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時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 みんなのレビュー

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紙の本

東欧エキゾチカ・ファンタスチカ傑作集

2011/10/22 19:00

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 世界地図を見ると、東欧と呼ばれる東ヨーロッパというのは複雑にからみあっていること、
ため息が出るくらい、ごちゃごちゃと国が隣り合ってひしめきあっています。
過去の歴史まで含めるとこの国々がどんなに、影響しあい、争い、国境を書き変えてきたのか
ため息がまた出ます。
地図を目にして頭で考えることは可能ですが、その複雑なことの実感が遠い島国日本からは
わかないのが事実です。
かつては、東西に分かれていたドイツ、ソビエト連邦の衛星国だった国・・・それが21世紀になって
独立した国となり、それぞれの民族、言葉がある中で、編者、高野史緒さんがまず目指したのは
よくある英語版、ドイツ語版になってからの再訳を避け、直接その国の言葉から日本語に訳したという
快挙をなしとげた短篇集。

 この本の副題は「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」で、は21世紀になってからの
主に若手の東欧諸国のSFというより、副題にある通りファンタスチカという言葉の方が
ムゥドがよく伝わる作品集です。
エキゾチカ・ファンタスチカ・・・・サイエンス・フィクションという言葉よりも、異国の物語という
意味で、エキゾチカ・ファンタスチカと呼ぶほうがふさわしい。
収録されている国は、オーストリア、ルーマニア、ベラルーシ、チェコ、スロヴァキア、ポーランド
旧東ドイツ、ハンガリー、ラトヴィア、セルビア。

 今、テレビなどの世界紀行番組などがあるのでしょうが、個人的には東欧の映画というのを
逃さないようにしていた時期がありました。
ただ、東欧というのはこの本の解説でどこが明確に東欧国と言うのかはいまだに定義はされていない、
というように、映画でもその国の歴史、政治、文化背景が日本人には分かりにくいものがあるのですが、
それでも、西欧とは違う重さ、薄暗さ、独特の思想があります。
近代的な建築というより、古い石畳の街を彷彿させる映像の数々。時間は流れ去るものではなく
積み重なっていく地層のようなものという歴史の重みを感じます。

 ドイツ人ですがフレッド・ケレメン監督の映画『落ちる人』ではラトヴィアのリガという
小説の舞台になった街を舞台にしていますし、ルーマニア、クリスティアン・ムンジク監督
『4ヵ月、3週と2日』、チェコはアニメの大御所、グロテスクとファンタスティカの世界、
ヤン・シュヴァンクマイエル監督、旧東ドイツではこの本の短篇に出てくる国家秘密警察
シュタージを扱った『善き人のためのソナタ』・・・などなど一筋縄ではいかない映画が
多いのですが、その良い意味での日本にはない暗さ、真面目さ、考察についてはパンフレットなどの
補助説明、解説の助けがないとわかりませんが、とても深い余韻を残します。
だからこそ、知らない国の映画を観るのはとても興味深いことなのです。
かつて観たことのある東欧映画の数々を頭に思い浮かべながら各短篇を読みました。

 そして、編者のもうひとつの試みは、21世紀になって世界情勢が変わったこと、
ソ連邦の崩壊、東西ドイツの統一、チェルノブイリ原発事故、様々な紛争、戦争、
9.11テロ事件、そして、日本の3月11日の大震災、と刻々と変わっていく世界の姿を
東欧文学からどう読み説くかということです。
いまだに紛争の絶えない地域、国もある東欧だからこその危機感の持ち方に注目しています。

 唯一、ベラルーシの作品「ブリャハ」は21世紀ではないのですが、チェルノブイリ原発事故の
一番の放射能被害にあった村のすさんでいく様子を緊迫感ある短篇で切り抜いており、編者もあえて
SFとは言えないかもしれないけれど、こんな事態になってしまうなんて誰も想像もつかなかった
という意味ではファンタスチカではないかとあえて採用したそうです。

 未来と時間を描いたものとして、オーストリア「ハーベス・バーバム(新教皇万歳)」、
ルーマニア「私と犬」「女性成功者」、IFものとして、スロヴァキアの「三つの色」「カウントダウン」、
幻想文学としてチェコ「もうひとつの朝」、ラトヴィア「アスコルディーネの愛―ダウガウ河幻想」、
寓話としてハンガリー「盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者」、セルビア「列車」、リアルタイム危機ものとして
ベラルーシ「ブリャハ」、旧東ドイツ「労働者階級の手にあるインターネット」と実にバラエティに
富んだ選び抜かれた作品と並べ方は、SFというジャンルには納まりきれない幻想文学であり
まさにファンタスティックなファンタスチカ作品の数々です。

 チェコの「もうひとつの街」は、第一章~第七章はあらすじで、収録されているのは
第八章と第九章です。
現実とは違う、もうひとつの世界に街に紛れ込んでしまったある男が出会う人々。
その語る言葉に鋭い感受性があふれでていて、幻想的でありながら、実にリアルでクリアな
言葉の羅列で、是非、全編通して読みたいところでした。
何故、意味深な、回りくどいともとれる情景描写の言葉がこんなに胸に突き刺さるのか、
その文章力も素晴らしいものがあります。まるで酒に酔ったような陶酔感と幻覚を見ている
ような眩暈を覚えます。

 日本にはなかなかなじみのない国の作品ということで、各篇の最初に編者、高野さんの
熱のこもった丁寧な説明があり、文中の註も大変見やすいので、初めて読む国の作品で
あってもすらすらと読めます。
次々と繰り出されるエキゾチカ・ファンタスチカの世界から次はどんな世界が?と目が離せません。

 高野さんの解説は、まず、原語からの直接翻訳についての苦労と熱意が感じられます。
それぞれ別の国の別の言葉です。日本では数少ないその国の専門の人を探すところから始まり、
作品選び、訳者の選出、そして、表紙絵となったcoopers早川の印象的なオブジェは
たまたま展示で見かけてその場で表紙に使いたいと交渉したという力の入れよう。

 ハンガリーのチャイナ・ファンタジカとも言う「盛雲、庭園に隠れる者」は、ハンガリーはとても
アジア的な雰囲気を好むところがあり、中国の皇帝の庭園をめぐる中島敦の「山月記」を
彷彿させる寓話。それをハンガリー文学、原語の研究者、鵜戸聡訳では庭園の樹木を
黄楊(つげ)、忍冬(すいかずら)、躑躅(つつじ)といった漢字を駆使した美しい漢文調の名訳であって、
泉鏡花賞を勝手にあげたいような名訳となっていると思います。

 短篇集というより、どの短篇も独自の個性があって、その国や作者の詳しい解説と説明が十分あって
東欧の文学を日本にもっと紹介したい、東欧文学の深さ、文学の恩恵を伝えようという
熱意を頭でなく肌で感じることのできる、まさに傑作集です。


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2011/10/26 12:17

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2011/11/21 21:41

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2012/01/19 09:33

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2012/01/15 23:22

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2012/10/10 21:45

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2013/09/07 01:11

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