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みんなのレビュー6件

みんなの評価4.2

評価内訳

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紙の本

社会性に染まらず、現実と幻の境をよく認識していなかったために物語を解していなかった幼い子の目線。それを獲得しながら人間関係や人間存在を見ることで、現実は神話性を帯びる。須賀敦子の敬愛した女性作家の短編集。

2009/09/02 11:27

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 いい本だ。いい本でないはずはない。かの須賀敦子が「尊敬してやまない作家」とモランテを称えたという。そして、訳者・北代美和子氏のあとがき、結び部分を引いてみれば十分に伝わる。
――完璧に作りあげられたモランテの短編の数々を日本語にすることは心躍る楽しみであり、訳者の翻訳人生で得た最大の歓びと言っても過言ではない。訳者はこの作品を、著者エルサ・モランテへの大いなる賞賛と敬愛のなかで、一語一語心をこめて翻訳した。

「完璧に作りあげられた」とはどういうことなのか。「いかにも小説の傑作として、あざとい技術を駆使してまとめられた」「感動のツボにはまるよう意図的、作為的な工夫がされた」など、マイナスの印象として、この表現が捉えられたなら誤解である。そこが、もう少し語られる必要はある。

 小説が語られるとき、玄人受けする上手い小説か、荒削りだが読み手を圧倒する勢いや感性の豊かさがあるか、つまり「技術か、感性か」という2つの指標が評価に用いられる場合が多い。しかし、感性もまた「感じる技術」があってこそ獲得され、豊かになってくるものなのではないか。
 そう考えたとき、モランテの「完璧さ」というのは、物事を極めて繊細に深く感じ取れる技術の高さであり、感じ取ったものを考えられ得る限り効果的に表現し切れる技術の高さなのではないかと思い当たる。
 では、モランテが「深く感じ取る」対象としたものは何かと言うと、ここに並べられた短編で、好んで書かれているのは「子どもからの目線」や「子どもが置かれた環境」である。
 まだまだ夢の中に生きる幼い子どもの目線を借りるということは、幻視も取り入れて書くことになる。時代の特定もせず、明らかな幻想性を伴ったり、どこか幻想的なムードを伴わせたりして書く方法は、リアルに書く方法よりも、かえって物事の皮肉な側面や悲劇的要素を際立たせる。
 そういった抽象性が、現実的な人間関係や人間存在を「いつかの時代の物語的なものへ」「はるかな時代の神話的なものへ」と読み手の意識を遡行させる。そのような効果を小説という器で巧みに引き出して行くのがモランテの特徴だと言えよう。

「灯火(ともしび)を盗んだ男」は、幼児が窓から毎夜、聖堂の灯火の守り人を眺め、彼の秘密、聖堂の秘密を目にしてしまった話。少女はそのせいで――そのせいと彼女が受け止めたということなのだが、ある時、とんでもない不幸に見舞われる。その「とんでもない」もまた少女なりの受け止め方だ。自分はひどい罪を犯したと思い込んだ少女は、聖堂近くに身をうずめ、守り人や死者たちの幻を見る。
 本の初めに置かれたこの物語は、安定感のある場所へ着地することを拒み、幻と思念のさなか断たれる。腕を引っ張られ、引っ張られた腕の先が異次元に入り込んで見えなくなってしまったかのような感覚に襲われる。

 そのような状態で「眼鏡の男」という第2話が始まる。これもまた、話の全貌を理解し切って読み終えたいという自然体を裏切る話である。
 男がふらふら部屋を出て、楽しみにしている場所へと向かう。学校である。彼は特定の少女に行き会うよう、いつも待ち伏せをする様子なのだ。ところがその日、男は少女の友達に「あの子は死んだ」と聞かされる。
 そこで、物語は男を離れ、マリーアという死んだ少女と、マリーアの死を告げたクラーラを追う。マリーアの亡霊にクラーラが会いに行くと、マリーアが自分を殺したのはあの男だと告白する。少女たちの会話はしばらく進んでいくのだが、過去に何があったのか、本当に殺人事件があったのか、2人が話をしている設定がどういうものなのかが、はっきりとはつかめない。
 ともすると、眼鏡の男も霊的な存在であるかのようだ。マリーアが死の床で見ていた亡霊が男であり、彼は最初から存在していなかったとも取れる。死んだ少女と話ができるクラーラも何者なのかと思えてくる。
 子どもが出来事について話をすると整理がされてておらず、時間の流れが認識されていない。その上、自分の印象に残ったことから語るがために脈絡がないということかよくある。この話は、そのような調子で、「物語るにはまだ早い」段階で書かれている。

 モランテ作品を読んでいると、小説における技術の高さは「物語の完成度」とイコールではないように思えてくる。技術の高さとは「この世ならぬもの」へ人を結びつけていく力なのかもしれないと思えてくる。
 ファンタジー世界を見えるようにするのではなく、五感では認識し切れないものを感じさせる力である。第六感とは微妙に異なる。大気の中に降るようにして湧き出てくるものの存在を身近にしてくれる、そういう力の大きさとでも言えば良いのか。

 収められた12編について逐一説明をしていくのは手に余る。強烈だった、あと2編について記しておく。
「灯火を盗んだ男」「眼鏡の男」につづく「祖母」。これは母と息子が互いに崇拝し合い、崇拝から覚めた後に苦い落胆を感じ合う皮肉を書いた表題作「アンダルシアの肩かけ」につづき、この短編集では長い作品である。
 エレーナという女性が寡婦となったところから始まる。それからの運命は意外性の連続で、結末は、はるかな時代の神話的なところへ至る。神話的というのは、この場合、神から直接下された天罰のような非日常的悲劇の極みがあったり、出てくる人物に「大蛇」や「預言師」のような象徴的雰囲気があったりするという意味で使っている。
 最初の結婚で子を持てなかったエレーナだが、夫の資産の一つの田舎家を訪ね、そこで借家人と出会って結婚することになる。しかし、義母は息子をエレーナに奪われたと感じており、その恨みをストレートにぶつけてくる。義母が抱く不穏な気持ちが家庭に影を落とし、さらには高齢で授かった子どもの運命にも影を落とす。運命的、しかしあまりにも圧倒的な結末が待つ。
 簡潔に書かれ、しかし決して慌ただしく書き急ぐことなく、的確な言葉を捉えて綴られていく文章が、「ああ」と洩らすしかない境地へと心を運び去る。その感嘆は「驚き」とも「悲しみ」とも「切なさ」とも言えはしない。

「同級生」はわずか4ページだけの短編だ。ここでは同級生に起きた運命的悲劇が二重、三重に広がって語り手に見えてくる。親を失った不幸、彼がついていた嘘がばれてしまう不幸、彼が暮らしに対して抱えていた不満が明らかになった不幸。
 この悲劇を知り、同級生に軽蔑を抱くようになり、さらには縁がなくなってからも尚、語り手が彼に対して抱いていた強い思いが最後の2行で示される。突拍子もない思いではあるが、そのように得体知れなくどこからか湧いてくる思い込みには自分にも覚えがある。
 そういうわけの分からないものこそが「物語を解する以前の自分」「現実と幻の境がよく分かっていなかった自分」「社会性に染まっていなかったがゆえに『この世ならぬもの』の近くにいた自分」に引き戻してくれるような気がしてならなくなる。つまり幼児だった自分へ、と。

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2009/09/29 22:16

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2009/10/18 12:53

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2010/03/31 13:22

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2014/02/23 22:53

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2018/07/08 14:09

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