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今宵のライブハウス『デモンズ』は、異様な熱気に包まれていた。あるインディーズ・バンドに陶酔するものや、オンガクと関連らしからぬ暴走族のグループたち『泥眼(デイガン)』、…。
歩夢は緊張していた。いつも、調子に乗りすぎてほかのメンバーに迷惑をかけているのだ。それは、彼が持つたぐいまれなるオンガクの才能が関係しているのだけれども。
歩夢から手渡されたチケットを片手に、理香子と烈は『デモンズ』に訪れていた。歩夢の演奏を聴けるということで浮足立っている烈は、理香子と共に強引に楽屋へ――。
今夜舞台に立つはずだった『メサイア』というバンドの代わりに出ることになったバンド『泥眼(デイガン)』。そのヴォーカル・顕は、その名の通りチーマー系暴走族『泥眼(デイガン)』のリーダーでもあった。面妖なメイクを施し、彼は舞台に立つ。――醜さからの解放を求めるために。
一方、オーストリア・ザルツブルグでは、ジークフリート・ガンディーニと政美のコラヴォレーションがおこなわれようとしていた…。
政美は弾くために此処に在る。完璧な存在となりえるために。英雄となり果てるために。
そしてまた、上り詰める人間を育て上げ、その母となり妻となるために、奈々絵は政美を育て上げたのだった。
――しかしながら、そこに軋轢が生じる。
政美は、彼女の手から離れようとしていた。「自分には、誰にもできないやりかたで、ケッヒェル466を弾くことができる」。――彼もまた、烈たちと同じように、天才であり自由で在ろうとしたのだ。奈々絵の思惑からは少しずつはずれて。
だれかは、だれかのために在ろうとする。
たぐいまれなる才能は、埋もれされてはならない。
権力だけが、権威だけが正しいのか? 理想を押し付けることは正当化してよいものなのか? 自由に飛び放つことは何を意味示すのか?
人々は歩きだそうとしている。それぞれの追い求める道へ。