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大草原のちいさなオオカミ みんなのレビュー

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紙の本

草原の掟、天の掟に背き、オオカミの仔を捕らえて観察しようとした青年が味わう苦悩。それは、自然との共生(ともいき)をかえりみなくなった近代化の苦悩にも通ずる。中国で空前のベストセラーとなった『神なるオオカミ』のジュブナイル版小説。

2011/01/22 21:41

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 モンゴル草原の遊牧民と暮らしを共にすることになった青年が、オオカミに魅せられ、オオカミの赤ん坊を何とかつかまえ、飼っていこうとする話である。ものすごい迫力、臨場感だ。
 犬とは全く違い、親と引き離された仔オオカミでも人間の言うことをなかなか聞かない。その誇り高さに圧倒されながら、青年は自然の掟の厳しさを知る。町で暮らしていた漢人の青年は、モンゴル人の伝統や文化を十分に理解していないために、草原の掟や天の掟を何度も犯してしまう。異文化体験の重みについても書かれているのである。
 青年の目を通し、自然と共生(ともいき)することの難しさ、異文化と共生することの難しさが経験できる。

 同じ作者で、『神なるオオカミ』という中国の空前のベストセラー大長篇の翻訳書がすでに出されている。その本の中の仔オオカミの部分がジュブナイル小説として書かれたのが本書である。長篇は未読なので、ネット上の評判をいくつか読んでみたが、文化革命当時の政情やあつれきにもかなり踏み込んだ読みごたえある内容のようだ。
 『神なるオオカミ』の翻訳後記によれば、中国では、海賊版も含めると2000万部近くが売られたらしい。建国後、中国最大の著作権輸出作だという。

 本作の方は、主人公が知識学生であり、それが毛沢東の「下放」政策で北京からオロン高原に派遣されたという事情については、控え目に触れられているだけだ。生産兵団の幹部がオオカミ狩りに現れるエピソードも出てくるが、政治的背景、思想的背景を知らないヤング・アダルト読者層であっても、厳しい自然や未知の文化と対峙する青年の驚きが伝わってくるだろう。加えて、自然と異文化に対する尊重の大切さを主人公と一緒に実感させてもらえる。
 作者自身の内モンゴルへの下放体験が下敷きになっていて、訳者もまた東京在住の下放を体験した中国人である。両者とも『バルザックと小さな中国のお針子』(文庫版あり)のダイ・シージェ同様、禁書とされていた西欧小説を耽読したらしい。

「オオカミを飼う」のも、作者の実体験が下敷きにされている。読んでいけば、本物のオオカミと日々生きたのでなければ書けない生態や習性が、きめ細やかに描かれている。
アメリカの現代作家コ―マック・マッカーシーの書いた『越境』の第一部で、少年が家畜を荒らすオオカミを捕らえ、害獣を故郷であるメキシコへ戻そうと旅に出る。そこにも人の仕掛けたワナには容易に掛からないオオカミの頭の良さや、すきあらば生き物を襲おうとする狂暴さは生々しく書かれていた。また、同じアメリカの作家ジャック・ロンドンの『白い牙』(新潮文庫)(光文社古典新訳文庫)(拙評)という古典にも、犬の血が混ざったオオカミのこずるさや非情さは書かれていた。
 どちらも素晴らしい小説であったが、小説というフィクションとしての完成度が高い分、物語の流れの中で、オオカミという野性の表現は幾分控え目であったようにも思う。一方、本作の方は、体験で知り得たオオカミというナマの野性をどうしても書き残したいという思いが強く、小説としての完成度より、むしろ野性をナマのまま書くことに力が入っている気がした。

 モンゴルの草原の民がトーテムと仰ぐオオカミのすごさをもっと知りたいという欲望から、赤ん坊をどうしても手に入れようと、青年が巣にもぐり込む場面、ようやく捕らえた赤ん坊の食欲の激しさ、猛暑の下、くさりにつながれたオオカミが涼を取るために工夫した方法などは、本でないと知り得ない事実の描写である。
 半ば過ぎ、遊牧民と共に青年たちが移り住んできた住まいパオが、夜、オオカミたちに取り囲まれる。そこで、遊牧民たちの犬や捕らわれたオオカミと、野性の群れのオオカミたちとの間に遠吠えの応酬があるのだが、動画を見ているわけでもないのに、手に汗にぎる感じである。

 飼われたオオカミは、次第に人間の手には負えなくなってくる。しかし、手放したくないという青年の思いが、オオカミの尊厳を奪い、それがモンゴル人の長老の怒りに触れる。トーテムたるオオカミを飼うなど、とんでもない冒涜なのである。
 青年というものは、新しい対象に挑もうと危険や冒険を冒そうとするからこそ、その冒涜のような間違いを犯す。犯した間違いに大いに悔い、自分の身を投げ出したくなるほどだ。しかし、その間違いを恐れ、危険や冒険を避けてばかりでは、大きく深い人間になることはできない。
 モンゴル人に対し、漢人の青年は民族が違うため、文化・伝統等で時に違和感を持ち、越えられない壁に悄然とする。だが、かつて同じように間違いを積み重ねてきたであろう人生の先輩であるオロン草原の長老の見守る目、導きが、文化を越えたところで次の世代の成長を期待する、深い情愛で感じ入る。彼の説く草原の掟、天の掟は、誰がどのように挑もうとも、破壊され
得ぬものなのである。

 その掟がいったいどういうことを象徴するのかを考えたとき、この小説は私たちに大きな課題を投げかけてくる。例えば、「持続可能」という概念は、私たち人間にとって都合良いものでしかない。持続したいのは人類の生活であり、決して私たちなくしての自然の持続ではないことを掟はとうに見抜いている。
 オオカミの孤高について知ることは、次の時代を生き抜く若い人々にとって、極めて意味深いことだろう。

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