紙の本
ライトノベル・ミステリ風味
2009/07/15 11:59
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投稿者:Jr. - この投稿者のレビュー一覧を見る
創元推理文庫から出てはいるものの、ミステリとしては非常に薄味。謎の設定も謎解きも、やたらあっさりしていて非常に物足りない。ジャンル分けするとすればむしろライトノベルであり、ミステリはあくまで風味づけとしてパラパラとふりかけてある程度、と理解して読んだ方が間違いがないと思われる。鮎川賞出身だから、と、下手に本格を期待して読み始めると、失望を味わうことになるので要注意である。
ミステリのジャンルとしては、日常の謎になるのだろう、たぶん。殺人や誘拐などといった派手な事件が起こるわけではなく、扱われるのは日常生活の中で起こりうるささやかな謎。ただ、それがあまりにもささやかすぎる。北村薫・加納朋子・倉知淳・光原百合…と、このジャンルには名作・傑作があるわけだが、それらに比べると、これではあまりに小粒すぎるだろうという気がする。4つの短編が収録されているのだが、それぞれの事件にしてからが読者の興味を引き付けるには魅力に欠けるし、探偵が謎を解き明かすロジックにしてもまた同じことが言える。要するに演出の手際の問題だと思う。謎自体は平凡なものであっても別にかまわない。それをどのように読者に提示するかというのが作者の腕の見せどころであり、同じような題材であっても、作家によって面白くなる場合もあるし、逆に「どうしてこうなるのか」と思ってしまうほどにつまらなくなってしまうこともあるのは、小説をある程度読み慣れた人間であれば実体験として分かってもらえると思う。この作品でも、作者の工夫の仕方いかんによっては、充分魅力的に仕上げることが可能だったのではないかと思えるだけに、ちょっとこの出来は残念である。
ライトノベルとして見れば、出来は悪くないのではないかと思う。よくできている、とより積極的に言えないのは、どうも私にはラノベ云々に関しては評価する資格がないのではないかと思うからである。読んでいて、自分はこの作品の読者の範囲から外れているという感じがぬぐえなかった。私の年齢が十代、せめて二十代だったなら、また違った評価になっていただろうと思う。登場人物がほとんど高校生で、舞台となるのがその日常生活、といったような作品を素直に感じ取るのには、30代半ばという年齢はいささか不釣り合いのようだ。こういう年齢のギャップは最近とみに感じているところで(例えば漫画などでも、少年向け・少女向けの多くはもはや私にとっては食指の動かないものとなっている)、年はとりたくないものだと思う。高校生の恋愛遊戯などどうぞ勝手にやっていておくれ、と感じてしまったりするのである。若い人向けの小説すべてが理解不能ということではなく、例えば涼宮ハルヒシリーズや米澤穂信の諸作などは楽しめたりするのだから、感性が完全に鈍ってしまったわけではないと思うが、どうもこの作品に関しては居心地の悪さを否定できなかった。純文学の青春小説っぽい、と思ったりして、割と好意的な印象を抱いたりしたのだが、おそらく作者がターゲットと想定しているであろう学生諸君はどんなふうに感じるのだろう。
ともかくも中途半端、いまだ発展途上、というのがまあ全体的な感想だろうか。ラノベとしてもミステリとしても及第点にはもうちょっと届かない、という感じ。今後の成長に期待、といったところだが、さてこの作者は今後どのように伸びていけばいいのだろうか。余計なことと知りつつ考えてみると、次の3つのパターンが浮かんでくる。
(1) ミステリ部分は捨て去って、ラノベ作家に特化する
(2) ミステリ作家として精進する
(3) 思い切って純文学方面に進む
意外とどれを選んでもよさそうな気がする。割と才能豊かな人だと思うので。
(1)に関しては、これは間違いなく有効である。今作から判断する限り、ミステリとしてはあまり評価できない、むしろミステリ部分が邪魔になってるんじゃないかとすら思えたりするので、いっぺんミステリのことは頭から追い払って、純粋に明朗青春小説を書いてみても面白いと思う。けっこう面白いものが書けるんじゃないかな。
(2)、こっち方面も悪くない。青春小説としての骨格はしっかりしているので、ミステリとしての見せ方、伏線の張り方や話の展開の仕方なんかを工夫すれば、将来有望なのではないか。個人的には青春ミステリは大好きなので、頑張ってほしい。
(3)も、意外にいけるんじゃないか。私が今までに読んだ純文学の青春小説と似通ったような雰囲気を感じたもので。島田雅彦とか村上春樹とか。どういったテーマをどのように描いていくかという問題意識を明確に持つことがまず必要だろうが、ひょっとしたら次世代の村上春樹になれるかもしれない。
…といったようなことを、無責任に想像してみたりした。私個人としては、できればミステリ方面に進んでほしい。若い青春ミステリ作家というのは貴重である。現在のままでは正直勉強不足という感じが否めないが、まだデビュー間もないことではあるし、努力次第である。米澤穂信に伍する存在を目指して精進してほしい。
8月に出るらしい続巻を購入するかどうかは、現在検討中…。
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続きといえば続き(続編もでる)
登場人物の過去の話があったり
にわか探偵の話。
前作の事件ではなく日常の中の
ミステリー(推理よりこっちの方がしっくりくる)
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理由あって冬に出る、の続編。
ひゃっほう、と勢い込んで購入したのですがどうやら上下巻だった様子。
なので、とりあえず★三つ。
いや、もちろん続編買いますし、これ一冊だけでも十分楽しいですよ!?
