紙の本
哲学的文学を読んだあと、消化不良で胃の中にたまっていた肉の塊がようやく消え、さっぱりしようとサイダーを飲んでみたくなった。「最高にスタイリッシュなスパイミステリー」で爽やかになろうとそんな気分で本著を手に取った次第。『ダブル・ジョーカー』を含め新刊二冊を買って読んだのだから、辛口の感想だって書く資格はあるでしょう。
2009/10/10 15:07
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本が大陸侵略を本格化した頃、そのころはどうやら日本には英米独露に匹敵するまともな諜報機関がなかったらしい。
なぜかというと諜報活動は卑怯、卑劣な行為で日本古来の武士道に反するという皇国軍人精神で毒された軍人たち、特にその最右翼であった陸軍がこれを毛嫌いしていたからだという。そんな馬鹿たれ脳みそでは戦争に勝てっこないと頭脳明晰、実行力で抜群の結城中佐が立ち上がった。極秘に設立したのが、目的と状況に最も適切な手段を選ぶ合理的思考を貫く近代スパイ戦用の「D機関」だ。天皇陛下にお仕えする軍人の大和魂を真っ向から否定し、結城中佐が率いる忍者部隊か詐欺師集団、いやいや義賊よろしき面々が魔術師の如き手さばきよろしくいろいろと活躍するお話である。
『ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』それぞれ5編の短編集。悪い人は陸軍、いい人は「D機関」とあえてリアリティはさておいた枠をはめ、どのお話も結城中佐の哲学「スパイとは見えない存在である」「殺人及び自死は最悪の選択肢」などの長々しいお説教があって、読みきりの短編を集めたものだからしょうがないないなと思いつつ、スパイではないスパイスを効かせた落しどころを楽しみに読むことになる。
敵対する相手はアメリカでもイギリスでもなく、ほとんどがあるときは悪の親玉であり、あるときは無能の諜報活動しかできない帝国陸軍である。そんないい加減な陸軍に熱いお灸を据え、彼らのメンツが壊れないように事件を闇の葬るのがD機関の活躍。軽いノリでワルを懲らしめるコンゲームの数々だ。
秀逸は冒頭の「ジョーカー・ゲーム」でこのシリーズの面白さが凝縮している。ところがあとはあまり感心しないのである。理由はいくつもあるのだが、一つあげれば「D機関」のような高度な頭脳と戦闘能力を持つチームが敵対するのは、普通は同等のレベルかそれよりも優れている相手であって、だから迫真のゲームが成立するのだろう。
ノウタリンの帝国陸軍では赤子の手をひねるようなものだ。
端から勝ちがわかっているゲームを見ていても緊張感はない。
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密度の濃いスパイミステリーです。要素が綺麗に組み込まれているというか、要素しかない。のに凄く自然。初読では『XX』(ダブルエックス)がお気に入り。再読するぞ!
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第2次世界大戦前夜の日本で、極秘に設立されたスパイ養成組織「D機関」。そこに君臨する「魔王」こと結城中佐と、彼の部下たるスパイたちの活躍を描いた短編集。
何時代のどの国を書かせても、やっぱり柳広司はさらっと上手だよなあ。
いかにもありそうな世界観の構築と、魅力あるキャラクターの描写の両方が、押し付けがましくなくさりげなく、かつ安定していて素晴らしい。
それぞれの話にスパイ小説らしい緊張感があって、「日常ミステリ」を読み飽きた人にはおもしろいかも。
5つの短編のうち、「D機関」や結城中佐以外にはとくに連作になっている要素はないので、時間がないときにも気軽に1話ずつ読めます。
私的にはもう少し連作短編集と呼べる面があれば読み応えがあってよかったかも、と思う反面、
このあっさりと淡々としたところが、いかにもこの本において語られるスパイらしくていいのかもしれないとも思いました。
★
死ぬな。殺すな。とらわれるな。
結局のところ、優れたスパイとは、己以外のすべてを捨て去り、愛する者を裏切ってなお、たった一人で平気で生きていける者たちのことなのだ。
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表紙の人物は結城中佐。しかし,この新作にキレは見られない〜日米開戦前。結城中佐の作ったD機関は,諜報戦の重要性に鑑みて極秘に活動する。日本通のイギリス人が御真影の裏に隠したマイクロフィルムを探し出し,横浜に住む英国総領事が持ち歩く傘の柄の内部の空洞が暗号文を入れる器に使われ,ロンドンで写真館を営む人物に化けたスパイが検挙されそうになり,上海の憲兵隊に潜む内部スパイを追い,ゲシュタポに属するドイツ人新聞記者にして独ソの二重スパイ殺害の謎を追う〜非常に残念だなあ。現実のスパイって地味なんだろうし,誰も信用してはいけないんだろうし,そりゃあ寂しいモノだろうぜ。突き詰めていくと,小説にし難い材料だ。ま,今回は陸軍中野学校というテーマ選択を誤ったってことで諦めましょう
