「ドラえもん」でも使われていた「自分が旅行先で年の違う自分に出くわす」という話なのだが、おしまいまで読むと、「のび太くん、無事に戻ってきて良かったね」という展開にも、「のび太くん、あんなものを見なきゃ良かったね」という展開にもなっていなくて、「これって、結局、どういう意味?」と考え込まされる。
 物語自体は素敵なのだ。時間旅行ができる公園というのがあり、それが子ども時代の思い出の場所であり、そこでめぐり逢った女性が気になる存在となっていく。そうして、公園という場所と女性の存在がやがて、主人公にとって大きな意味を持っていくというものである。
 ひとえに私の血の巡りが悪いせいかもしれないが、最後の1行が今も疑問で、「これは単に結果オーライではなかったということなのか。それとも、成すべきことを終えた主人公が、このあと現実世界に戻ったとき、人生が変わっているかもしれない可能性を示唆しているのか」が判然としない。このような腑に落ちない読書体験は、場合によっては少ししんどい。
 愚か者という自覚はあっても、そう頭は悪くないはずなのにという自負があるのに、この読み方で正しいのかどうかという解答をネットやメディアのどこかに求めたくなる。その程度の理解度にしか達しないというのは情けなくなるのである。どこかで、優れた読み手が分かりやすく読解の手がかりをすぱんと書いてくれてりゃいいのにと探すのである。まるで、少数者によって成り立つ同好会の存在を探すかのようだ。そのとき、愛読者カードでなく、今や世間に開かれた発言の場を手にした読者は「分からない」とわめき立てたり、プライドが傷つけられたような気がして控え目な賛美を送ったりする。
 プリーストはじめ、分かりにくいとされる作家の作品が受け入れられるようになったのも、ネット普及の賜物かもしれないね。

 しかし、SFという手法を借りているからといって、小説読みは、方程式を解くように解き明かすことは求めなくても良いのではないだろうか。
『限りなき夏』という題名を目にしたとき、それがどういう意味なのか分からなくとも、叶えられないことに対する何やら甘酸っぱいもの、切ないものを感じ取ることができる。分からなくても、どことなく美しい響きが内面にもたらされる。プリーストという作家は、そのような響きを大切に書いている人だということが、この作品集のあちこちから伝わってくる。そういう美しさを感じ取れる感性を喜びとして確認しながら、ただの読者としてただの小説と向き合う――その姿勢を大切に、ひとりの時空で読んで楽しむのに十二分の宝だ、この本は。

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