読んでると、こそばゆくなる小学・中学・高校時代を思い出します。
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“なんだかよく分からないが、僕は「いいのさ」と言って、ふっ、と笑う。
「彼女がいい顔で笑った。見返りとしたゃ、充分だ」
ミノは僕を見て沈黙した。しばらく沈黙して、それから爆笑した。「はははははははははは。似合わねえ。ほんと似合わねえお前。面白え」
「笑うな。くそう」
ミノは「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」とひとしきり笑って、それから、ふっと真面目な顔になって呟いた。「……まあ、お前らしいわ」
ミノが僕の肩を勢いよく叩く。「泣くな友よ!お前にはまだ演劇部<ウチの部長がいる!」
「いるのか?」どうも信じ難い。”[P.158]
第三話は見事に騙された。
葉山くんがそんなことするか……?
とは思っていたけどまさか、ね。
視点が変わっても一人称が同じだとなかなか気付けない。
断章は後編が出る前にもう一度読んでおこうかなぁとかなんとか。
“伊神さんはもう用件は済ませたという顔で時計を見た。「そろそろ出発だ。じゃ、よろしく」それだけ言ってさっさと背中を向け、ゲートに並んでしまう。
ちょっと待った。ゲートを抜けようとする伊神さんに、僕は急いで言った。「伊神さん」
伊神さんが振り向く。列の後が詰まっている。僕は焦る。言うべきは何か。
「……お土産を」
伊神さんは露骨に面倒臭そうな顔をした。違う。そうではなくて。
「……卒業、おめでとうございます。ええと、それと……卒業しても遊びに来てください」
やっと言えた。
伊神さんは、すっと手を上げて、ゲートのむこうに消える。ずっしりと重くて暖かいコートを両手で抱えたまま、僕はその背中を見送った。”[P.251]
2013 03 04 再読
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小学校を卒業するあの日、僕は手紙を携えていた。便箋と封筒を選ぶのに東京まで出向いて道に迷い、ボツの山を築きながら二週間かけて文面を考え、妹にバレて散々からかわれながら下書きをし、一週間かけて清書したものをやっぱりこれでは不充分だと捨てて書き直し、ようやく昨夜完成した乾坤一擲のラブレターである。
今日が最後のチャンスだった。彼女は私立に行ってしまう。自然な形で会う機会などもうないだろう。本当はもう少し親しくなってから渡したかったがそれはできなかった。だからせめて卒業するまでに。「同じクラス」であるうちに。さあ、行け。散ってこい僕。
(「第一話 あの日の蜘蛛男」本文p.17)
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学園ミステリ
シリーズ2話目前編
かなり いろんな要素が入ってます
後編を読んだあともう一読すると良いかも
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日常の謎を次々解いていく、連作学園ミステリ。
伊神さん、どっか行っちゃったけど、戻ってくるわな〜。
続編が楽しみです。
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「理由あって冬に出る」の続編で、上下巻の上巻。
探偵役で伊神さんの卒業前後描いた連作短編で、この巻では卒業まで。
主人公葉山くんの初恋の人が登場したり。
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前作よりも、より会話をはじめコミカルで
テンポよく学園の謎解をメインにした短編連載集。
今作はその探偵役が学校を卒業するという、
読物的には意外な展開(笑)。
嫌が追うにも続編を読まなきゃいけないじゃないかー!
演劇部部長との微妙な関係の進展も超気になるー。
このホワっとしたユルーいスタイルながら、
ややキュン度高めな感じはクセになる!いいです!
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特別なことはないんだけど、同世代ならではの共感で心地良い。
今の高校生というより、10年前の高校生の懐かしい空気が感じられる。
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総括は次巻の方でするとして、この〈卒業式編〉ではやはり「卒業したらもういない」が少し切なかった。置いていかれるような気がして寂しかった。
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柳瀬さんの「ほら! カモン!」には、声出して笑った。
この、関わってる人の感情を無条件に動かしてしまう天真爛漫さは魅力的すぎます。
やばい、近年出逢ったキャラクタの中でも、飛び抜けて魅力あるキャラクタに出逢ってしまったのではあるまいか。
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物理的トリック自体はすぐよめてしまうものが多いが、人物に隠された秘密という面で、驚かせられ、ほろりとさせられた。好きですね。
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「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、「卒業式編」は四編を収録。デビュー作『理由あって冬に出る』に続くコミカルな学園ミステリ、前編。
《2011年2月21日 読了》
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にわか探偵団が帰ってきた! コミカルな学園ミステリ第二弾。『さよならの次にくる』の前編のお話なので、後編とセットで読むとスッキリします。(当たり前か。)また、なぜ英語の題名が「I NEED YOU」なのかは、後編で明らかになります。
【あの日の蜘蛛男】葉山君が答えを言えばいいじゃん! というのは野暮です(笑)。なにせ伊神さんは謎を摂取するのが大好きなのですから。「どうやって閉鎖されたビルの屋上から脱出できたのか?」という謎。これは若気の至り……ですかね。
【中村コンプレックス】初恋の人、女子高、怪文書。葉山君が一番頑張って探偵しているお話だと思います。犯人を特定するために、ある機能を使ったのが面白いです。ラストで題名の真意も納得。
【猫に与えるべからず】このお話の狙いは、きっと奥の奥のほうにあると思います。驚いたことに、伊神さんは検視もお手の物です。
【卒業したらもういない】もう伊神さん含め三年生は卒業です。二作目にして名探偵卒業だなんて、ペースが速すぎるような(笑)。「開かずの部屋」から姿を消した伊神さん。「怪盗伊神」健在のお話。このお話の残された謎が、後編へとつながっていきます。
全体的な感想は後編とセットで書こうかなと思います。
(百石)