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世界で初めて不死化された人類の細胞、HeLa。その名で全世界の医療研究施設で利用されている細胞の主は、1951年に子宮頸がんで亡くなったヘンリエッタ・ラックスという黒人女性だった。
ヘンリエッタは自分の細胞が研究目的で採取されたことを知らないまま亡くなり、家族もまたそれを知らなかった。しかしヒーラ細胞を利用して様々な研究成果があがるようになった頃、家族の元にマスコミが押し掛けるようになり・・・?
筆者が取材を始めた頃には既にヘンリエッタの遺族はマスコミに対する強い警戒心を持っていて、家族の理解を得て取材を進める困難さの記述が内容の半ばを占めていたように思う。
筆者が学生の頃から取材に取り組んだ最初の本ということで、医学的知識がなくても丁寧に解説してあるので理解できる。
昔のことで、細胞採取およびその後の利用に関して本人にも家族にも同意を得る必要が法的になかったとはいえ、ここまで医学界に貢献しているのに遺族には1セントの金銭も入らないというのはやはり気の毒。
筆者は本の売上の一部をヘンリエッタの子孫の教育基金に充てるとのこと。一人でも多くのヘンリエッタの血族がよい教育を受けられるよう祈りたい。
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生物、遺伝学の知識より、アメリカの社会と歴史の知識が要求される本だった。
久々に辞書や検索のお世話になりながら読んだ。
HeLa細胞で運命の狂った一族の話だと思って読み始めたが
運命が狂う手前に、黒人ゆえの不幸がまずあったように思う。
科学ノンフィクションというより
生物資源と特許、訴訟の話も含めて社会派ドキュメンタリーだった。
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あー… 全然知らなかったこんなこと。みんなみんな読むべき。知るべき。この本はほんとに素晴らしい仕事だなあ。
たぶん、(少なくとも高校までの)教科書には一行も書いてない。けど今日の科学を考えるうえで非常に重要なこと。
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研究倫理を考える出発点として読んだ本
わたしの研究にも必読の本
また、臨床研究、基礎研究に関わらず、ヒトのデータやサンプルを使う人も読んでおくことをお勧めしたい
それにしても、すばらしい取材能力
研究者も負けずにがんばらねば
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ヒーラ細胞。子宮頚癌の細胞株。
初めて培養に成功したこの細胞の持ち主は貧しい黒人の生まれで、手術して間もなく亡くなった。ヒーラ細胞は増殖能が強く、どこででも増え広がり、ありとあらゆる実験に使われた。ヒーラ細胞なんて畑違いの私ですら崇めてしまう有名株だ。
なのに残された家族はお礼や謝礼などひとつもない。貧しい暮らしを余儀なくされただけでなく、勝手に採血されて母親との遺伝子の相違を論文にのせられてしまう嫌がらせレベルの扱いを受けている。
著者がこの件について調べ始め、家族と話をしながらヒーラ細胞を見守る過程が刻々と記してあって、最近の本のなかでは段違いに面白かったです。
研究者も、見習うべき人、反面教師とすべき人が様々に描かれていて勉強になりました。ちゃんと人の心に配慮できる人間でありたいものです。
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HeLaは,細胞を取り扱う学者なら誰でも知っている有名な細胞で,バイオ系の研究機関では必ず培養されていると思う.この細胞は半世紀以上前,ひとりの黒人女性の癌細胞として採取されたものである.HeLaはその女性の名前である Henrietta Lacks を略してつけられた名前だ.
医学,生物学というよりも当時の社会的な内容,それから Henrietta Lacks およびその家族についての詳細な記述がある.人種差別が当たり前だった時代から現在におけるまで,家族と白人社会の確執など,考えさせられる内容が多く含まれている.
