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内容はタイトルを見れば一目瞭然。小説を書きたい人(そんな人がどれくらいいるのか、よく分からないけれど)にとっては、なにかと気づきの多い本である。オットー・ペンズラーが直接依頼しただけのことはあって21人全員が超一流だが、そのなかでも明らかな巧拙があるのが興味深い。個人的な感想をいえば、有名なロバート・B・パーカーあたりはさほど面白くないし、マイクル・コナリーも期待したほどではない。逆に、こりゃ凄いなと唸らされたのはローラ・リップマン、アレグザンダー・マコール・スミス。ペンズラーの序文を1〜2ページ読んだだけで、長らく本棚ざらしになっていたけれど、いったん読み始めると面白くて止まらなくなってしまう。好著です。日本のミステリー小説家で同じことをやればいいのに。
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※引用文
・私はつねづね、他者への共感は人間の持つもっともすばらしい心の動きだと思っている。他社の痛みを自分の痛みのように感じることができ、その結果、その痛みを取りの除く為に力を尽くすことのできる能力だ、と思う。
私の考える悪とは、共感能力の欠如だ。
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ミステリー専門店オーナーとして幅広い顔を持つ編者が、21人の作家にシリーズ・キャラクター誕生の経緯を披露してもらったもの。
知ってるのは2人、モース警部とボッシュ、どちらもTVで全シリーズ見た。コリン・デクスター、マイクル・コナリー、2人の話を見ると、いろいろ考え考え、次第にキャラクターを作っていったのがわかる。自身の経験などからも肉付けしていったようだ。TVしか見ていないが、これを読んで原作本も読んでみようと思った。
2作の舞台はオックスフォードとロサンゼルス、時代も著者の年令差の分だけずれているが、この2人、どこか俳優の顔が似ていないか? しかも性格も少し似ている。筋が一本通っていて、曲がったことはやらない、が、どこかひねくれ者。粘り強い、何か過去の人生に傷を負っている。
<モース警部>コリン・デクスター
「主任警部モース」「刑事モース~オックスフォード事件簿」さらにモースの部下だったルイスが主人公の「ルイス警部」も最近みたばかり。
デクスターは1930年生まれ2007年没
ケンブリッジ大卒業後、最初はグラマースクールでラテン語とギリシャ語の教師。次に難聴が厳しくなったのでオックスフォード大大学地方試験委員会上級運営委員として、ラテン語、ギリシャ語、古代史、英語を担当した。
第一作執筆前夜の話が、悩めるお父さん、っていう感じ。1973年8月のある土曜日の午後、ウェールズ地方に子供とバカンスに出かけたのはいいが、雨続きで「よその家のおとうさんなら、青空と暖かい海のあるどこかほかのリゾートをみつけたはずだ」と子供に言われる。このくらい気の滅いる経験はほかにあるまい、と記している。・・で、前の泊まり客が置いて行ったミステリ小説2冊を読み、このくらいなら自分にも書けるのではないか?と思ったという。で1975年に最初の長編「ウッドストック行最終バス」がマクミラン社からついに出版。
影響された作家はセクストン・ブレークとティンカー(少年雑誌で人気のあった探偵)、エドガー・ウォレス、そしてアガサ・クリスティ。
モースの外見にはこれという考えはなかったが、警察官に要求される身長はあると仮定していたはずだ、という。デクスター自身は「ちび、でぶ、はげ、難聴」なのだと言う。
デクスターは国民兵役で18カ月を陸軍通信隊で過ごす。「モースコード(モールス信号」を打てるようになったが、名前の由来はサー・ジェレミー・モースにちなんだものだとよ、言う。
テレビ化については、80年代中ごろ、アメリカの犯罪シリーズが終わりに近づき、もっと静かなのが求められていたという。またオックスフォードは、大学関係者だけの街ではなく、昔から「一般市民(タウン)」の街である、という。このオックスフォードの街を、オックスフォード大学とは別個の存在として描きだしたことがよかったという。デクスター自身、モースと似た立場で、大学の中にいるのは確かだが、大学に完全に属しているのではない。
モースの長編は13作だがシリーズが33作。これは長編がつきたあと、あくまで著作権はデクスターということで、制作者の相談を受け、修正しながら作った。
<ボッシュ>マイクル・コナリー
TVドラマは2014年から2021年。
マイクル・コナリーは1956年生。ペンシルヴェニア育ち。のち家族がフロリダに引越し、作家になりたいと自覚しフロリダ大学でジャーナリズムを専攻、新聞社でものを書く技術を学び、自分の書きたい世界ー警察ーに入りこむきかっけをつかみたいと、フロリダで犯罪関係のジャーナリストとなるも、30歳で心機一転、ロサンジェル・タイムズで警察記者となる。
