紙の本
電子出版 12 年の軌跡
2010/10/17 13:55
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投稿者:ゆうどう - この投稿者のレビュー一覧を見る
出版社の局長(東京電機大学出版局)にして日本出版学会副会長の肩書を持つ、斯界のオピニオンリーダーによる電子出版 12 年史である。『印刷雑誌』の連載を再構成して発表順に並べたという。数値や社名・団体名などはあえて発表時のままにしてあるが、専門用語や古い記述に関しては注釈やコラムを設け、現在の状況を補足している。著者の見解には妥当だと思われるものが多く、とても説得力のある内容である。
電子書籍コンソーシアムが、出版社、端末メーカー、通信業者ら 9 社によって発足したのが 1998 年 10 月(しかし、 2000 年 3 月末で解散。 p57 注)。その後の業界の進展を、「現場」からつぶさに報告、論評してくれる。
思えばいろんなことがあった。 2003 年 4 月のΣ Book (松下電器)の発表、そして 04 年 3 月のリブリエ(ソニー)の発売。電子ペーパーを採用したディスプレイは目に優しく、デジタル読書端末が日本に定着するかと思われたのも束の間、あっという間にブームは終息してしまった。いや、騒いでいたのは出版界とその周辺だけで、一般には認知すらされていなかったのかもしれない。
その後、ソニーは米国でソニーリーダーとして読書端末を売り続けて現在に至っている。その間に、彼の国では 2007 年 11 月にキンドルが発売されてブームに火がついた。アップルも iPad でこの市場に参入して電子書籍端末のブームに「油を注いだ」のはつい最近のことだ。もっとも、 iPad は読書端末というより、もっと汎用的なスレート PC と位置づけたほうが実態に合っているが。それはともかく、こうして、 2010 年が何回目かの「電子書籍元年」と呼ばれるようになり、今度こそ 3 度目(?)の正直で、紙ではなくディスプレイ上で読書をするというスタイルが定着しそうな勢いである。ただ、「電子書籍元年」ともてはやされるたびに同じように言われてきたので、何年か経ったときに本当にそうなっているかは保証の限りではない。
そんな歴史を振り返る資料としても有用。レファレンス用に、書架に保持しておきたい 1 冊である。その意味で、索引や年表があるとさらに嬉しかった。
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これから日本の電子出版がどうなるか、本当に楽しみだ。ドラスティックに変わるとは思えないが、徐々に変わっている。
アメリカではWeb上でコンテンツを自由に置いている。MITでは講義をネットで公開していすべての人に学ぶチャンスを与えている。
今後図書館がどうなるかも楽しみだ。図書館の24時間化と有料化はあるのだろうか。そして有料の図書館をどれだけの人が利用するのだろうか。私はしない。
MITが授業を公開する理由として、
1.様々なアドバイスをもらえる。より良い教育を行える。
2.共有することで、世界的に高等教育の質を向上させることができる。
3.インターネットを本来的な知的インテリジェンスの発展に貢献できる。
ネット時代になって、日本に最初に開国を迫ったのがアマゾン、出版社との関係が変わった。今では日本最大規模の書店に成長した。
そしてグーグル。グーグルによるデジタル情報流通の独占には懸念を抱くが版権管理団体によって違法コピーの抑制も期待できる。
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2011 1/6パワー・ブラウジング。研究室蔵書。
著者、植村八潮さんの『印刷雑誌』での1999-2010の連載をまとめて加筆・修正したという本。『印刷雑誌』の連載って言えば『我、電子書籍の~』もそうか。凄いな『印刷雑誌』。
たびたび植村さんが講演中で「2年目の来ない電子書籍元年」が過去何度もあった、というお話をされていたが(そして本書ですでに2003年の記事中でそう書かれていたのを確認したが!)、この本を読むと説得力がグンと上がる。キングが2000年から著書のフリーミアムモデルに取り組んでみたり電子連載(後に失敗し休載)をしていた、とか。もう10年も前じゃないか。2001年に「最近、日本でも電子書籍が話題」とあったり。
ラストにもあるが、近視眼的な煽り言説かそうでないか、警戒する視点を持つのにいい本だと思った。
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「電子出版の構図-実体のない書物の行方」植村八潮
電子出版評論。
@電子書籍 32 冊目。
『印刷雑誌』1999年~2010年に掲載の「デジタル出版よもやま話」を再構成し、時系列で電子出版に対する業界の変遷を記録。
当然ながら、昨今溢れている電子書籍解説本の、回顧録とは一線を画している。
印刷業界も出版業界と同じ、それ以上に危機感を抱いてきているなか、極力フラットに評論している点は非常に良いと思います。
まあ、著者自身が電子出版の最前線で動いている方らしいので当然と言えば当然ですが。
著者の主張は、評論なのでもちろんありますが、かなり控え目なので文献として読む分に非常にお勧めです。
個人的には「電子出版の衝撃」を読むよりも、こちらの方が視野が広い分はるかに分かりやすい。
1次情報を大切に、見極めましょう。(5)
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電子出版がどのような歴史をたどってきたかがわかる本。
特に10年間の中で、何度も電子出版元年といわれたり、CD-ROMとか、電子辞書の形で、紙の出版が変化していることを描き出している。
かといって、紙とデジタルデーターがことなること、ケータイ小説がかなりおおきなウェイトを占めていること、いろいろな面で考えることが多い。
歴史は繰り返すものだが、同じようには繰り返さないが、その鋳型は過去にある。そのような言葉を、思い出すような本であった。
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「印刷雑誌」に連載されていたものをまとめただけあって、電子出版に関して時代を追って俯瞰することができる良書である。
電子出版、電子書籍に精通しているだけに、昨今のiPad,Kindleに踊らされる事は無いことが読み取れる。電子時代における書籍の役割に付いて本質的に議論するための入門書として最適と思われる。
いくつか示唆を得る事が出来たが、一つだけ抜き出すとすれば下記文章が言い得て妙であった。
iTunesやYouTubeがたびたび「黒船」に例えられるのは、旧来のビジネスモデルを変革するだけでなく、著作権法の改正をも迫っているからである。旧来の保守的な市場を奪うものであれば「来襲」ととらえられ、逆に新しい企業の成長を促すもとのなれば、近代社会誕生の端緒となった「来航」と呼ばれるだろう。