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「いつの日かこの子は、曾祖母のヘンリエッタが世界を助けたことを知るだろう!」
「この子も・・・この子も・・・そしてあの子も。この一件は今や、こうした子供たちに関わる話だ。彼らはこの一件を自分たちのものにして、自分たちにも世界を変えられるということを学ばなければならない。」「ハレルヤ!」
1951年ヘンリエッタ・ラックスは子宮頸がんの前身転移で亡くなった、しかし彼女のがん細胞(HeLa細胞)は培養される限り無限に増殖し、今では元々の彼女の体重を超えるほどになり医学に利用されている。それまでは細胞の培養はなかなかうまく行かなかった。これは細胞分裂の回数が予めDNAに組み込まれているためだがHeLa細胞はこの細胞分裂をカウントする仕組みにエラーがあり無限に増殖を続ける。同じことは彼女の前身へのがん転移がものすごく早いということでもあった。今ではHPVと言うウイルスが子宮頸がんの原因になることもこのウイルスがDNAに作用していることも知られている。
HeLa細胞はがんの生検時に採取され本人や家族にはそれがどういう風に使われるかは知らされていなかった。このことが後に彼女の家族を苦しめる。HeLa細胞の最も良く知られる貢献はポリオウイルスの感染の診断に用いられたことであり、他にも放射能の影響や宇宙での影響など人体実験をする前の実験に用いられている。またネズミに移植してがんが発生するかの実験などが行われたこともあり無限に増殖する不死の細胞、動物と人間のキメラなどとセンセーショナルな扱いがされ残された家族にも多くのインタビューがなされたが家族には何が起こったのか正確なことは知らされないままであった。
学生時代にHeLa細胞のことを知った著者はいつかこの物語を書きたいと思いラックス家族を追い求めて行く、やがて興味本位ではなく医学に多大な貢献をしたヘンリエッタ・ラックスがどういう人物でありどういう経緯でHeLa細胞が使われることになったかを調べることを娘のデボラはじめ家族たちに受け入れられて行く。
デボラたちに取っての真実は科学的な事実ではなく、聖書の言葉「わたしを信じるものは、信でも生きる。生きていてわたしを信じるものは誰も、決して死ぬことはない・・・」ということだったようだ。一方でHeLa細胞によって得られた莫大な利益の一部は家族のものだという者もおり必ずしも美しいばかりの話ではない。患者に無断で細胞を採取するのも現時点でも違法ではなく、一方で遺伝子が特許になる時代に提供者には何の恩恵も無いと言うのは釈然としない話だ。
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医学の進歩の過程も分かり、科学者も医者も、それ以外の人たちも面白いと思える作品。
1950年くらいだと、首をかしげたくなるような治療がされていたんだってことが強烈に印象に残った。70年でこんなに医学が進歩するんだから、私がおばあちゃになったときには医学界はどのように進歩するのだろうか?ちょっと楽しみ。
偶然が重なったり、色々な要因が重なって、ようやくこの細胞が産まれた訳なのだけれど、その根底には黒人差別や人権の無視もあったんだって思うと複雑な気持ちになる。
今は同意書がないと治験が出来ないので、医学の進歩にとっては足かせになっているけれど、それでもやっぱり人としての倫理は大事だと思う。
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装丁とタイトルはニューエイジかトンデモを想起させるが、中身はそれほどぶっ飛んだ内容ではないし、当時の差別による医療の格差の話など考えさせられる記述もある
ただしガン細胞の培養と増殖を不死にみたてて擬人化させた言動を強調するのは、あまり褒められた内容ではないとも感じます
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細胞の話、というよりは、所有のお話。人類に多大な貢献をした細胞の持ち主家族に利益が還元されるべきだという意見、知的財産権とか、あるいは人体をめぐるマーケット。
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不死細胞ヒーラ、その細胞の(本人は知ることなく)提供者となったヘンリエッタ・ラックス及びその家族の人生を綴った本
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◆読んだきっかけ
少し前に、癌つながりで2冊の本を読んでいました。
・『「余命3カ月」のウソ』
本屋で見かけて手にしたもので、「癌は治療しないほうが余命が長くなる」という主張をする先生の本です。(マユツバだそうですが)
・『打ちのめされるようなすごい本』
「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」という言葉が目に留まって購入しました。ロシア語通訳者であり作家でもある女性の書評日記です。
こういった本を読みながら、癌や生死について考えていたときにふと、「自分の精神以外の部分が永遠に生き続けること」について思いつきました。自分の死後に細胞だけが生き残っていたら、それは自分であって自分でないのか…。哲学は苦手ですが、そんなことをふと思ったのです。
・人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか
・もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか
