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紙の本
伝導の証し
2012/02/04 21:13
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2010年7月3日、国立民族博物館の初代館長を勤めた梅棹忠夫が亡くなった。『知的生産の技術』など多くの著書を発表し、市民の知的活動を後押しし続けた梅棹忠夫。生前の梅棹の影響力は計り知れないものがあったが、死してなお多くの著書が市民を知的活動へと誘っている。その最も凝縮した形のものは、国立民族博物館が2011年3月10日から開催した「ウメサオタダオ展」であろう。この特別展には閉幕までの間に4万3千人が来館したという。本書は「ウメサオタダオ展」に訪れた人たちが書きのこした「はっけんカード」を、特別展の開催に際して陣頭指揮をとった著者が感想を付けながら紹介したものである。
本書では「はっけんカード」を様々に分類し、それを章立てして紹介している。ただ、いずれにも梅棹忠夫を“以前から知っているタイプ”、“初めて知るタイプ”がいて、それぞれに思うところを書いていた。前者は特別展で改めて梅棹忠夫の魅力を見出すタイプ、自らの行動を顧みるタイプ、己を鼓舞するタイプがおり、後者には“共感するタイプ”、“感心するタイプ”、“反目しようとするタイプ”がいるようだ。
展示場には梅棹忠夫の年譜も掲げられており、特に梅棹忠夫とはじめて出会った人びとは自分の年齢と同じ年に彼が何をしていたかを確かめる場合が多いように感じた。本書にも年譜が掲載されているから、読者も同じような試みをするものと思う。このように書くからには自分でも試してみたことは言うまでもない。
経済大国になったが、尊大な心持で転落してしまった日本。ワーキングプアや無縁社会など暗い日本を表す新たな言葉が次々と生まれている昨今。日常生活に翻弄され、知的活動に身を投じるゆとりがなくなっていることは間違いない。腹をすかせて知的も何もあったものではないだろう。しかし、“知”という人間特有の活動を放棄して何が人間かという気もする。ウメサオタダオに出会い、その心情が書かれた「はっけんカード」。それをまとめた本書には、“知”の基本的な部分の影響を受けた形跡が随所に認められた。
「歩きながら本をよみ、よみながらかんがえ、かんがえながらあるく」(58頁)。梅棹忠夫が残したこの言葉に16歳の少年は魂の強さを感じ、痺れ、憧れたという。毎日の仕事や勉強、雑事に追われて身動きがとれなくとも、頭だけは自由でいたい。思索は歩きながらできるし、眠りに落ちる寸前までも可能だ。それは誰にも邪魔されないし、制限すらされない。
「ウメサオタダオ展」から何かしらインスピレーションを得たであろう人たちが書き連ねた「はっけんカード」。本書を通じて「はっけんカード」から新たな刺激が拡散していくものと予想される。鬼籍に入りながらも市民の知的活動を鼓舞し続ける梅棹忠夫の影響力の大きさに改めて驚かされる思いがした。一読をお薦めしたい、風変わりな良書である。
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