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登場するアーティストそれぞれは、作品を通して生死を考えているのではないだろうか。
そこに共感する。
桜庭一樹
物語を摂取するって、自分の価値観が揺さぶられて、死んで、生まれ変わるような経験だと思うんです。
人間は完全ではないからこそ、そんなふうに物語を読んだり書いたりして、何回も人生をやりなおしたいんじゃないんでしょうか。
人間は物語を創作したり摂取したりを繰り返して生まれ変わり続けなければ、つらい実人生を受け入れられないことがある。
是枝裕和
学校で牛を育てて種付けをして乳搾りをしようと言う所で母牛が死産してしまったんです。
みんなでワンワン泣いて、葬式もして。でも、乳牛って死産でも乳が出るんですね。その時書いた子供たちの詩や作文を読ませてもらうと「悲しいけれど乳をしぼる」とか、「悲しいけれど、牛乳は美味しい」とか、悲しみの経験をしたあとの文章には、明らかに以前と違う複雑な屈折がありました。
結果的に、僕はそういう脱皮の過程というか、喪を媒介にして人間が輝く姿に引き寄せられたのだろうと思います。
平野啓一郎
通俗的なトラウマ説に囚われて、「親がああだった」「環境がこうだった」と過去と現在の因果関係のみに自分を閉じ込めて、未来の可能性を奪われてしまっている人が多いのではないか。そうした過去に対するりかいの仕方は、日本社会全体を覆っているように思います。
でも、そうやって過去にがんじがらめに縛られているのは、小説で言ったらまだ全体の三分の一時点で「もうおしまいだ」と絶望的に浸っているようなものです。
小説の後半側から見れば、つまり現在を未来から見れば、目詰まりをおこしているかに見える状況も動き出すのではないか。
~ミスをして嫌になる。何のために生きているのかわからなくなる。でも、もしも今日と明日がつながっていれば、「今日は死ねない」となるはずですから。『ドーン』では、その「行きたい」と思える今日を探したんです。人とのつながりや、偶然見かけた光景といった、合理性だけではない恩寵のようなものと交わらなければ人間の回復はないのではないか。
そして、それ以外にも共感した内容がある。
渋谷陽一
自分でフェスに出かけた時の待ち時間にはすごいストレスを感じていましたからね。入場に
二時間もかかるなんていやだったんです。その結果、入場ゲートは八個もあれば充分ですと言われたところを三七個もつくりまして、五分で入場を完了させました。
トイレも一〇〇個で充分と言われましたが、イベンターの人には、
「あなたは関係者用のトイレしか使ったことがないんでしょう?おれはトイレに並んでイライラしてたんだ。おまけに年寄りだからトイレも近いんだ!」
と押し切って三〇〇個設置することにしたんです。
僕の仕事というのは、雑誌にしても何にしてもそうやって、いつも客目線で受け手やファンとしての発想を大事にしているから、仕事として成立しているんじゃないのかな。
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物語論と言うよりは、物語を生み出す舞台裏集。いろいろな作家の創作の話を読めるのは面白いが、あまりに人それぞれ過ぎて筋の通った論にはならない。と言うより、作家それぞれの物語への取り組みが違うからこそ、様々な物語が楽しめるのだろう。創作万歳。
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翻訳は究極の精読である。一字一句を揺るがせにできない中で熟読するので、すごく小説の勉強になる。翻訳をしていて一番難しいのは英語のリズムをリアレンジして日本語のリズムに変えなければならないこと。
翻訳をしていると励まされる。
一番ダメな翻訳は、読んでいるうちにわからなくなってしまって、何回も前に戻って読み直さなければならないもの。
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今週おすすめする一冊は『物語論』。インタビュアーの木村俊介氏
による17人へのインタビュー記事をまとたものです。
インタビューの対象は、小説家、映画監督、現代美術家、音楽家、
音楽プロデューサー、ウェブデザイナー、編集者、漫画家、と多岐
に渡っています。表現の手法や思想は違う17人ですが、何事かを伝
える仕事に長く携わってきたという点で共通します。では、その人
達は、どんな考えで仕事と向き合い、どのように「物を語る技術」
を開発してきたのでしょうか。
「ある分野の技術論は自然とその隣接分野の技術論につながりうる。
また、各人がほとんど人生を犠牲にして何かを開発した過程は、離
れた分野にいる人にこそ新鮮に感じられて、また新しい技術の端緒
にさえなりうる」と木村氏は述べていますが、確かに、ここに集め
られた17人がそれぞれに培ってきた「物を語る技術」は、他の分野
にも生かせるものばかりです。例えば、『課長島耕作』で有名な弘
兼憲史氏がこだわってきた「わかりやすさ」の技術は、プレゼン資
料を作る時にそのまま使える、非常に参考になるものでした。
日々の生活のリズムなど、「物語を開発する最中の細かい隙間」に
ついて意識的な木村氏のインタビューのお陰で、作品世界だけでな
く、生活世界までを含めたその人の人生観や生き方に触れられるこ
