紙の本
夏の夜のひととき、“怪物ランド”に遊ぶ。
2009/08/14 13:16
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書が通巻の四十三冊目。とても全巻は読み切れていませんが、思い出したようにちょこちょこと手にとって、ぱらぱらと頁をめくっています。今回は『怪物團(かいぶつだん)』とタイトルにあるように、テーマは“怪物”。現代日本の異端の作家たちが創造した怪物たち、モンスターたちの一大見世物(スペクタクル)。印象的な短篇がいくつもあり、本シリーズで私が読んだ中では、初期の『時間怪談』に次ぐ読みごたえ。虚構の物語世界にとっぷりハマる数時間を過ごすことができました。
飛鳥部(あすかべ)勝則「洞窟」、朝松 健「醜い空」、井上雅彦「碧(あお)い花屋敷」、平山夢明(ゆめあき)「ウは鵜飼いのウ」、岩井志麻子「暗い魔窟と明るい魔境」と、それぞれ面白かったのですが、とりわけインパクトがあったのは次の二篇。真藤順丈(しんどう じゅんじょう)の「ボルヘスハウス909」と、上田早夕里(さゆり)の「夢みる葦笛(あしぶえ)」。
真藤順丈という作家のことは全く知らず、「ボルヘスハウス909」で初めて接したのですが、凄い才能であるなあと一発、ノックアウトされました。幕開けの第一頁目から三頁目あたりまで、そこには“ボルヘスハウス”で暮らす異形の住人たちの様子が描かれているのですが、その異形の者たちの造形、姿がとても魅力的なんです。真藤順丈という作家が脳内画像に映し出すビジョンと、その幻視力の鮮やかな豊穣感にわくわくしました。ホラー系作家のなかでも要注目の若手ではないかと、ゴシック太字で脳裏にインプットいたしました。
もう一編。イソギンチャクに似た怪物で、いつの間にか次第に増殖していく“イソア”の恐怖を描いて、不気味な隣人風テイストが魅力的な「夢みる葦笛」も、ぞくぞくさせてくれましたねぇ。人々をうっとりさせる怪物の歌声は、まるで、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』のフルートの音のよう。作者&作品紹介文の中、井上雅彦が名前を挙げていた冬木 透(ふゆき とおる)の協奏曲。聴いてみたくなりました。
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巻を重ねるごとに、段々と読みやすくなっていっているような。
『異形』、『怪物』、原点に戻って怪物作家たちが色々な怪物を見せてくれるのがいいですね。わたしは怪物だとか異形だとかいうものにそれほど愛着を持っているわけではないのですが、色んな怪物を『はいどうぞ御覧あれ』とこうして差し出されれば嬉しいです。
ただ、スプラッタ=ホラーではないだろう、という作品があるのも事実。暴力に対して抱く恐怖と、得体の知れない怪物に対して抱く恐怖は質が違うのではないかしら、とは思います。アメリカ的な『立ち向かえる敵』に、『ホラー』という言葉は余り似合わないなぁ…と思う作品集でもあります。でも異形コレクションは全体的に残虐・暴力シーンが多い作品が結構あるから、これだけが特殊なわけでもない。
それはともかく、表紙のこの人形、顔がマリリン・マンソンに見えるんですけどわたしだけですか?
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《洞窟 飛鳥部勝則著.
緑の鳥は終わりを眺め 黒史郎著.
醜い空 朝松健著.
ふたりきりの町 菊地秀行著.
碧い花屋敷 井上雅彦著.
カナダマ 化野燐著.
夢みる葦笛 上田早夕里著.
牛男 倉阪鬼一郎著.
父子像 朝宮運河著.
ばけもの 児嶋都著.(漫画)
代役 石田一著.
麗人宴 入江敦彦著.
私とソレの関係 飯野文彦著.
沈む子供 牧野修著.
ゲバルトX 飴村行著.
血塗れ看護婦 友成純一著.
ウは鵜飼いのウ 平山夢明著.
ボルヘスハウス909 真藤順丈著.
夕陽が沈む 皆川博子著.
暗い魔窟と明るい魔境 岩井志麻子著.
