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紙の本
読み終えた時、左手がプルプルと…。知識、感動、おまけに筋力までつく充実の600ページ。
2010/10/12 23:09
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はりゅうみぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代小説や伝奇物に詳しい選者・末國善己氏によって丁寧に集成された、野村胡堂の幻想伝奇傑作短編集。
「銭形平次捕物帖」で有名な人情時代小説の大家が、いったいどんな伝奇ものを?と興味を引かれたのがこの本を選んだそもそもの動機だが、知らなかった…。こういった作品の方がルーツでいらっしゃったのだった。
クラシカルでどこか懐かしい響きの綺麗な日本語で語られる、妖しく儚い世界。そこはかとなく淫靡な空気さえ漂わせた短編奇譚の数々に、しばし現実を忘れて読み入ってしまう。
サスペンスからラブコメまで、こんなに守備範囲広かったのか!と驚く「奇談クラブ」、
月岡芳年(芳年写生帖)や浮田幸吉(天保の飛行術)も、この方が描けば、こんなに哀しく愛に満ちた抒情小説となるのね、と感に入ったり恐れ入ったりの「伝記小説」
ドイルの原書を中学時代に既に読んでいたという作者が、生涯書き続けた綺譚・奇談・ジュブナイルの数々は、どれもドイルへのリスペクトにあふれている。あの「銭形平次」すらここから派生した1作品にすぎなかったのかもと穿ってしまう、気合の入った集大成だ。
これほど貴重な作品群(入手困難作の割合高し)を集成・編集された選者の方には、よくこれだけ集めて下さったとただもう頭を下げるのみである。
収録されている全話に(これもすごい)、選者様の巻末解説がついているが、こちらをを読んでから改めて本編を読み返すと、時に悲劇が喜劇にひっくりかえるぐらい目ウロコが落ちちゃうのがこれまた感動的だ。たまに珍解説もなくはないが(おいおい)、そこもまた娯楽小説らしくていい。
ホームズ以外の作品があまり注目されなかったドイルのように、「平次」以外の作品があまり著名ではない野村氏。
そこを高橋克彦氏は嘆いていらしたが、もしかしたら野村氏は、尊敬するドイルと同列で語られることをむしろ喜んでいらっしゃるかもしれない。
2段組でおよそ600ページ。
空いた時間に少しづつ読み進めて、贅沢な時間を過ごす。そういう類の本だと思う。
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