とも本書の大きな魅力となっています。当たり前ですが、見かけの
イメージとは裏腹に、彼・彼女らはとてもストイックな生活を送っ
ています。物語のネタを集めたり、自分の技術を磨いたりするため
に、日々の生活の中で、本当に細かい努力を積み重ねているのです。
これだけ著名な方々がこんなにもストイックに、しかも、こんなに
も些細な努力を積み重ねて生きている。そのことを確認できるだけ
でも、本書を読む価値はあるでしょう。
一番感じ入ったのは、多くの方が、他人と自分を比べたり、他人と
勝負したりする考え方をどこかの段階で捨ててきているという事実
でした。戦う相手は他人ではなく自分。人のことを批評している暇
があったら、自分の作品を完成させる。他人は貶めるより、尊敬し
たほうがうまくいく…。多くの方が、紆余曲折を経て、最後にはそ
ういう境地に辿りついているのです。一流になるとはこういうこと
かと、改めて教えられた気がします。
17人の語る言葉はどれもとても味わい深く、物を語る技術のみなら
ず、生き方を考える上でも大変に示唆に富んでいます。絶対的にお
すすめの一冊ですので、是非、読んでみてください。
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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
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僕はもうかれこれ30年も小説を書いてきたことになりますけど、ほ
んとにまだ発展途上だと思っています。だから、他人のことをとや
かく言えるような余裕はまったくないんです。目の前にある、今、
自分が書いている小説のことだけで精一杯ですから(村上春樹)。
バブル崩壊のあとの時代に、日本人は経済のことしか問題にしなく
なった。まあ、それは、日本人には自然な在り方でしょうけど。日
本人は、面倒なことを考えなければならない時に、いつも商売をす
ることでかわしてきたんですから。日本の近代はどのように達成さ
れるべきか、なんてむずかしい問題にしても、実際に日本人がやっ
たのは、富国強兵と言い、殖産興業と言い、商売なんです。
戦後にも同じことが言えます。思想的な対立もあったけれど、日本
の復興は基本的には商売として達成されてきました(橋本治)。
「平成」と書かれた紙を小渕が掲げたら、隣にいた中国人のともだ
ちが「ピンチョン!」と言って…。あ、平成(ピンチョン)時代が
はじまったんだと思いました(島田雅彦)。
忘れることは「忘れさる」ことではなくて、いろいろなものが時間
を経て変容していくことだと思う。その変容をどう受けいれていく
かなんですね。生きることは、忘れながら前に進んでいくことでも
あると思っています(重松清)。
僕にとっての出発点は、自己表現をしたいというよりは、映像を媒
介にして世界と出会ってものごとを考えてみたいということ。(…)
僕は、自分が「ものを考えるために映像を必要としている人間」だ
とは自覚しています(是枝裕和)。
まったくの無名で仕事に絶望していた頃の自分というのは、状況が
悪かったわけではないんですよね。周りに流されて卑屈になってい
た自分自身がダメだったんです。だって、「俺なんて…」と思って
いる奴の演奏を聴きたい人なんていませんから。「聴いて欲しい!」
という真剣な思いがなければ、音楽は伝わりません(根岸孝旨)。
僕が仕事をしていて「そうなると怖いな」と思うのは、目の前の雑
務に追われて、同じ方法を繰り返してしまうことです。そこで、長
い時には半年ぐらいはあえて仕事をなくして、表現方法の開発だけ
をやる時期を作るようにはしていますね。
仕事の締め切りがないからのんびりするかというと逆で、ここでい
ろいろとチャレンジをしてみても収穫がなかったらどうしよう、と
むしろかなりピリピリするんですよ(中村勇吾)。
人を倒したいなんて思ってもダメなんですよね。そのうち徹夜で締
め切りに追い詰められると、そんなことは言ってられなくなって、
結局、自分との戦いになるんです。むしろ、ほかの作家さんたちを
尊敬するスタンスでやっているほうが、いい漫画を描けるような気
がします(荒木飛呂彦)。
そもそも、どういう描線を描くのかという「選択」で漫画はできて
いて、読者はそういう作者の「選択」を信頼して漫画を読みはじめ
るわけで、その描線における感覚の交流を楽しみにしているわけで
す。漫画家が一生懸命にその「一本の線」を選んでいない、とか、
他の人に描いてもらっている、とかいうことになってしまえば、す
ぐに「選択」の底の浅さを見破られて、他のもっと厚みのある表現
に読者は集中するのではな���でしょうか(かわぐちかいじ)。
漫画には、たとえば電車の中でいつでもどこでもスッと開いたらす
ぐにその世界に入り込める「圧倒的な敷居の低さ」という他にない
武器があるんです。その「わかりやすさ」のためには、セリフな削
りに削って骨子だけに留める、ムダなセリフは捨てる、というのを
心がけています(弘兼憲史)。
うんと若い頃には、おもしろいものさえ描ければ売れなくたって構
わないとも思っていたけど、そのうちに、そもそもおもしろい漫画
を描き続ける時間を確保するためには、まずは売れて生活を安定さ
せなければならないとわかりました(うえやまとち)。
