投稿元:
レビューを見る
科学が好きという人に出くわすことは、少なからずある。しかし、一口に科学と言っても、その範囲は広い。学校で習った範疇だけでも、物理、化学、生物、地学とあるし、書籍のジャンルにおいても、量子力学、宇宙学、地層学、進化論、遺伝子、認知科学と実にさまざまだ。
その中でも、化学が好きという人には、めったにお目にかかることがない。自分自身のの経験を振り返っても、「水平リーベ僕の船・・・」に始める元素周期表や、モル計算には、壮大さやロマンを感じることはなかった。
本書は、そんな化学の暗いイメージを払拭してくれる有り難い一冊。元素周期表をインデックス代わりに、人類史を読み解くという試みなのだ。化学がいかに社会に密接に関係したサイエンスであるかを、エキサイティングに紹介している。
◆本書の目次
第1部 オリエンテーション - 行ごとに、列ごとに
第1章 位置こそさだめ
第2章 双子もどきと一族の厄介者 - 元素の系統学
第3章 周期表のガラパゴス諸島
第二部 原子をつくる、原子を壊す
第4章 原子はどこでつかれられるのか - 「私たちはみんな星くず」
第5章 戦時の元素
第6章 表の仕上げ・・・・・・と爆発
第7章 表の拡張、冷戦の拡大
第三部 臭気をもって現れる混乱 - 複雑性の出現
第8章 物理学から生物学
第9章 毒の回廊 - 「イタイ、イタイ」
第10章 元素を二種類服んで、しばらく様子を見ましょう
第11章 元素のだまし手口
第四部 元素に見る人の性
第12章 政治と元素
第13章 貨幣と元素
第14章 芸術と元素
第五部 元素の科学、今日とこれから
第16章 零下はるかでの化学
第17章 究極の球体 - 泡の科学
第18章 あきれる精度を持つ道具
第19章 周期表を重ねる(延ばす)
科学系の読み物で、読んでいて面白いと思うのは、特定分野に閉じたものというより、突き詰めていったその先が、他の分野と密接に交わりあうようなものであることが多い。例えば、進化論が宗教と密接に結びつくような話、地質学の中に太古の歴史を見出す話、あるいはロボット工学の中で、人の意識や知性と結び付くような話も、その類であるだろう。
本書の内容も、そんな例にもれない。「周期表は人類学の奇跡」とまで言う著者の手によって、周期表の中に、詐欺、爆弾、通貨、錬金術、政治、歴史、毒、犯罪、愛までが見出だされている。
そもそも、この元素周期表、設立に至るまでの最大の立役者は、本書の表紙も飾っているメンデレーエフという人物である。メンデレーエフは生涯を通して、元素の感触や臭い、その反応についての深い知識を得ていた。また、表の改訂を執拗に繰り返しており、常に自室で化学版ソリティアにふけっていたという。そして、何より重要だったのは、表でまだ元素が見つかっていないところを空欄とし、新しい元素の発見を予言したということにある。
元素周期表の配置には、もちろん意味がある。各元素は��概ね左隣の元素より電子を一個余計に持っているほか、縦列は似たような系統のものが並んでいる。一番右側の列をなす元素は、希ガス。その隣には、ハロゲンと総称される反応性の高い気体。一番左端は、最も過激な元素アルカリ金属と言った感じである。ちなみに、右半分の中央下あたり、ここが毒の回廊の中心部だ。カドミウム、その一つ下には水銀、そのまた右にあるタリウム、鉛、ポロニウム。周期表は、数々の高揚の瞬間を演出するばかりではなく、人間の最も醜く残虐な本能にも訴えてきたのである。
強国の蹂躙が科学をもゆがめうることは、二十世紀には最高の史実が揃っている。第一次世界大戦が始まると、ドイツ軍はユダヤ人のハーバーを毒ガス戦部門に起用した。臭素や塩素を使った研究をしていたハーバーは、ツィクロンAを開発し、効率の良い第二世代ガスを開発した。後にナチスが実験を握ると、ユダヤ人のハーバーは追放されるのだが、彼の研究成果は、何百万というハーバーの同胞に使用されてしまうのである。
また、昨今すっかりイメージの悪くなった放射性物質の話題にもことかかない。ウランという最も重い天然元素に関する研究でノーベル賞を受賞したキュリー夫人は、ウラン精錬する実験をしたのち、残った廃物からウランより圧倒的に強い放射能を持つ未知の元素を発見する。ポーランド人であった彼女は、当時存在しなかった祖国の名にちなみポロニウムと名付けたのである。しかし、彼女の思惑には沿わず、世間の注目は彼女の下世話な私生活ネタにばかり注目が集まってしまったそうではあるが。
本書を読むと、化学は覚えるものではなく、理解するものだということがよくわかる。そして化学と他のジャンルが交錯するポイントでは、常に予想もつかない化学反応が起こっている。少なくとも元素を取り扱う領域のステークスホルダーは、すべからく先人たちの教訓を踏まえ、畏敬の念を持って、判断にあたるべきであろう。
投稿元:
レビューを見る
元素周期表に沿って、その元素を発見(?)した人のエピソードや、元素表自体の変遷などを軸にした、読む化学史。
