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タブー視されがちな人種における知能の差について、誤解なきよう、たっぷりと前段に時間を割き、後半一気に核心に触れていくような構成。進化の過程により、肉体の差は生じ得る。知能も例外では無い。アシュケナージ系ユダヤ人のIQは高い。IQは完璧ではないが、客観的に有効性の高い指標である。アシュケナージ系ユダヤ人の進化論的特異性とは、何だったのか。本著が解き明かす。
現生人類が約50,000年前にアフリカから各地に拡散したときに人類の進化は止まったとされた。これが意味するところは、人間の精神はどのような場所でも同じであると言うこと。人類の精神の斉一性という。これが誤りだと本著は指摘する。斉一性とは、社会心理学の用語であり、ある特定の集団が集団の内部において異論や反論などの存在を許容せずにある特定の方向に進んでいく事を示す。つまり、人類の進化が一つの方向に収斂していくというのは誤りだ。超長期的にはあり得るかも知れないが、少なくとも肉体や外観に差があるではないか。
アシュケナージ系ユダヤ人は数世紀の間他の集団の人々との結婚を強く禁じてきた。アシュケナージとはドイツと言う意味だが、ドイツのユダヤ人はIQが平均112から115とヨーロッパの平均100より高い。農業ではなく、主に金融や商業に従事ていた事、子沢山だった事もIQの向上に寄与した。
農耕民は狩猟採集民よりも感染症に対する強い選択圧を経験した。農民同士が対立する事は地主にとって得策ではないので、攻撃的な個性は次第に排除されて人々は従順になっていった。その特徴となる遺伝子がDRD4 遺伝子の7R。この遺伝子は注意欠陥障害に関係するが、東アジアではほとんど存在していない。日本では出る杭は打たれ、中国では引き抜かれて捨てられたのか。農業経験がない民族は、この遺伝子が排除されておらず束縛に耐えようとしない。インディアンやブッシュマンが良い例であり、戦闘民族だと。農耕民族は、繁殖のための家畜を我慢して残さなければいけない。また食料を蓄えるために忍耐強い個体が生き残っていった。対して狩猟民族は仮に成功した後に1人で食べきれず腐らせてしまうから仲間とそれを共有する。農民は我慢強く利己的に、狩猟民族は利他的に、適応度が高まった。また、南アフリカのブッシュマンは最近まで狩猟採集明として暮らしていた。弓と毒矢で獲物を買ってきた。身長は150センチに満たず、痩せているが強靭である。道具が人間を作ったと言える。このように、濃厚か狩猟か金融か、民族の生計によっても遺伝子は選択圧に導かれていく。
犬が良い例だ。犬の行動は、彼らの祖先である狼の行動適応に由来している。アイリッシュセッターは獲物が入る方向を教えてくれるし、ボーダーコリーは他の動物の群れの番をするのが得意だ。群のリーダーの役割を飼い主がするようになった。アイリッシュセッターは噛みつきをしないが、ピットブルテリアはよく人体に噛み付く問題を起こしている。反復学習の回数にも差がある。ボーダーコリーは、5回の反復で新しい命令を学び95%の確率で正しく反応することができる。それに対してバセットハウンドは、80から100回繰り返し学習させても正しい反応が得られるのは25%程度。
ミームだけではない。本著を読むとよく分かるが、人は有史時代を通して多文化的に変わっただけでなく、遺伝的にも変わってきているのだ。テクノロジー程、生殖や成長を要する人間の進化は早くない。デジタル化は人間に何を選択圧として齎すのだろうか。