これを解決してくれる本を探して見つけたのがこの本でした。
読んでよかったです。新しい世界を見ることができました。
◆本書の概要
この本では、章ごとに以下のトピックのどれかが登場し少しずつ全容が明らかになっていきます。章ごとに年代や主要人物が変わるので、まるで小説のようです。
・著者がこの本を書くまでの長期にわたる取材記録
・不死細胞ヒーラの持ち主であるヘンリエッタの人生
・ヘンリエッタの時代の医療、科学、法律
・ヒーラ細胞の功績や影響
・ヘンリエッタの子孫(特に著者と深く交流した次女のデボラ)
・現在の医療、科学、法律
翻訳書ですが、不自然な訳もなく、堅苦しくなく、読みやすい本でした。高学歴ではないヘンリエッタの家族のためにも、原著自体が読みやすいように書かれているのかもしれません。
著者はこの本を書くために人生の大半を費やしたそうですが、よくこんなに調べ上げて、よく体系立てた文書に落とし込めたものだと感服します。読み終わったあと、『白夜行』の読後のような、ふわふわとどこかへトリップした感じを抱きました。
ヘンリエッタやデボラのヒューマンドラマとして読んでもいいし、黒人に対する差別の歴史として読んでもいいし、科学や医療の発展の歴史として読んでもいいと思います。
「科学・医療の進歩 vs 人権・プライバシー・倫理」に関する双方向の意見は考えさせられます。
◆読書前&読書中に浮かんだ疑問と解答
Q. 人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか
ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性の癌細胞が生き続けている。
(ということをあらすじ及び序章で知りましたが、この本で尚も「癌」について触れることになるとは思っていなかったので、少し衝撃を受けました。)
Q. もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか
体外で生き続ける細胞というのがそれ(1950年頃)までなかったため、ヘンリエッタの不死細胞(ヒーラ)はとても貴重な大発見だった。増殖し続ける彼女の細胞は世界中の研究者に分配され、さまざまな研究に役立ってきた。現在ヒーラ細胞は重さ5千万トン(推定)を超え、大半の人がその恩恵を受けている(ポリオワクチンとか)。
家族にとっては母親がまだ生きているような不思議な感覚がある。遺体を解剖されるのを嫌がる気持ちに似ていると感じた。研究者は細胞の持ち主のイニシャルをとって「HeLa(ヒーラ)」と呼んでいるので、持ち主の人生や人格まで考えを及ばす人は少ないようだ。
Q. ヒーラ以外に不死細胞はあるのか
同じく持ち主のイニシャルをとった「A.Fi」「D-I Re」などと呼ばれる細胞が後年発見されたが、ヒーラのように大量増殖していない。
正常な細胞はあらかじめ決まった回数分裂すると死ぬようにプログラムされている(ヘイフリック限界)。ヘンリエッタの癌細胞(ヒーラ)にはその回数制限がないため死なない。現在の技術では、正常な細胞をある特定のウイルスや化学物質にさらせば人工で不死細胞を作り出すことができる。しかしヘンリエッタの細胞のように自力で不死化する細胞はほとんどない。
Q. 売買される細胞の印税のようなものが持ち主や家族に支払われるのか
一切支払われない。さまざまな議論があった(今もある)が、法的には持ち主を離れた細胞についてとやかくいう権利はない。
奴隷時代の名残りがあったせいで、当時黒人は病院にかかりづらかった。無料で診てもらえる福祉サービスもあったが、患者に内緒で人体実験をされることも多かった。そんな研究で得た収益の還元なんてあるはずもなかった。
Q. ヒーラ細胞は癌細胞なので、バイオテロができるのではないか
ネズミにヒーラ細胞を注射した実験によると、ネズミは癌を発症する可能性があるようだ。人への感染の可能性は不明。
白血病の女性十数名に対し、内緒でヒーラ細胞を注射した研究者がいた。当時は患者である被験者に同意を取らない実験が横行していた。癌を発症した患者がいたが、もともと癌を持っていたようだ。
健康体への実験では刑務所で被験者が募集されることが多かった。罪滅ぼしのために受けたりするようだ。健康な被験者は癌を発症しなかった。
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凄まじい。科学、法律、倫理、人種、貧富、そして人間の感情が入り込むから一筋縄ではいかない壮絶な歴史が綴られている。科学の発展という栄光の陰にある生々しい事実を知らされる。この分野に詳しくない人間でも、この本を手にすれば引き込まれてしまう世界がある。
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もし自分の細胞が知らぬ間に世界中の研究機関で無限に増殖させられ、様々な実験に使われていたらどう思うだろうか。
日常のいざこざの中に宇宙規模の不思議さが混ざる。
この本は実際にこんな経験をした一族のドキュメンタリー。
著者の人柄と取材能力に感服した。
自分の細胞はもう自分ではないのか。自分から切り離された細胞とは何なのか。
自分とは何なのか。
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ヒーラ細胞をご存知でしょうか?1951年黒人女性ヘンリエッタから、本人や家族の同意もなく採取されたがん細胞は、医学の発展に大きな貢献をしていきます。このドミュメンタリーの背景にある様々な社会問題、医療倫理の問題があり、とても多面的な内容を包括している本でした。