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2008年1月にNHKスペシャル「シリーズ 最強ウイルス」が放映されたが,その番組の反響が大きかったため,番組でじっくり説明できなかったものも含めて,こうして書籍として発行されたものだ。
当時は,鳥インフルエンザが人間にも感染しているという状況があって,その新型インフルエンザがいつ,ヒトからヒトへと感染するように変異するのかが注目されていたらしい。H5N1と呼ばれるインフルエンザウイルスがパンデミックを起こしかねない状況下で,どの国もその対策に国を挙げて取り組んでいた様子がわかる。
「パンデミックは起きる起きないの問題ではありません。パンデミックは確実に起きます。問題は,いつ起きるかです。われわれに残された時間はどれだけあるのか分かりません」この言葉は,WHOをはじめ多くの専門家が,パンデミックの脅威について語るときに使うきまり文句である。(p.203)
なるほど,そうだったのだな。2020年,まさにパンデミックが起きてしまった。それは新型インフルエンザではなかったが…。そして,その対策は,上手くいっているのだろうか。
新型ウイルスに対しては,常に,ウイルスがどのように変異しているのかを観察し続ける必要がある。そうじゃないと有効なワクチンの製造にはつながらない。がしかし,当時,インドネシア政府が,このウイルスの提供を拒否していたようだ。インドネシア政府は,提供したウイルスで他国がワクチンを開発し,それを高い値段で購入することになるのに反対しているのだ。世界が一つにならなければならないときに,このような自国主義が出てくることがある。今回の新型コロナの状況を見ていても,どうも自国中心主義が行きすぎていると感じることもある。なかなか難しい問題だ。
当時,鳥インフルエンザH5N1が変異して,直接,人への感染力のあるウイルスに変わるのではないかという専門家の意見に対して,意義を申し立てている研究者もいた。
たとえば,北海道大学の喜田宏教授は,次のように述べていたそうだ。
万が一,H5N1ウイルスがパンデミックを起こすとすれば,このウイルスが,ブタなどの動物にヒトのインフルエンザウイルス(H1N1やH3N2)と同時に感染し,遺伝子の交雑を起こして,新型ウイルスが誕生する場合だという。喜田は,20世紀に起きた過去3回のパンデミックは,いずれもブタからヒトに伝播したウイルスによって引き起こされたと話す。(p.213)
実際,このあと2009年4月にメキシコや北米で蔓延した新型インフルエンザウイルスがパンデミックを起こしたが,それは鳥からではなくブタ由来の遺伝子が交雑したものであったことがわかった。(押谷仁他著『パンデミックとたたかう』(岩波新書)より
ことほどさように,ウイルスの型を予想するのは難しいのだろう。ただ,はっきりしているのは,「パンデミックはある一定の間隔で起きるということ」である。
本書には,米国,オーストラリアなどで,どのようにして来たるべきパンデミックに備えているのかを,克明に書いてある。がしかし,それに比して,日本の取り組みがとても遅れていることも伝わってくる。ただ,どの国も程度の差はあれ,人工呼吸器が足りないことを心配し,もし医者が感染した場合など,様々な想定を考え,コンピューターでシミュレーションし,対策を練っていたようだ。
が,しかし,今回の様に起きてしまっては,本当に対策をしていたのか…と疑問も沸いてくる。ただ,米国が,すぐに死体を置くための冷凍車を準備したり,緊急事態宣言を出したりしたのをみていると,ある程度は対策が役に立っていたのだろう。
今の医学では,パンデミックを押さえることはできそうにない。少しでも〈救える命を救うための対策〉をもっともっと世界全体で考える必要があるのだろう。経済への影響などを考えると,ホントにお先真っ暗にもなるが,あえて人類の知性に期待したいものだ。
シミュレーションの結果…中略…パンデミックが発生してから国民の移動を制限しても,感染拡大の時間をわずかに遅らせることができるだけで,最終的な感染者の数も変わらなかったのだ。(p.91)
米国のロスアラモス国立研究所で行った結果である。
さて,2020年4月13日現在,日本でもヒトの行動が制限されたが,このあと,感染者の数はどうなるのだろう。