書きはじめた頃は「したいこと」と「できること」で精一杯でした。
「したいこと」と「できること」は自分の中で完結する話ですけど
「すべきこと」というのは、読者とのコミュニケーションの中でし
か考えられない(平野啓一郎)。
「世界はこんなにも酷くて、人間は愚かなんだよ」というようなこ
とを、フィクションを通じて伝えることには違和感を覚えるように
はなってきているんですよ。そんなことはみんな知っていることだ
と思うんです。(…)
かと言って、「人間は素晴らしい」「未来はバラ色だ」みたいな話
も、僕には信じられなくて、(…)だから、その中間あたりを書き
たいんです。ウソでもいいから、ハッピーなものを、でも、白けな
いものを。(…)格好いい音楽を聴くと、もしもそれが悲観的な歌
詞であっても「よし、今日も仕事に行こう」とかなるじゃないです
か。たぶん、それに近いんです。(…)
栄養剤になってほしいとか元気を与えたいとかって言葉は胡散臭い
ですし、そういうものともまた違うんですけど。「作りもの」の効
用ってそういうのだと思うんです。音楽も映画もいい作品に接した
ら「あんなすごい世界を見てきたのだから、仕方がない、仕事をや
ろう」とか思うわけです(伊坂幸太郎)。
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●[2]編集後記
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娘の風邪が感染り、辛い週末を過ごしていました。
遊んであげられない娘は大不満。休日くらいは父親がきちんと相手
してあげないといけないわけですが、何せ身体が動かない。「風邪
だから寝かせて」とお願いしても、「遊ぼうよ!」と泣きつかれ、
大変でした。
ほんと子育てって体力勝負ですね。おちおち風邪もひいてられない。
そういえば、「風邪なんてひいてられないわよ」というのは母の口
癖でした。実際、物心ついてから、母が風邪で倒れている姿という
のは記憶にないのです。本当に丈夫な人でした。
でも、今考えると、専業主婦で、夫は仕事に明け暮れ、休日もゴル
フでしたから、三人の子どもの面倒を彼女一人で見ないといけない
わけで、「絶対に風邪はひけない」と相当に気を張っていたのでし
ょう。また、多少調子が悪くても、無理をし、気合いで直してい��
のだと思います。
五年前、母の膵臓がんが末期で発見された時、医者からは、何十年
もかけて育った癌です、と言われました。心身の不調を訴えること
ができず、全て自分の中に貯め込んできたからこその癌だったので
しょう。長年の無理が最後に癌という形で出たのだと思いました。
母が生きていたら、「風邪で寝込むなんて甘いわよ」と嫌味の一つ
も言われていたことでしょう。「休め」というサインだと思いつつ、
自らの体調管理の甘さを反省もした週末でした。
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よく知らない人は読む気がせず、知っている人は物足りない。
目次の方がいいかも。
俺なんて・・という音楽を聴きたい人はいません。
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2012/1/19読了。
それぞれの分野によって、アウトプットとインプットの方法、世界との関わり方に差があって非常に興味深い。それぞれのイメージに自分を投影することで、現在地が少しだけ明確になった気がする。
個人的には、伊坂さんに関する長い記述だけでも読む価値があった。ただし、限られた著作や商品に対するインタビューではなく、全体を振り返るようなインタビューを読んでみたかった。
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小説家,漫画家,映画監督など,表現者17人に対するインタビューの内容を書いた一冊。
表現のアウトプットまでの道のりや,作者がどのように考え,どういった思考過程で作品が生み出されるのかということを垣間見ることができる。
伊坂幸太郎氏のインタビューだけでも読む価値はあります。
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前半ものすごく興味深かったのだけど、後半からはあんまり面白くなかった。それぞれさまざまに考えながら書いてるってのがよくわかってよかったです。
社会/環境の中で培われてきた固有性というのがちゃんとあるんだなと思わされた。
物語論っていうタイトルから、もうすこし内容的にかためのものを期待したのだけど、思ったよりインタビュー内容の自由度が高い。「なにを/どんなことを考えながら作品を作っているか」が書いてある本なので、タイトルだけみて購入すると肩透かしをくらうかも。
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それぞれ各分野の作家がどのように物語を紡ぐか?といったキャッチコピーに惹かれて読んでみたけど、正直期待はずれな感じは否めない。
平たく言えば、各作家の思想を端的に表したインタビュー集といったところでしょうか。
自分がもとめてたものとはちょっと違ったのが残念でしたね。
あと、知らない作家さんは読み飛ばしてました^^;
村上龍いわく作家とは最後に辿り着く職業らしいですが、それでも憧れますよね!
