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イシグロ初の短編集。現時点での最新作。
短編集ということで、評価が難しい。短編集としては面白いけども、長編作品の方が魅力がある気がしている。もちろん、いずれの短編もキラリと光っており、独特の世界観を放ってはいるのだけども。甲乙つけ難く、「これだ!」と言い切るのが難しい。『老歌手』『夜想曲』『チェリスト』は、「好きだなあ・・・」とは言える。
なんとなく自分の中で、無粋だけども順位づけをしてみる。
1位 日の名残り
2位 わたしを離さないで
3位 私たちが孤児だったころ
4位 遠い山なみの光
別枠として、この短編集かな。
残りの2作、『充たされざる者』『浮世の画家』が、どこに食い込んでくるのか楽しみ。
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久々の純文学にホッとした気分。イシグロには今どきのライトノベルにはない文学的な品性がある。各短編にオチがないように思うのは、チェーホフ的な人生の一瞬を切り取ってみせたような書き方だから。イシグロは好きな作家で、この作品も評価はしているのだが、短編としては、私はモームやモーパッサン的なドラマ性やオチがあるほうが好きなので、個人的にはちょっと物足りない。
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5つの物語の中で「モールバンヒルズ」が、すとーんと心に降りてきて収まった感じ。登場する、音楽家夫婦の過ごしてきた日々を妻の言葉で語られる場面で息子の事にふれている部分など、こちらの気持ちも痛くなり、音楽家志望の青年と姉夫婦のやり取りはとてもリアルでその場の空気までが感じられた。他の4編は好きではない。
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国籍などを超えて、言葉が通じなくても音楽という共通語で通じ合えるという点で音楽に携わる人たちを羨ましく思っているのですが、この作品にはその共通語を持ち、邂逅がありながらも繋がりあえない人々が出てきます。そのせいか読み終わってしみじみと哀しみが残りました。
2編はカズオ・イシグロの作品とは思えないようなコントみたいなやりとりもあって、私は「メグ・ライアンのチェス」のくだりで吹き出しました。思わず突っこみたくなります。
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古き良き時代のハリウッド映画のような洒落っ気もあり、哀しい別れもあり。ゆったりとした音楽が流れる中、すれ違っていく人々。読み終わって切ない。読んでる間、バックミュージックだったDiana Krallのせいか。
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切なくもどこかロマンチックな香り漂う5つの小話。「音楽と夕暮れをめぐる5つの物語」という副題にあるように、どの小話も音楽が物語を彩り、黄昏時のような切なさが漂っている。ある人生のある一部分を切り取ったような物語ゆえ、解りやすいようなオチや教訓などは用意されていない。作中で表された苦味、焦り、高揚感、戸惑いは、人生の中でだれもがどこかで感じたことのあるような感情。だから懐かしいノスタルジックな気持ちになるのかもしれない。【以下ネタバレ含むため未読の方はご注意】「老歌手」ベネチアの広場でバンド演奏をしている流しのギターリストが、憧れの大物歌手と出会い、あるサプライズへの協力を依頼される。だが妻に歌を送るというロマンチックな計画に反して、夫の表情は暗い。夫婦の愛の終わらせ方に苦味を感じる。「降っても晴れても」ロンドンに住む20年来の友人夫婦の危機に接することになった、フリーターの中年男性の戸惑い。いまひとつ面白みが解らなかった。「モールバンヒルズ」イギリスの片田舎のカフェを手伝う学生ミュージシャンの青年と、カフェを訪れた音楽家夫婦とのふれあい。傍目には仲良く見える夫婦だが楽天家の夫と神経質な妻の観点の違いは妙に現実味を帯びている。「夜想曲」天才的な中年サックス奏者が心機一転、整形手術を受ける。偶然隣部屋になった女性芸能人と関わることになるドタバタ。どこかで目にした名前だと思ったら1話目の登場人物が再登場している。初めとキャラが若干違う気もするが…。「チェリスト」若きチェリストが音楽の大家の個人レッスンを受ける奇妙な話。素直な青年が女性の手ほどきを受け影響されていく変化が綴られている。なんとも微妙な味わいだ。
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この「夜想曲集」はヨーロッパの国々が背景にあり、お洒落な雰囲気を感じながらも、どこか…心の中で寂しい人間模様を描いている。
読んでいると惹き付けられる。そして最後は結末の善し悪しに関わらずしっとりとした余韻が残る。
言葉のボキャブラリーが少ない私にはそれしか言えない。それが悔しい。
この「夜想曲集」は5つの短編が入っていて共通するのは「音楽」を軸にした大人の人間模様を描いている。
この短編の中の1つ「夜想曲」で気になる台詞があった。
「人生って、誰か一人を愛することよりずっと大きいんだと思う。」
当然な理屈だと思うけれど、愛に悩む人にはそれさえが見えない。
しっとりした気持ちにさせてくれる素敵な短編集を読ませて頂きました。
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老歌手、学生時代の友人、夢を追う若者、整形手術を受ける男、チェリストと音楽を巡る5つの短編集。どれもどこかイギリス的捻ったユーモアにあふれていて読んでいてクスッとなったり、ムカッと来たりともの悲しさに囚われたりとさまざまな面が楽しかった。表面は静かにみえるけれど、なかなか激しかったりする感じかな。最初の「老歌手」が一番しんみりきたなあ…
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カズオ・イシグロを読むのは初めて.この本は初の本格的短編集らしい.どの話も少し現実離れした設定の中で,とまどったような宙ぶらりんの感情が描かれている.ヴェネチアを舞台にした最初と最後におかれた「老歌手」「チェリスト」が印象に残った.「降っても晴れても」は全編落ち着かない感じが私を不安にした.それは作家の力かもしれない.いつか長編も読んでみたい.
