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ドキドキする。隙間に入ってくるレトリック。もう純文学でそんなに感動することはないと思っていたが、帯の「澁澤龍彦が絶賛」で購読。丁寧な仕事ぶりに驚嘆。刹那的だが芥川より明るく、横光よりも洒落ている。寒い土地で育った元新聞記者には何も言っちゃあいけないのかも。
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ひどく生々しい夢を見ているような。
そんな印象が残る、戦前戦後の混乱や変遷の渦中で翻弄される人々の愛と生と死の物語集。
かと言って歴史を語る戦争モノではなく、数奇な運命に捕まった人々の奇妙な半生の物語が多い。
「お地蔵さん」と呼ばれる少年兵を描いた「少年」や、庭中に溢れる花の描写が美しい「花合せ」やなんかは、人の価値観まで犠牲にしようとする戦争とはなんなのか、というメッセージを、そこにある人々や事物の描写で丹念に描き出す。
それだけでもぐっとくるものがある美しい作品なのだけど、「大竜巻」や「三笠の月」などエンタメ色の強い作品もあり、最初から最後まで本当に退屈しない。
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テンポのいい語り口で楽しめた。気に入ったフレーズなのか、「花合わせ」と「雲の小径」とに、ほとんど同じ台詞があったのが興味深い。
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十蘭の小説にはいつも死の影がつきまとっている、と思っていたが、本書では必ずしもそうでない短編が収められている。かたや掟破りの夢オチが多用されているのもご愛嬌。彦輔と艦長には感心した。
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初めて著者の小説を読みましたが、ちょっと不思議な感覚で、なおかつ読者を楽しませる短編小説集ですね。乾いた感性とモダニズムの匂いのする、私には好みの小説家かもしれない、と思いはじめています。映画になっている「キャラコさん」も見てみたいですね。
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恐るるなかれ、恐るるなかれ。
物語は境界に生まれる、お化けみたいなものかもしれない。
日常との境界。
混沌との境界。
多面体作家、久生十蘭の短編集としては王道に感じるものが揃っている。その分、流動的な文体や論理展開、緻密な背景設定を楽しむには丁度良いかもしれません。
お得意の色情ものから怪奇小説タッチの心霊ものだったり、軍隊を背骨にした少年と士官の友情ものだったり、はたまた史実を元にしたフィクションであったりと本当に様々。
それぞれが持つ断層やズレが、重なって画になる姿はまさに万華鏡。
自身の姿もまた、その万華鏡の中で分断され、形を変え、見え方を変えながら移ろっている。それでもそこに、複雑に写り込んでいる姿に自分以上に自分らしいものをちらり、と見付けてしまったりして。さてそのとき、自身の平衡を保つために必要なのは何だろうか?
…なんだろうね? いったい。
☆3.6でどうだ!