自分の作品が何万といった人々に読まれ、心のどこかに残るなんて冥利に尽きるじゃないですか。
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人の話を聞くのは好きな方だと思う。テレビでも対談、鼎談、トーク番組は見る機会が多い。これまでも対談、討論?集は読んだことがある。
「物語論」という題名(テーマ)にひかれて読んだが、うまくのめり込めなかった。正月休みの酔った頭で読んだせいもあるが、著者の意図(インタビューした人の言葉を立ち上がらせるために、著者の質問を省略したこと)がうまく機能しているようには思えない。逆にメリハリの無い文章の羅列になってしまっていないか。伊坂幸太郎のインタビューは長文であるにもかかわらず、内容を良く理解できたのは偶然だとは思えない。
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杉本博司
デビューの方法だけは、「上から順番に降りていこう」と決めていました。下から這い上がるって、何でもほとんど無理じゃないですか。だkら、一番上からプレゼンテーションすればいいし、もしダメなら少しずつ降りていこうと決めて、いきなりMOMAにプレゼンに行きました
芸術ってあとづけで価値が生まれるものなんですよ。アルタミラの洞窟に壁画を描いた古代人は芸術なんて意識しなかったでしょうし、芸術とはあとで名札がつくものなのです
中村勇吾
ウェブデザインの仕事にとってイメージの中心になるのは絵というよりはプログラミング。この仕事の面白さは、頭の中で考えているモヤッとしたイメージを、プログラミングで実行して始めて「あ、こうなるのか」と気づくことにある。だから、グラフィックデザインよりはゲームデザインにずっと近くて、ゲームの方法論を参考に作っているところもある
かわぐちかいじ
主人公はあまり喋らない方がかっこいい。方程式におけるXのように「わからないもの」であるべき。そのことによって、人物の中味や振れ幅にボリュームができてくる。だから感情の吐露なんてやらせないで、顔や目で語らせることを意識する
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(読む前の印象)
「物語が立ち上がる瞬間」について17人の創作者が語る本。
産み出す力を持つ人たちの言葉だ。
聞いてみたい。
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旬な人のインタビュー集。
こういう本大好きだし、インタビュイーもツボで久しぶりにワクワクしながら買った。
読者として、語られる「物語」について一緒に考えるのが楽しく、色々気になる言葉もたくさんあった。本棚に置いておきたい本。
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「作法があるようでない」というスタンスで対象と対峙する。「架空の生涯」ではあるが、そこに躊躇いながらも魂を込めようとする。思い切って、臓腑から逆流してくる言葉をぶちまける。「物語」というのは、科学が故意に神を語るのに対し、あくまでも「未必の故意」としてホノグラムのように神を現出させようとする。どちらかというと、ガルシア=マルケスのように、山出しの気の良さを装いながら、実は緻密に組み立ててくる作家に魅かれていたが、ここに紹介されるどちらかというと実感に寄り添って創造を試みるクリエーターたちの葛藤を見て、みんな行き当たりばったりで終わるそうだけど、終わりたくないなぁ、と振り返りながらたいがい歩いてるのが分かった。
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いろんなものづくりの方の生き方がわかった
わかりやすく、面白かった
伊坂さんのインタビューが長くてよかった
テーマにそれぞれ少しズレがあるように感じた