副題は「最も簡潔な人類史」とあるけれど、一般的にはやっぱり化学史だと思います。
それぞれの章は、面白く読めましたが、やっぱり私には周期表の美しさなんて理解できませんでした。一つ一つの発見に、感動しる化学者たちに感心はしたけれど、なんでそんなに感動するのかが理解できない、あっぱれ文系女子です。
この本で、もっと感動したかった。感動できない自分が残念。
投稿元:
レビューを見る
元素にまつわる裏話を紹介する軽妙な科学史の本。
表題の「スプーン」は、周期表上でアルミニウムの下に位置するガリウムを用いたいたずらに由来する(原題は”The Disappearing Spoon”)。ガリウムは融点が低いため、ガリウム製のスプーンを紅茶に添えると、ティーカップの中でスプーンが消えてしまい、客がびっくりするというわけだ。ガリウム製のスプーン、なんてのがどのくらい手に入りやすいのかはよくわからないが、このいたずらの模様はYou Tubeで見ることが出来るらしい。
ただ、本書は、こうした表題から想像されるように元素そのもののトリビアを挙げているというよりも、人間ドラマを描いた部分が多い。
元素発見にまつわる順番争いのドロドロや、放射性同位体に関する誤解、アクの強い化学者の話など、著者独特のシニカルでユーモラスな筆致で語られている。
キュリー夫人が実は魔性の女だった!?とか、ラザフォードがうまく立ち回ってケルヴィン卿のご機嫌を取ったとか、あまりに軽くコミカルに描かれていてほんまかいなと思う部分もある。が、科学者たちの駆け引きを見てきたように身近に感じさせる語り口は、ちょっとゴシップ誌を読んでいるようでもあり、楽しさはある。
南極探検のスコット遭難に関する話や、タイムリーなキログラム原器の話などは興味深かった。
数式・図をほとんど使わずに(いや、もちろん周期表自体は収録されていますが)化学的背景の説明をするというのも相当チャレンジングだったのではないかと思う(でも、d軌道、f軌道の話など、図を使った方がわかりやすいのでは、と思う部分もあり・・・)。
*第10章、サルファ剤発見の場面で、発見者ドーマクが死にそうな娘に注射するのが「血のような色をした血清」っていうのは変じゃないかなぁ・・・? 血清が赤いってどういうこと? サルファ剤であるプロントジル(赤色)と取り違えているのでは? それとも血清にサルファ剤を溶かしたってこと・・・? 原文はどうなっているのか、ちょっと気になる。
**原文、当たってみた。"...began injecting her with the blood-colored serum"だった。・・・うーん。やっぱり血清にプロントジルを混ぜたってことなのかな・・・? 血清療法の血清にプロントジルを混ぜてみた、ということだろうか。
投稿元:
レビューを見る
「世界で一番美しい元素図鑑」を読んだ時に感じた「もっと深い知見が読みたいので、同じようなコンセプトの本がもっと出ないかなあ」という思いにズバリ応えてくれた本。
逆に挿絵がもっと欲しいくらいだが、元素図鑑の方で食い足りなかったエピソード、知見が満載で満腹。
投稿元:
レビューを見る
学生時代に化学の授業で習った元素周期表は、テストの問題を解くために使うものというくらいの認識しかなかったように思います。この本は、元素周期表の成立の歴史と化学に纏わる様々なエピソードを集めたものです。元素というのは、実は日常生活のあらゆる物質を構成する基本単位であり、現象は化学的な要素で説明がつくものが多い。例えば東日本大震災後の放射性元素の影響は、関東・東北に住む人にとって日常の話題になっており、日々新しい名前の元素がニュースになっていることでもわかります。
筆者は化学を専攻しながらも、化学史や化学を発展させた人物に興味を持ち、いろいろな面白いエピソードを紹介しています。スペースシャトルは、2度の事故で14名の宇宙飛行士を失いましたが、その開発段階で2名の作業員が亡くなっているのはあまり知られていない。その原因が、空気の成分として含まれている窒素だったというエピソードは意外でした。過剰な酸素同様、窒素も人間にとって危険になることもあるという事例です。
また、南極点一番乗りを目指したスコット隊が遭難した理由は、燃料を保管していた錫の容器にあったかもしれないという推測も面白い。錫は16℃以下の環境に置かれると、脆くなる性質があり、その知識がスコット隊に無かったことが燃料不足による悲劇につながったと考えられる。
この本の内容は大変解りやすいのですが、エネルギー関係の話になると昔学校で習った知識ではやや理解できない部分もありました。できれば、高校レベルの化学の知識があったほうが、解りやすいかと思います。
投稿元:
レビューを見る
