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イタリア作家の短編集。抜きん出た寓話性で人間や社会を抉り取る。が、あまりに滑稽で皮肉が効いている語り口はストーリーが排除されていて、読み手が物語に入って感動したり、考えさせられるという作風ではないので、最初は取っ付きにくかった。
しかし、徐々にこの作家の作風に馴染むに連れて、その深みに引き込まれていく。読み終えた今となっては断言出来る。紛れもない傑作短編集。必読!
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鶏が検閲をしたり、天使を作ろうとして鳥の化物ができてしまったり、創世記でヒトを作ろうとしているときの会議の様子やケンタウロスや車の性についての話、営業マン・シンプソン氏によって勧められる不思議な機械。。化学者でもあり、アウシュビッツを生き延びた著者によるものであるからなのか、科学的で自由な発想で書かれているのだが、どことなく皮肉めいている。あまり読んだことはないんだけど、星新一や渋澤龍彦のような感じもした(個人的に)。
4,5話くらいあるシンプソン氏の機械の話は、本全体を読みすすめていくと楽しみになってくる。今度はどんな機械が出てくるのだろう・・・と。シンプソン氏が出てくるものでは「完全雇用」が好きだなぁ。機械というより、ハチなどの昆虫と会話をして色々協定を結んだりするものなんだけど。でも、最後の「退職扱い」は読んでいて薄ら寒くなった。ハチとも会話をしたシンプソン氏があんなことになってしまうなんて。
○「退職扱い」より
哀れなシンプソン! 彼の人生はもはや終わったも同然だ。NATCA社のために何十年と真面目に働きつづけたというのに、同社の最後の機械によって排除されてしまったのだ。(中略)死を意識しながらも、シンプソンはけっして怖れていなかった。すでに六回、それも六回とも違うパターンで体験ずみだったのだから。それは、黒ラベルのテープのうち、六本に刻まれていた。
あとから考えてみると、その機械によって廃人同然になってしまったこと、死についてのテープがあったこと、そしてそのタイトル(考えすぎかもしれないけれど;)・・・背筋がぞぞっとしてくる。科学技術も使い方を誤ると怖いものだ。。
プリーモ・レーヴィの他の著作も読んでみたいなぁ。
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(今回は竹山氏の翻訳でないので、)竹山氏の語彙やリズムから離れて、二人の翻訳者の文体から共通するレーヴィのリズムみたいなものを抽出しようとしてしまったりして、ストーリーに集中できない私。翻訳を読むもどかしさ。
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彼の人生を知っている分、読んでいて深読みして本当に読んでるのがつらくなったりもしたんですが、基本的にユーモラスなお話でした。かなりブラックユーモアだけど。純粋にお話としてとても楽しめて、考えさせられる部分もやっぱり本当に本当にあって、うーん…ケンタウロスみたいにレーヴィが引き裂かれてたとしたら、読んでる側も引き裂かれるんだなあ。お話を楽しんでる気持ちと色んなことを考えてしまって胸がつまるのと、両方あって、どっちにも振り切れないです。でも間違いなく良い本だと思う。心から、レーヴィの小説がもっともっと翻訳されてほしいと思います。
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ユーモアセンスに溢れたプリーモ・レーヴィ幻想短篇集なんですが、彼のアウシュヴィッツでの体験記や、そこからの帰還を綴った自叙伝を先に読んでしまうと、素直に楽しめないのも事実。『ケンタウロス論』に代表される、レーヴィの幻想文学ではお馴染みの動物系シリーズもどこか悲しげ。それに反して、「シンプソン」シリーズは楽しんで読めます。
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ユダヤ系イタリア人として生まれ、アウシュビッツで絶望的な状況に向き合い、化学者として生き、戦後かなりの時間が経過した後に自死を遂げた詩人、プリモ・レーヴィの短編集なのだが、彼が小説を必要とした唯一の理由は、あらゆる重力のくびきから逃れるための「軽さ」を手に入れることだったのだと思う。それほど、これがあの『アウシュビッツは終わらない』と同じ作者だとはにわかには信じがたい。
しかし、その「軽さ」はそんな歴史の「重さ」のみに対比されたものではないような気がする。
彼の身がそんな「重さ」にたわむまえから、彼自身が生来身にまとっていた蝶のような「軽さ」。
そんな「軽さ」を再発見すること。
だから、この小説集をその経歴にふさわしいものばかりが紹介されてきた彼のもうひとつの側面、と簡単に片付けるにはあまりにも美しく、コミカルで、優雅だ。
そのメタフィクショナルな構造やほとんど星新一ばりのライトSF的な素材やNATCA社シリーズのドラえもんめいた想像力(シンプソンさん最高!)。「揮発性脂肪酸」「不飽和ケトン」「フェノール酸」。そんな化学用語が、これほど詩的で官能的な言葉だったのかと思い知らされる。