警察回りをするうち、未解決のトンネル窃盗団の警察説明を聞き、それが子供時代の出来ごと~大人として認められる肝試しのトンネル通過、を思わせ、「トンネルの夢を繰り返し見る刑事」を書こうとひらめく。実際のトンネル窃盗団事件は1987年に発生したが、その頃ジェイムズ・エルロイの「ブラック・ダリア」が発表され、エルロイの「母が少年時に殺された」という経歴から、エルロイは女性の犠牲者のために復讐し、殺人事件を解決する刑事たちを書くことで、母の死によって受けたダメージを相殺しているのでは?と考えた。・・で同じ心理状態を主人公に当てはめた。・・なるほど。で何作目かで母の事件を捜査する小説を書く時、エルロイに手紙を書いた。返事は「君の本の健闘を祈る」
主人公は組織の中で、インサイダーの仕事をするアウトサイダー、いつも孤独な任務を~トンネルでひとりきり~こなしている。
ボッシュの名は最初ピアスだったが、大学の講義でヒエロニムス・ボッシュの三翼祭壇画を見て衝撃を受け、真の芸術家とは、人の想像力に住みつくものを創りだせるかどうかだと思った、それを第1作推敲時に思いだした。ボッシュ絵画の快楽と混沌と地獄の世界、それは殺害現場とは誤った世界で、捜査とは混沌とその結果にほかならないのでは? と主人公の名をボッシュに変える。執筆しているのは、日夜人間の深淵に引きずられ、仕事によって混沌とその結果の風景を隅々まで引きまわされる男の話。人間のなかに巣くう恐ろしい悪魔に立ち向かい、そのあいだずっと自身の位気持ちと葛藤する男の話なのだ。~「だれもが勝ちがある。さもなければ、だれもが価値が無い」これがボッシュの行動基準となる。
ボッシュの音楽。自身はロックで育ったが、この世界で孤立する刑事、を書くので、ジャズでサキソフォンの音にした。フランク・モーガン~チャーリー・パーカーの後継者でヘロイン中毒と刑務所送りの過去を克服し30年ぶりにレコーディングを行った、との記事を眼にし、「ララバイ」という曲をテーマ曲とした。ボッシュの聴く音楽を慎重に選んだ。
知人の刑事の大半は軍隊の経験があり、半数がヴェトナム帰り。コナリーは18才でヴェトナム戦争が終わったのでヴェトナムには行かなかったが、ボッシュはベトナム帰還兵とした。
編者のオットー・ペンズラー(1942生)はドイツ生まれ、アメリカのミステリー専門書店のオーナー。ミステリー専門出版社の経営、評論活動など様々な顔を持つ。この本は友人の作家たちにシリーズ・キャラクター誕生の経緯を披露してもらったもの。当初は自身の書店の顧客に一篇ずつ小冊子として提供された。
2010.8.25初版 図書館
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海外のミステリー本が充実している地元の図書館で2010年刊行の書籍を手に取った時、これまで借り出された形跡がないことにちょっと驚いた。ベストセラーシリーズの主人公たちの誕生記が満載されてファンだったら絶対読みたいはずなのに、なぜ?
ともあれ、倒産危機に陥ったミステリー専門書店が窮余の一策として稀覯本マニア向けに100部限定の作者サイン本を毎月一冊出版して、ついで買いも誘って経営再建したという経緯が面白い。後に一般読者向けにアンソロジーにまとめたのが本書ということになる。
掲載されている21のシリーズ(ランボーのみ単作だが映画は4本製作)の半分を読んでいる(観た)ので、残りはまたのお楽しみということにして図書館に一旦返却することにした。
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どこで本書のことを知ったのか忘れてしまったが、オットー・ペンズラー関連で読もうと思った1冊。
ミステリ好きを自認していましたが、浅はかでした…全然読んでない。人気シリーズはつい敬遠してしまいがちですが、人気の所以が確かにあるんだと反省。スペンサーもモース警部もランボーも読んでない…っていうか、ランボーって原作あったんだ!やはり反省…
どの章も良かったですが、作品としてはフェイ・ケラーマンを読みたくなりました。キャロル・オコンネルは、少なくとも家で積んでる分は読もう…というか、人気なんだ!再認識。
作家としてはイアン・ランキン、アレグザンダー・マコール・スミスが気になりました。
この本に寄稿した作家からまた新たな作家を知り、ますます読みたい本が増え、もう死ぬまでに絶対全部読めない…と半ばあきらめつつ、モース警部シリーズ、TVでやらないかなーなんて思ってます。
でも、本当に素敵な1冊でした。
原題はThe Lineup
2010.8月初版。図書館にて。