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小気味いい。
嫌いじゃない。むしろ面白い。
スパイの側から見て、の物語。007的な派手さはないけど、興奮は覚えるお話。
かって損はないのに★三つなのはもうすこしボリュームとか読み応えがあってもいいと思ったから。
面白いんだけどなー。
このごろ京極作品ばっかりに没頭していた反動かも。
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ダ・ヴィンチ2008年11月号
「今月のプラチナ本」
「このミステリーがすごい!2009年版」第2位
「週刊文春」ミステリーベスト10 第3位
「ミステリが読みたい!2009年版」第8位
「2009本格ミステリ・ベスト10」第12位
2008年12月11日(木)読了。
2008−117。
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ちょっと「スパイ・ゲーム」を思い出した。
スパイ養成学校、通称「D機関」で学ぶ者達の物語。
連作になっていますが、通しで出てくるのは一人しかいなくて、なかなか面白かったです。
アニメ化を機に再読。
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贅肉をそぎ落とされた端整な文章でサクサク読めました。気づくと目が文字を追ってる感じ。短編の中では「魔都」が好みでした。どうも「記者」という肩書きに弱い。うさんくさいの大好きです。トリックはともかく、「ダブルクロス」のラストの余韻にしびれました。かっこいい!魔王結城中佐の現役時代を長編でガッツリ読みたい今日この頃。
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スパイものの短編集。
養成に至るまでこれほどまでの能力を問われるのかとまずその点に驚く。
短編だが、読み応え充分だった。
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水を打ったような静寂と張り詰めた糸のような緊張。
騙されまいと思っても、いつの間にか結城中佐の掌の上で踊らされている私。
短編だけど、重厚。短編なのに、読み応えアリ。
続編出てくれたらいいなぁと密に期待。
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帝国陸軍のスパイたちのお話です。
帯に「徹夜本」と書いてありますが、読みやすいので徹夜しなくても一気にいけてしまった!
作中で何度も「スパイは地味な存在だ」と書かれてるので、地味なお話……かと思いきや、非常にがっつりエンタメ小説でした。
福井晴敏好きな人は、楽しめるんじゃないかなと思います。
いやー面白かったです。
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ずいぶんカッコイイ表紙だなぁと表紙買いでした。
面白かったです。
スパイ、という職業(?)に対するイメージががらりと変わりました。
派手なアクションは何一つとしてないけれど、陸軍の閉塞感と、その中でさらに薄氷の上を歩くようなスパイたちの攻防は十分スリリングでした。
顔が見えない面白みと、偽名だらけの仲間とも呼べない同僚達。
短編集ということもあり、もしかしたらこの作品の彼とこの作品の彼は名前は違うけど同じ人間なのかもしれない、という想像力も逞しくなる作品です。
そしてその中にあって、全ての物語に普遍的に登場した結城中佐の厳然たる存在感は強烈でした。
ただ、帯が、な……
いや、宣伝なんだから目を引いたもん勝ちなのかも知れないが、
帯に寄せられているコメントがほとんど徹夜明けのテンションだったのには怯みました…(苦笑)
そこまで大仰な装飾も、乱舞するびっくりマークもこの本にはいらないと思うのよ。
正直、この本に引力感じる人は、表紙だけで十分だと思う。
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第2次世界大戦前後の日本陸軍に作られたスパイ機関で活躍する男たちを短編で描く。
どんでん返し的要素を含んでいて楽しく読めた
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結城が一癖も二癖もあってカッコイイ。
時代背景がアツすぎる上にこのスパイモノ!おもしろすぎる!
短編形式だったが、めちゃくちゃ楽しめる一冊。たまらん。
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ダヴィンチオススメの小説。スパイ小説だそうです。
・あらすじ
スパイ養成学校、D機関。
天才スパイの結城中佐が率いる12人の精鋭。
騙し、騙されるスパイミステリー。
任務失敗時にのみ正体が晒されるスパイ。完全に己を消して生きるスパイの世界がうまく描かれていると思います。もっとスリリングなものを期待していたんだけど、さすがというべきかコッソリしています。でも知られざる世界を覗けるのが面白かったです。