まず冒頭の「ビテュニアの検閲制度」を騙されたと思って立ち読みしてみよう。
その掌編の最後のページではっとしたら、次の「記憶喚起剤」まで読み進めて、きっと打ちのめされるはず。
カルヴィーノが文学講義を「軽さ」からはじめた意味を、この短編集を読み終えて改めて思う。
そんな物語の力を。
そして、プリモ・レーヴィという人自身がどんなにチャーミングで矛盾に満ちた人だったのかということも。
彼の全著作の出版を希望します。
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化学者で作家のプリーモ レーヴィ短編集。科学者としての知識が微妙に醸成され、ブラックユーモアでクスリとしてしまう独特な世界観を持ったお話揃い*
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作者が科学者だという事実を先に知ってしまったからなのか、
全体的に作品が骨格張って、別世界のレポートを読んでいる様な
感じがしました。それはとても良い意味で、です。
起承転結の[結]の部分が曖昧なのが憎い。そして面白い。
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イタリアの科学者であり、作家という不思議な人物。
アウシュヴィッツからの帰還者。
イタリアの小説って、たいしたことないやろー(笑
と思っていた日もありました。
舐めてました。ごめんなさい。
すっごく面白かったです!
読みごたえのある短編集に巡り合えるなんて、そうそう無いので。
光文社の古典新約は、新しい世界を私に見せてくれる。
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表題作の''天使の蝶''、''人間の友''と''ケンタウロス論''は特に読んでほしい。
言葉で他人に説明するのは難しいけれど、私は私の目隠しが少し薄くなったように感じました。ああ、そうだったのか!って、分かった瞬間に、何でそんなふうに思ったんだ?って忘れてしまうような、そんなよく分からないお話です。
解説を読んでから再び読むとまた違った見方が出来るのでとても奥深い一冊です。
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怒涛のレーヴィ第一弾。
プリーモ・レーヴィが何者か、知っているか否かで読みが大きく変わるだろう。
天使の蝶、詩歌作成機、転換剤、トレック……字面の上に過ぎないが彼の体験を知っている者としては、すべての物語がある一点を指しているように思えた。
それにしても……しんぷそおおおおおん
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今の時代を見ているようで
非常に恐ろしいように思えます。
と、言うかこれからの人間への警告も
含まれているのでしょうか…
彼は化学者でもありました。
それゆえに、これらの未来の商品に関しては
本当に洞察力がありました。
そのうちの一部は出てきています。
だけれどもその中には絶対に
日の目を浴びてはいけないものもあります。
表題作も然り、痛みを快感に変えるそれも…
著者はどこかに心の闇があったのでしょうか
最後は自殺してしまいます。
貴重な方をなくしましたね。
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SFでありながら非常に詩的で神話的で終始背中にぞくぞく来るものがあった。もうどこまでも私好み。以下激しくネタバレ。///シンプソン氏のNATCA社シリーズは、3DプリンターやVRの超すごい奴が出てきたりして、思わず私たちの「これから」に思いを馳せずにはいられない。にしても「検閲は鶏に」とか「測定される数値こそが美」とか痛快なまでの皮肉と「痛みこそ生の番人」というような真理が同居してるし、トレックで女優さんのハプニングとか細部に至るまでもう本当すごい。蜂の話とかも面白かったのに…辛いなぁ。何度でも読む。
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原著1955年刊。
ユダヤ系イタリア人で、戦時中アウシュヴィッツに収容されたが、大学で化学を学んだことが幸いし、奇跡の生還。その後出版したアウシュヴィッツについての証言『これが人間か』(旧邦題『アウシュヴィッツは終わらない』)を出版し、これがじわじわと評判を呼ぶ。
そんな特異な経歴を持つ作家レーヴィはどんな小説を書いたのだろう、と素直な興味を持った。しかし実際に読んでみると、ソフトなSFといった趣の軽いエンタメ物語で、ここには「異常な体験」も「人間存在の深淵についての意識」も認めることはできない。
まあ、暇つぶしに読むような、軽いエンターテイメントという感じがした。あのアウシュヴィッツ生還者のレーヴィの、と思って手に取るのでなければ埋もれてしまいそうな小説集である。
この短編集の中では「天使の蝶」「ケンタウロス論」辺りはわりあい面白かったか。