紙の本
本書を読まずして、アジアの未来は語れない
2008/11/18 22:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
重厚な本である。『日はまた昇る』が二匹目のどじょうをねらっただけの安易な本であったとすれば、本書は一転して読み応えたっぷりな仕上がりとなっている。読書家の旺盛な知識欲に応えるだけのものが、ここには詰まっている。
日本、中国、インド3ヶ国の行く末を巧みに絡ませながら論じてあり、示唆に富むところが大きい。本書が書き上げられたのは2008年の冒頭であるため、11月現在、この3ヶ国を含む国際情勢は、当時とは違ってしまったところがある。しかし、その齟齬を来している部分を含めてなお、読むに値する洞察力を著者は披露している。
中国に関しては、20世紀の大戦のなごりのために、思わぬ反日感情がわき起こることがあり、当惑させられることが多い。経済的には緊密さを増す一方であるから、この部分に活路を見い出したいところであるが、なかなか簡単にはいかない。著者は、日中間に横たわる過去および現在の問題点をきれいに整理して提示してくれるので、二国間の関係を考察するのにとても役に立つ。
一方のインドであるが、IT産業が国力を押し上げているといった程度のことしか思い浮かばないかもしれないが、中印間のパワーゲームの複雑さを、これまたきれいに示してくれている。日本にとってのインドが重要性を増すのはまだ先のことかもしれない。ただし、ここに中国が加われば、非常に利害が錯綜することを教えられた。
本書を評価するのは、ビル・エモットという欧州人の視点から3国が論じられているからである。かなり中立的な視点で、大小の問題をひとつひとつ丁寧に解きほぐしてくれている。アジア全域の様々な事象をほぼ網羅的に扱ってくれているのは、リファレンスとして好適である。
アジア三国志といいながら、最後の提言の部分では米国の果たす役割の大きさが繰り返し出てくる。書名との相違に違和感を覚える向きもあるかも知れないが、これは事実としておさえておかねばならないだろう。
事実、サブプライムローンに起因する米国経済の変調は、世界全体を巻き込んでいる。依然として、米国の存在はとてつもなく大きい。当初、デカップリング論なるものがマスコミに登場して、もはや米国頼みの世界ではないから、世界経済に与える傷は浅くて済むという説がまことしやかに語られた。
ところが、リーマン・ブラザーズの破綻から世界経済全体が変調を来し始めている。著者は3国関係をはじめとするアジア地域にも、米国が適切に関与することを提言しているが、非常にネガティブな形で、このことを裏付ける現下の世界情勢となっている。皮肉なのは、本書を執筆するにあたって、リーマン・ブラザーズのエコノミストの力も借りている点である。
ひとつ気がかりなのは、本書に書かれている金正日の去就である。執筆当時は健在であったが、今ではどういう健康状態でいるのかも分からない存在となっている。金正日なきあとには、中国が朝鮮半島に関心を向ける可能性があることなどを著者は指摘しているが、思ったよりも早く金正日の健康問題が浮上している。
十分な準備がないままに、北朝鮮に権力の空白が生じているとすれば、著者が言うような利害の衝突が朝鮮半島で起きるおそれがある。ここでの有事は、中印間のそれとは違って、日本にも直接的に影響してくる。著者の示しているシナリオを早急に検討し、その時に備えなくてはならないだろう。それにしても、世界を覆う金融危機に関心を奪われて、半島情勢の危うさを指摘する報道の少なさに危機感を覚えるのは私だけだろうか。
チベット問題も中国国内の事情として片づけることができない困難さを秘めている。ダライ・ラマ14世が力を失った後に、どういう悲劇が待ち受けているか、国際社会は注視していなければならない。
さらりとは読めない重厚さを持ち合わせているが、これだけ広範にアジア地域事情を洞察して見せた書物にはなかなかお目にかかれない。着眼点のよさと、著者のたしかな取材力は素直に評価できる。
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原題「Rivals」が示すとおり、21世紀前半に世界経済・政治でのプレゼンスを高める日本・アジア・インドの3ケ国について、それぞれの現状と潜在的な紛争の原因を俯瞰。将来の紛争については、地政学的理由と歴史的背景に踏み込んだ分析を加えている。インド・中国に関して書かれている本では、とかく調子いいことしか書いていない本が多い中、本書では、日本も含めた各3国の抱える問題点も豊富なデータと共に示している。日本語訳も読みやすい。良書。
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0817読売新聞 評・土居丈朗(経済学者)
■発展生む政府介入の弱さ
このところ、北京オリンピックの話題で持ちきりである。スポーツでも経済でも、中国の勢いに圧倒されそうである。ただ、オリンピックが終わった後の中国の政治経済情勢がどうなるかも、気がかりなところである。
中国と並んで、もう一つのアジアの大国インドも急速な経済発展の最中で、いまやアジア経済は、日本、中国、インドの三国志の様相を呈している。
この三国には、経済発展を促した共通した特徴がある。それは、経済面で政府の介入を弱めた、ないしはそもそも弱いことである。日本と中国は、政府の介入を弱めることで、民間企業の旺盛な投資を促し、高度成長の原動力を得た。