アルミニウムは発見当初貴金属に分類されていたとか、リチウムは精神安定剤として使われていたとか、ティコ・ブラーエの義鼻は銅でできていたとか、俵万智の親父はコバルト磁石の研究をしていたとか(解説に書かれている話題だが)、とにかく元素にまつわる雑学がこれでもかというくらい詰まっていて、読了すると妙に博学になった気分になれる本。しかし年季の入った脳みそにとっては、読了後にエピソードを確認しようとしてもどこに書いてあったか思い出せず、もどかしい思いが募ったりもする。検索できるようになればよいのになあ。
投稿元:
レビューを見る
よく知られてる元素しか基礎知識がないので、何が面白いのかわからない話題が多かった。人物も知らない人が多いし(ーー;) もっと勉強ですな。
投稿元:
レビューを見る
元素にまつわる膨大なエピソードの山。周期表の成立、それぞれの元素の特徴、発見のストーリー、歴史的な事件などがこれでもかと登場する。タイトルの「スプーン」も、ある元素の面白い性質に関係している。
「世界で一番美しい元素図鑑 http://booklog.jp/item/1/4422420046」でビジュアルを補いながら読むと一層楽しめるかと思われる。
投稿元:
レビューを見る
第1部 オリエンテーション
第2部 原子をつくる、原子を壊す
第3部 周期をもって現れる混乱
第4部 元素に見る人の性
第5部 元素の科学、今日とこれから
投稿元:
レビューを見る
周期表と元素にまつわる、人類史、科学史の話。
周期表とか化学とか分からないけど面白そう、と思ったら、絶対に面白いだろうと思う。まずもって、アメリカ人のライターというのは、文章には皮肉とユーモアが必須、と思っているような節があり、この本もたっぷりと皮肉とユーモアに溢れている。読み終わった後には、数々のノーベル賞を取った、あるいは取り損ねた偉大なる科学者たちが、ずいぶんと身近に感じられる。
うちの高校では、化学教員の強固な教育哲学、あるいは個人的な趣味により、3年間のほとんどの授業が実験だった。化学は実験にあり!これはとても面白く、生徒にも大変人気のある授業だったように思う。
面白かったのだけれども、授業の終わりに慌ただしく器具の片づけを行いながらの化学式の講釈は、いまいち身につかなかった。。。本書によって、化学変化とは電子の取り合いである、と知り、また周期表の形の意味、なぜ反応に違いが産まれるか、反応しやすい物質とそうでないものの間にはどういう違いがあるのか、など、改めて納得することができた。
それから、なんといっても、人物伝の面白いこと!偉大な実績とペテン、科学者たちの人間模様、エセ科学、人知れず消えて行った真実、隠された歴史・・・Wikipediaには書いてない、誰でも知ってるあの人の意外なエピソードの数々!
陽子と中性子と電子というシンプルな材料で出来ている、数々元素たちにも、そのひとつひとつにドラマがある。
それから、あちらこちらで引用&紹介されている膨大な本も興味深い。特に面白いと紹介されているある本などは、1冊7000円で上下巻!ある意味、本書自体が危険極まりない連鎖爆弾の導火線のようだ。
もし作者が高校の化学の教員だったら、今と違う人生を送っていただろう、と思う。
一つだけ苦言をいうことがあるとすれば、最初のページの周期表。見た目の美しさは素晴らしいけれども、是非とも日本語の元素名を入れておいてほしかった。
投稿元:
レビューを見る
レビューはブログにて
http://ameblo.jp/w92-3/entry-11517254928.html
投稿元:
レビューを見る
化学の授業にこういうネタを織り交ぜてくれたら!さぞかし楽しい授業になるであろう。
銀を飲むと青人間になる。
モンテカルロsimは原爆を作るときに考案された手法。
ケイ素系生物は存在し得ない。
ウンチク盛りだくさん。覚えきれないのがもどかしい。
投稿元:
レビューを見る
サイエンスは突き詰めるとファンタジーみたいになる、ということを改めて実感した。
化学が物理、天文、政治、歴史…と、いろいろなものにつながっていくのが面白い
投稿元:
レビューを見る
文字がびっしり詰まった本だったが、ようやっと読了。元素と周期表の説明やエピソードが満載。多少専門的な内容も入ってくるが、科学者たちのどす黒いエピソードも豊富で、私のようなバリバリ文系の人でも十分読める内容になっている。題名になんで「スプーン」が入っているのか不思議だったが、本文を読んでみて納得。科学者が良く行うある元素を使ったイタズラに関係してた。と思って本書の原題を見てみてたら「Disappearing Spoon and other true tales (以下長いので略)」だったので、スプーンネタは著者も結構重視してた模様。本書は「世界で一番美しい元素図鑑」、文部科学省発行の「元素周期表」と併せて読むとより一層理解が深まります。
113番元素の命名権を日本が得た今、ちょっとでも元素に興味を持った方はぜひぜひ読んでみてください。
投稿元:
レビューを見る
面白い。科学の本なのに一気に読ませる。多少散漫な印象はあるけどもう一度ゆっくり読みたいと思う。第5部は蛇足感を感じる。