追悼 田中文雄さんに捧ぐ 井上雅彦著.》
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怪物團―フリークスというテーマだけあってか、このシリーズでは久しぶりにグロテスク、ナスティな作品の詰まった1冊。
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タイトルどおり「怪物」がテーマの異形コレクション。テーマならではのパワフルな鬼畜作品が多くって、テンション高くわくわくしながら読めました。
お気に入りは選びきれませんね。もうこの一冊がお気に入り状態。でも強いてあげるなら、朝松健「醜い空」、児嶋都「ばけもの」、皆川博子「夕陽が沈む」、岩井志麻子「暗い魔窟と明るい魔境」などなど。
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テーマはそのものズバリの「怪物(團)」。そもそも怪物の別称「異形」を冠するアンソロジーシリーズだけに、我が意を得たりといったパワフルな物語が揃っている。
オープニングの飛鳥部勝則「洞窟」続く、黒史朗「緑の鳥は終わりを見つめ」からして、いきなりフルスロットル。怪異譚としての構成にも優れた「洞窟」の恐ろしさ(鮮烈なオチ!)と、「緑の〜」の混沌をそれぞれ堪能し、前半は上田早夕里「夢みる葦笛」にトドメを刺す。不条理SFとも云える世界観のなか物語は静かに進み、やがて怪物の福音とともに淘汰が始まる。それに抗う主人公の矜持が作者の思いと重なるようだった。
中盤、倉阪鬼一郎「牛男」は、後半の仕掛けも見事な一篇。朝宮運河「父子像」の不穏で悲しい物語にもかなり心が引きずられる。そして入江敦彦「麗人宴」はもちろん「テ・鉄輪」の一篇。どこまでも心地好い京言葉に翻弄されつつ繰り広げられる物語。この鉄輪シリーズの醍醐味は「静と動」。馥郁とした京都風情と阿鼻叫喚な怪異のコントラストが兎に角、クセになる。異形を通じて長く続いて欲しいシリーズである。
牧野修「沈む子供」に始まる後半は怒濤。異形初登場という飴村行「ゲバルトX」のワケ判らんハチャメチャさ、平山夢明「ウは鵜飼いのウ」のスプラッターでコミカルな味わい。これぞ怪物!といった傑作。…しかし「ウは鵜飼いのウ」て…(笑)
後半のキモは矢張り、真藤順丈「ボルヘスハウス909」だろう。これまた飴村、平山と同じく奇天烈なパワーで背負い投げされたような一篇なのだが、そうしたキッチュなエクステリアを引っ剥がすと、実は熱い青春譚なのでは?と思える読後感。いやしかし、どんな物語でもペロリと平らげてしまう「異形コレクション」の旺盛な食欲にいつもながら平伏してしまう…。
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20本の短編小説アンソロジー。
このスジに詳しくないので、なんともいえませんが
執筆陣は、菊地秀行、岩井志麻子、飴村行とそうそうたるメンバー(タブン
本の紹介としては、「気分が悪い」。
いや、これは褒め言葉です。
だってそういう文章が並んでるんですから。
既成概念を粉砕してくれます。
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微妙かな。クリーチャー自体はあんま好きじゃないんで。これまでも散々怪物出てきてるけど、今回のは比喩的な怪物ではなくクリーチャーとして形ある怪物をメインにすえているらしい。その所為かあんまりテーマに拡がりがなかったようで。面白かったのは「洞窟」「父子像」「私とソレの関係」ぐらいか
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これぞ異形コレクションというべきテーマ。
作品群もバラエティにとんだとは言いがたいがアタリが多かった。
好みは化野燐著「カナダマ」かな。
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シリーズ結構読んでいると思っていたら、全然登録していなかった…。楽しみが増えたと前向きにとらえよう。
今回のテーマは『怪物』。文字通りの怪物ばかりで、暗澹たるお話の多いこと多いこと。
良かったのは、『ふたりきりの町』(菊地秀行)『夢見る葦笛』(上田早夕里)『ボルヘスハウス909』(真藤順丈)。…うーん、偏ってるなぁ。