日本は、高度成長期に経済の自由化を進めていたし、中国は、改革開放路線以降、政治面での政府の強い統制とは裏腹に、経済の自由化を経済発展につなげている。高度成長期の日本は外国資本をあまり活用せず、メインバンクを軸にした産業資金を用いて輸出で稼ぐ経済発展だった。中国は、当時の日本よりも大規模に外国資本を受け入れ、経済発展の果実を日本を含む先進国とも分かち合うことで、世界経済で強い求心力を持つに至っている。北京オリンピック開会式に出席した各国首脳の顔ぶれは、その象徴ともいえよう。インドは、そもそも政府の権限が弱いのが現状である。三国とも、自由貿易体制の恩恵を受け発展した。
他方、この三国は、経済発展で協調する反面、潜在的には深刻な対立点も抱えている。日本は歴史問題、中国は共産党一党独裁体制、インドは隣国との軍事的対立という弱点があり、これがこじれると経済発展どころではなくなる。今後、この三国が共栄し、アジア経済が世界経済の発展のエンジンとなるには、各国がその弱点を克服することが重要だと著者は説く。今後の三国の課題を的確に指摘した良書である。伏見威蕃訳。
◇Bill Emmott=1956年生まれ。英ジャーナリスト。英エコノミスト誌元編集長。『日はまた沈む』など。
日本経済新聞出版社 1800円
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イギリスのジャーナリストが書いた著書。日本と中国とインドの関係が書かれている。各国の軍事政策や近隣諸国との関係が記されている。世界の中心、問題の中心である中国。脆弱、老齢化の日本。混沌かつ勢いのインド。それぞれの国を短的に表す言葉が内容を簡潔に表している。内容が難しくキャパを超えたので途中でストップ。
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やはり日本に関する記述が一番面白かった。
官僚支配を共産党の独裁に例えたのは言い得て妙だった。
国防に間しても三国間の外交問題として捉える視点が得られてよかった。
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海外から見たらバブルがはじけようが何しようが自民党がずっと政権を取っているというのは中国が共産党一党支配であるのとおなじようにみえるんでしょうか
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2008年執筆なので、その後に起きたリーマンショック、北朝鮮の権力継承、TPPなどは当然触れられていないが、大枠についての知識がほとんどない自分のような者にはありがたい本だった。
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アジアを一体化させる進行は経済発展とそれに伴う貧困の削減。
ミドルクラスが登場すれば、民主主義が発展するという理論の問題点は、ミドルクラスということあbに明確な定義がないこと。
中国とインドの排出量が多く効率が悪い原因はテクノロジーが古く、かつ規制が弱いか実行できていないから。
アジアのライバル意識は歴史と戦略という2つの原因によって、とげとげしく激しいものになりうる。
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読む始めるのに半年かかったか苦笑
インドアズナンバーワンを読んでいたおかげでインドの経済の知識はあったのでよかった。
インド中国やパキスタンの歴史問題については勉強になった。
アジアの紛争地帯としては知っておくべき問題。
名前からして、あまり期待してなかったが、楽しく読めた。
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【三つ巴への号砲】21世紀に入りその重要性が一層増しているアジア。その中でも急速な成長を遂げる中国とインド、そして引き続き主要国である日本の3か国に焦点を絞り、その地域のダイナミックな流れを考察した一冊です。著者は、「エコノミスト」の東京支局長を務めた経験を有するビル・エモット。訳者は、『フラット化する世界』の翻訳でも知られる伏見威蕃。原題は、『Rivals: How the Power Struggle between China, India and Japan will Shape out Next Decade』。
それぞれの国に関する書籍はそれこそ山のようにあるのですが、3か国を並列して眺める作品というのはあまり見かけたことがなかったため、非常に新鮮な印象を受けました。それぞれの国が抱える強みや困難が、比較の中で理解できるため、アジアの「勢力図」に関するざっくりとした認識を得たい方にオススメです。
〜本書では、アジアのドラマのもたらすビジネスチャンスを探るとともに、危険についても探求してきた。それを要約すると、二〇二〇年のアジアが、ふたつの異なった姿で現われる。ひとつは、「まことしやかな悲観主義」、もうひとつは「見込みの高い楽観主義」と名づけられる。〜
それにしても凄まじい情報量だったな☆5つ
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21世紀の主導権と巨大な権益を巡り、三つどもえの争いを繰り広げるアジア3大国の国家戦略を現地取材から描き出し、アジアの巨大な可能性と、その裏に潜むリスクを解説。