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読みやすかったです。タイトルに『夕暮れ』とあるせいか、読んでいる間中、自分のまわりは太陽の沈みかけた薄暮の時間帯に覆われている気がしました。様々に行き違いすれ違い、かかわりあい寄り添いあう人々。ゆっくりした気持ちで洒落てるな~と思いながら読みました。私は好きです、この本。
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カズオ・イシグロ、短編集もおもしろかった。
なんか登場人物に必ず、「それ、いわんでええやん」「なぜ突然そんな態度」みたいなひとがでてきてそわそわさせられるけど・・・
どことなくファンタジーな雰囲気がマルです。
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「夜想曲」という話がおもしろかった。コメディっぽいドタバタや、登場人物の出合う場所とその風貌や、二人のやりとりがたのしい。映画になりそうだ、そうなったら観てみたいけれど・・・無理かな。
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カズオ・イシグロの短編集。副題にあるように、「音楽と夕暮れをめぐる」5篇。訳者あとがきによると、時代はベルリンの壁から911までだそうだが、人物はぶつからずに、むしろ衝突を避けることで別の痛みや悲しみを帯びていて、確かに幸せだった時間を通り過ぎて、自分たちはひとところには留まれないと気づいていく過程を描いているようにも思える。ドラマティックな原因-結果の型ではなく、寄せて返す波のイメージ。特に好きなのは「降っても晴れても」「夜想曲」。
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壁にかけていた絵の裏側だけ白く残った茶色の壁紙や、
納屋に積もっている塵のように、少しずつ、しかし確実に澱が貯まり、
層となっていく世界の中で、同じようなことを繰り返し、
擦れ違って、また繰り返す人間の悲哀と哀愁。
今も手のひらからこぼれ落ちる砂のような時の流れを感じず、
それでも確実に失われた時に縛られる登場人物たちは、
僕達の一部であり、僕達そのものだ。
科学や技術は進化しても、人そのものは相も変わらず同じ所を行ったり来たり。
靴の底だけが減っていき、摩耗していく。
どこにも行けない、どこに向かっているかもわからない。
自分で足を動かしているのか、地面が動いているのか、
後ろから押されているのか、前から引っ張られているのか、
自分がいつから動いているのかも忘れてしまった。
そしていつまで動かなくてはいけないのかも分からない。
僕にわかったのはこの2つだけだ。
(1)考え方、捉え方の相違の許容
夕暮れを迎えた時、太陽が沈むと考えるか、月が昇ると考えるか。
どちらも間違いではなく、どちらも正しくない。
ただ、同じ人でも時と場合によって違うことを考えるだろうし、
それが他人ならいうまでもなく。
(2)再現性とはコピーの量産化
いかに完璧にたくさんコピーしても、オリジナルにはなれない。表現は一瞬であり、表現されたものはすぐに古びてしまう。
ベルリンの壁が壊れてからも、9.11があっても、
2013年になっても、まだ人の持っている時間は24時間のままであり、
残酷で優しい時の流れは逆行しない代わりに、止まりもしない。
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初の短編集とのこと。
ものすごく上手だと感じた。出来事としてはささやかだが、感情としてはとても行き詰まってやるせない場面が多かった。